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sin僟・ザイガ  作者: HEiTO
24/26

二十四ノ罪 地天激動大戰⑤ 落ちる橋

 (あれ、ここは……)


眼を開けた橋姫の前にあったのは死ぬ直前までいたライブハウスだった。

元々バンドを組んでいた彼女はそのライブハウスに足繫く通っており、そこでバンドメンバーとライブの日々を送っていた。


客はお世辞にも多いとは言えず、多い日は30人ほど。

そのほとんどがボーカルのヴィジュアルで寄ってきた所謂、バンギャと呼ばれる人種であった。


(あ、アイツ、あたしからアキラを奪った奴だ……)


ステージの最前列にいる金髪で人一倍盛り上がっているバンギャに橋姫は侮蔑の眼差しを向ける。

そのバンギャはベースの橋姫には一切視線を寄越さず、自身の前にいるボーカルに艶っぽい視線を向けていた。


他のファンたちもどちらかと言うと艶っぽい視線を向けていたのが大半だったが、その中でも群を抜いていたのがその最前列の彼女だった。

その理由を橋姫は思い返す。


———3か月前。


その日は、ライブの打ち上げの日だった。

ライブハウスのイベントで呼ばれた橋姫たちのバンドは、初めて100人の観客の前で演奏したことで、メンバーで打ち上げをしようということになったらしい。

大半は他のバンドのファンたちだったが、彼女たちにとってはそんなことは関係なく「100人の前でライブをした」ということが大切であった。


久々にメンバー全員で飲むことになったため皆テンションが上がっていた。

各々が好きなものを食べ好きなものを飲む。

全員にとってその打ち上げはとても楽しい思い出となった。

たった一人を除いて。


打ち上げ終了後、橋姫は当時付き合っていたヴォーカルのアキラと一緒にアキラ宅へと向かおうとしていた。

しかし、そこでアキラは口を開く。


「あのさ、俺と別れてくれないか?」


突然の言葉に橋姫は一瞬理解が出来なかった。

彼とバンドを組んで5年、そして付き合い始めて約3年、このまま一緒に居ると思っていた彼女にとってアキラの言葉は衝撃的すぎるモノだった。


「俺、好きな人ができたんだ」


好きな人……?

橋姫には理解し難い言葉だった。

これまで一緒にやってきたのに、彼女にとってアキラこそが好きな人だったのに、そんな彼に好きな人ができたと言われた橋姫の思考は鈍く回転する。


(好きな人?)


(私の事は好きじゃなくなったってこと?)


(一体何が起こったの?)


頭の中で同じ言葉が無限ループする。

アキラは最後に「ごめん」とだけ言い残して、居酒屋の前に橋姫を置いて一人帰路についた。

彼女の目じりからは涙が一筋流れ落ち、空からも彼女の涙と連動したかのようにポツリ、またポツリと雨が落ちてくる。


まだ、理解が追い付いていない橋姫は、彼女を振った男の後をそのおぼつかなくなった足でゆっくりと辿っていく。

彼が住むアパートの距離約20分をその足で歩いた。

道中彼女の頭の中は彼の言葉だけが無慈悲に流れる。


そして、やっと彼のアパートに着いた時、彼女は目撃をしてしまう。

彼の部屋に入ろうとしている女の姿を。


その女に彼女は見覚えがあった。

以前から自分達のバンドがライブをするときにいたファンの一人だった。

いつも最前列でアキラの事を女の目で見ており、橋姫はそれが不快でずっと覚えていた。


「あの女が……」


橋姫はぽつりと囁いた。


それから彼女は元カレの部屋を見つめ、女が出てくる午前6時にその場を後にした。


———三か月後。


橋姫はそれでもバンドを離れることができず、元カレと同じバンドに所属していた。

しかし、二人の関係は最悪。

二人はあからさまに会話は0となり、和気あいあいとしていた空気感は殺伐していた。

他のメンバー達には二人に何がったのかは明々白々だった。

そんな雰囲気が嫌だったのか、これまで辞めなかったメンバーは一人、また一人と辞めていき、最後には二人だけとなった。


そして最後、バンドを抜けたのは橋姫だった。

橋姫が、ライブハウスを出るとそこには元同じメンバーのベーシストが彼女を待っていた。


「待ってたよ」


そういう彼の言葉に対し、橋姫は何も答えず、顔を下に俯かせたまま走り去った。


—————男の言葉は信用できない。


それは、橋姫がこれまで経験した恋愛に対して出した彼女なりの答えだった。

彼、ベーシストの言葉も彼女にとっては信用することのできない言葉の一つとなっていた。


(あたしの人生はいつでもそう……。あたしが好きになった人はみんな誰かに取られる)


彼女は今まで起きた出来事を振り返る。


初めての初恋は小学生だった。

好きだった同級生の良治君は自分が告白する前に同じクラスの女と付き合うことになった。


中学での恋愛は、好きな人と付き合うことはできたけど、二股をかけられてて結局自分は捨てられた。


高校の時は体の関係だけで本命は別にいたらしい。


(どうして、私だけがこんな思いするの?どうして?あたしの何がいけないの?アイツのどこがいいの?あたしのどこが駄目だって言うの?)


橋姫は胸を押さえ、その場に座り込んでしまう。

真実を知ってしまった彼女は呼吸が段々と荒くなっていき、それに合わせ雨の勢いが増していく。


「ハッハッハッハッ」


息は吸う量よりも吐く量の方が多くなり、過呼吸となる。

周りに助けになる人はおらず、橋姫はやがて地べたに顔をつける。


(苦しい、苦しい、苦しい)


(誰か……助けて……)


やがて、雨は雪へと変わり橋姫の身体は時間が経つごとに冷たくなっていく。

唇はチアノーゼで青紫色となり、肌も雪のような白い肌へと変化する。


(いつもあたしは2番手だった……。小学校あの時も、中学(あの)時も、高校(あの)時も……)


段々と薄れゆく意識の中で彼女は自身の過去を思い返す。

自分は決して相手の1番にはなれず、嫉妬していた日々を。

そんな彼女の瞳には明るく一筋の星が映る。

今までに見たことのない美しい輝きを放つ一筋の星。

橋姫はその星の輝きに一縷の望みを願う。


(このまま死んで生まれ変われば素敵な人に会えるのかな……。このまま死ねば……あたしを救ってくれるヒーローがいたりして……そんなわけないか……)


やがて、橋姫の瞳は光を失うと同時に、星の光に焼かれ地獄へと堕ちた。


24話読了ありがとうございます!!

今回は橋姫の過去をメインに話を書かせていただきました!

やっと、ここに来て以前から書きたいと思っていた話を書くことが出来たので、ひとまず満足しております!

皆様に大嶽丸 橋姫という女性の人となりを知ってもらえる機会になりましたら幸いです。

それでは、次回25話をお楽しみに!

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