第20話 《真実を隠した男》
歌原レイラ(28)──死まで、あと0日。
彩(15・高1)──春/5月19日。
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(探偵事務所。ブラインドの隙間から白む朝。
時計の針は6時を少し過ぎている。)
(机の上には冷めたコーヒー。
スマホが震える──画面に“歌原レイラ”の文字。)
白坂
「……こんな時間に?」
(通話を取る。)
白坂
「レイラさん? どうしました?」
レイラ(掠れた声)
『し……白坂……さ……ん……』
(ノイズ。沈黙。通話は切れず、呼吸音もない。)
白坂
「レイラさん!? 聞こえますか!」
(応答なし。通話時間だけが進む。)
白坂(心の声)
《……意識を失ってる。》
(即座にPCを開く。SNSの最新投稿を検索──)
> 『今日はロケでトーキョーフィルム第2スタジオに来ています☺️』
(位置情報アプリを照合。
地図上のピンが、同じ場所を示す。)
白坂(心の声)
《第2スタジオ……間違いない。》
(外套を掴み、事務所を飛び出す。
街は朝靄。始発を降りる人々、新聞配達のバイク。
白坂は無言で走る。)
白坂(心の声)
《一刻を争う。今すぐ動けるのは現場だけだ。》
(スマホを取り出し、撮影所の代表番号にかける。)
白坂
「第2スタジオにいる歌原レイラさんの安否を確認してください。
体調に異変が出ている可能性があります。」
スタッフ(通話越し)
『え? どちら様ですか?』
白坂
「いいから確認を。──早く。」
(通話を切り、再び走り出す。
夜明けの街が遠のく。)
白坂(心の声)
《頼む、動いてくれ……。間に合え。》
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(スタジオ搬入口。スタッフが搬入を始めている。)
白坂
「すみません! 歌原レイラさんの控室は!?」
警備員A
「……どちら様です?」
白坂
「さっき連絡した者だ! 安否確認を頼んだはずだ!」
警備員B
「ああ、あの電話の人? イタズラかと思って……たまにあるんですよ、そういうの。」
白坂
「ふざけるな! 一分一秒を争うんだ、案内を!」
(気圧され、警備員Aが頷く。)
警備員A
「三階、左奥の控室です!」
白坂
「感謝します! 一緒に来てください!」
(3人で階段を駆け上がる。
息を切らしながらドアに手をかける──)
(ドアを開けた瞬間、三人の視線が一点に釘づけになる。
鏡前の椅子にもたれ、レイラが動かない。)
警備員A
「うわっ……! 倒れてる!」
白坂
「脈を──……ない。救急車を! 三階の控室だ、早く連絡を!」
警備員A
「は、はい!」
白坂
「もう一人、スタジオ全体を一時封鎖してください。
事件の可能性があります。容疑者がまだ中にいるかもしれない!」
警備員B
「了解です!」
(警備員たちが外へ駆け出す。
無線の音と足音が遠ざかる中、静寂が戻る。)
(白坂はレイラの前に膝をつき、脈を再確認──反応はない。)
白坂
「……レイラさん!!」
(即座に心臓マッサージ。
リズムを刻むが、戻らない呼吸。
額に滲む汗。震える手。)
白坂
「レイラさん、頼む……! 戻ってこい!!」
(数分後。反応なし。白坂は静かに手を止め、唇を噛む。)
白坂
「……ダメか……クソ!」
(深く息を吐き、顔を上げる。
元刑事の目に戻り、室内を見渡す。
机の上──栄養ドリンクとカード。)
(“彩より”──その署名が目に入る。)
(反射的にカードを拾う。光に透かす。)
白坂(心の声)
《“これ飲んで頑張って”。
この一行だけ、筆圧が違う。後から書き足された跡。》
(瓶の口を嗅ぐ。微かな刺激臭。)
白坂(低く)
「……毒……。」
(通話の最後が蘇る。)
レイラ(回想)
『……彩……信じてる……。』
(白坂の拳が震える。
机の上の構図──妹を疑わせるように整っている。)
白坂(心の声)
《このまま通報すれば、彩は第一容疑者。
俺は……そうやって冤罪を作る現場を見てきた。》
(フラッシュ──灰皿の割れる音、怒号。
『証拠を作れ! 筋書きが正義だ!』
机の上でペン先が折れる。)
白坂(心の声)
《あのとき、何も守れなかった。
今度は──》
(カードを胸ポケットに滑り込ませる。)
白坂(心の声)
《レイラさん、あんたは“託した”んだな。彩を守れ、と。》
(外でスタッフの声。)
スタッフ
「歌原さーん? 出番の──」
白坂
「触るな!」
(スタッフが立ちすくむ。
白坂は震える手でスマホを取り出す。
画面に“諸星”の名。指が迷い、押す。)
(呼び出し音。短い沈黙。)
白坂
「……諸星か。殺人現場だ。被害者は──歌原レイラ。
……まだ温かい。……早く来い。第2スタジオだ。」
(通話を切る。
わずかに息が漏れ、携帯を握る手が震える。
長く見てきた顔を前に、声が掠れる。)
白坂
「……俺が、ついてたはずなのに。」
(机の角に拳を押し当て、力を込める。
軋む木の音。唇を噛む。)
白坂(心の声)
《彩を守ることが正義だと、信じ込んでた。
……その影で、あんたを見失ってた。》
(静寂。
朝光が、鏡の前で動かぬレイラの頬を撫でる。)
白坂(心の声)
《レイラさん……あなたの“信じる”を、俺が証明する。》
(遠くで救急サイレンの音。
机の上、瓶の中で朝の光が揺れる。)
──午前六時二十一分。
通報より早く辿り着いた男が、
一つの“真実”を隠した。
それが後に、自らを裁く“罪”になるとも知らずに。
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第21話へ続く
【あとがき】
白坂という男は、これまでどこか“外側”から物語を見てきた存在でした。
だが今夜、彼は初めて「中」に落ちます。
それは、正義を語る者が必ず通る場所──
“守れなかった現実”の重さを、ただ抱きしめるしかない瞬間です。
レイラを救えなかったこと。
彩を守るために真実を隠したこと。
そのどちらも、彼にとって同じ罪であり、同じ祈り。
人は、誰かを信じた瞬間から、
もう取り返しのつかない何かを背負うのかもしれません。




