二十八ノ罪 地天激動大戰⑨ Cat Fight
夢魔と橋姫の覚醒により、VS闇の天使サキエルとの第二ラウンドが始まった。
アストの能力「幻想抱く乙女の香り」によって操られた天獸の群れは大きな波を作りサキエルへと向かう。
その中には先ほど天使の槍を模倣することに成功したレヴィーが息を潜めサキエルの心中を狙いすます。
(あたしが絶対あの天使をやっつけてやるんだから!夢魔に絶対に勝つ!)
(私が斃して、傑さんに認めてもらう!!)
(あの時、私は初めて心の底から私の、私だけの王子様を見つけた気がした)
(あたしは、気づけばあの時からアイツに惚れてたんだろうな)
((たった一人で、人々の為に戦っていたあの時から))
生前、男に人生を左右され、壮絶な人生を歩んでしまった橋姫と夢魔。
その道程につけられた死してなお消えぬ深く鋭い疵。
彼女たちは今後まともな恋愛をしていくことは不可能だと感じていた。
しかし、それはたった一人の青年によって杞憂に終わる。
友に裏切られ、家族とは絶縁され、それでもなお自分の人生を変えようとした心に優しき鬼を飼う神に背きし地獄の勇者、神嶌傑に。
彼の掛ける温かい言葉、優しい眼差しそれらは全て傷つき、疲弊した少女たちを癒すには充分過ぎる程のものであった。
自身が今まで傷つき、更には人を恨むことさえもしなかった者だからこそできた他人を思いやる気持ち。
それに彼女たちは心の底から救われることができた。
しかし、青年はとても繊細であった。
故に、そこに眠る鬼が彼を守ろうと時折、顔を覗かせる。
故に彼女たちは誓う。
彼の中の鬼が暴れた時に自分達が守るのだと。
それまで自分達は生きて生き続けるのだと。
今目の前にいる天使共を斃すのだと。
(あたしは戦う。傑の為に、自分達の未来の為に!!)
(傑さんと一緒に私たちは戦って生き返る!)
アストの周りが妖しく光り、天獸達の瞳は真っ赤に染まる。
それと同時に、天獸の肉体が膨張し、筋肉質な状態へ変化した。
『天獸の肉質が変化した……。……天使が使役する天界の生物を操り、なお今まで成し得なかった肉質変化まで行なうとはな……。悪魔は本当に、面白い……』
『あの程度の精神攻撃ではまだ嬢ちゃん達の心を破壊するにはまだ事足りなかったか。どんな過去を見たのかは知らないが、嬢ちゃんたちの人生にはそんな絶望するような経験はしたことなかったってことかな?』
「何言ってんの?」
橋姫の頬に一滴の涙が流れる。
「苦しいに決まってんじゃん!不安になってるに決まってんじゃん!絶望してるに決まってんじゃん!」
「そうです!相手の都合で私の人生はめちゃくちゃで、貴方達のせいで私の人生が突然終わって……!私の人生何一つ良いことなんて無かった!!」
「だけど!」
「それでも!」
「「そんな絶望だった自分を救ってくれた人がいたから、ここまで来ることができた!!」」
「「だから、自分の為だけじゃない、あの人の為にもあたし(私)はたった死ぬ前の絶望一つで立ち止まってる場合じゃないんだよ(です)!!」」
「「私はあの人に惚れられるまで死ね(ないのよ)ないんです!!」」
アストは頭部と地上との差が1メートル近くになるまで体を下げ下半身に力を溜める。
ギチギチと内部の骨組みが擦れ合う音が聞こえ、それでもなおアストは力を溜め続ける。
「夢魔、アンタだけにいい格好はさせない。あたしも傑の為に戦うから」
橋姫はレヴィーの持つ蛇の鞭を屈むアストの下半身へと巻き付ける。
「ちょ、ちょっと何するんですか!?やめてくださいよ!」
「へぇ~、アンタの足こうなってるんだ……。も~らい♪」
アストの下半身を解析することに成功した蛇の鞭は今度はレヴィーの下半身へと巻き付いた。
すると、見る見るうちに鞭は姿を変えアストと同じ下半身へと変貌を遂げる。
「えぇ~!?ちょ、ちょっと!なんですかそれ!?気持ち悪い!マネしないでください!」
「あたしは負けるわけにはいかないのよ。天使にも、アンタにも……」
「……!!私だって、橋姫さんには負けたくありません!!」
『おいおい、戦おうとしてる相手が違うんじゃないか?お嬢さん方……』
「勿論、貴方も私たちの敵です。ですが、それだけじゃないんです!」
『己も舐められたもんだね……。仕方ない、己も本気を出すとするか……』
サキエルの周りに紫色の闘志が湯気の様にゆらゆらと炎のように揺らめく。
右手に持つ神槍で円を描く。
1つ、2つと上下左右にそれぞれ一個ずつ今にも吸い込まれそうな黒い球体が現れるとそれを天へと掲げる。
4つの球体は4か所に分かれ、それぞれが独立した動きをし始めた。
2機はそんな黒球のことは意識もせず、力を溜めた下半身で空高く跳ぶ。
大気圏内ギリギリの距離まで跳ぶとサキエルに向けてアストは左脚、レヴィーは右脚を突きだし、そのまま落下をする。
サキエルとの距離僅か5メートルになった時、突如として4つの球体がそれぞれの位置で円形へと変わり、東部エリアを吸い込み始めた。
その吸引力は凄まじく、アスト、レヴィーの2機を四方から吸い込もうとする。
『己のこれには抗いきれないだろう。このまま四方から吸い込まれ嬢ちゃん達はバラバラに引き裂かれる。耐えることはできるかな?』
レヴィーは下半身に装着している蛇の鞭の変身を解き、その鞭をアストの下半身に巻き付ける。
驚く夢魔を他所にレヴィーはアストごと振り回しサキエル目掛け放り投げた。
レヴィーが吸い込まれそうになったその瞬間、レヴィーの足に強い衝撃が走る。
アストによって操られた天獸が列をなし、レヴィーの足を噛んでいた。
天獸はレヴィーがアストを投げたと同様にレヴィーを振り回しサキエルの元へとぶん投げる。
「夢魔!アンタ憶えてなさいよ!」
「このままだと、橋姫さんは死んでましたよ!それに貴方にだけは借りは作りたくないんで!」
4つの黒い空間から放たれる吸引力はレヴィー、アスト両機のスピードを凌駕することができず、大量の天獸によって堰き止められ機能を果たさなくなった。
アストは勢い殺すことなくサキエルの元へ向かい、腹部に強烈な蹴りを一発ぶちかます。
吹っ飛ばされたサキエルをレヴィーが追撃し、蛇の鞭で掴めると後方の堰き止められている吸い込み口へ放り投げた。
ぶつかった衝撃で、詰まっていた天獸達は押し込まれ、徐々にサキエルが出した黒円の吸引が再び機能をし始めた。
休む暇もなく、夢魔はアストの下半身に力を蓄え追撃に備える。
同じく、レヴィーもアストの下半身に変化した足で力を溜める。
段々と黒円の力が増大していき、サキエルでも抗えない程の威力へ増していく。
その間、約10秒。
その短時間で、アスト、レヴィーの両者は力を溜め再度サキエルの元へ強烈な一撃をぶつける。
鈍い呻き声を上げ、サキエルは2機の蹴りを真正面から受けた。
更に、レヴィーは蛇の鞭の変身を解くと今度は両腕に巻き、サタスの武器である鬼狼ノ爪へと変化させた。
「橋姫さん!それって……!」
レヴィーは鬼狼ノ爪でサキエルの胴体を切り刻み更には黒円へ入れようと押し込む。
夢魔も負けじとアストの蹴りでサキエルの身体を黒円へと入れる。
『ふっ、ニンゲンもここまで強くなれるのか……。己はここで死ぬわけにはいかんのよ……』
そう言うと、サキエルは諦めたかのように黒円に飲み込まれアスト、レヴィーの勝利でVS闇の天使は幕を閉じた。
28話読了ありがとうございます!
今回はタイトル通り夢魔と橋姫の(精神的)バトルも書いています。
自分を助けてくれた、人々を助けるために誰よりも一番に天使と戦った傑の姿に惚れた二人。
この二人の恋の行く末にも今後注目していただけたらと思います。
次回、29話も是非お楽しみに。




