表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

14/36

第14話《置き去りの手紙》





歌原レイラ(28)──死まで、あと18日。


彩(15・高1)──春、5月1日。






---




0. プロローグ




(夜の歌舞伎町。雨上がりのアスファルトにネオンが滲む。


遠くのサイレンが、街の底で微かに鳴っている。)




──光と影の狭間で、ひとつの運命が静かにほどけはじめていた。






---




1. 《Club RAZE》従業員更衣室(閉店後)




(白い蛍光灯の音。金属ロッカーの匂い。


赤西は鏡の前でネクタイを外し、乾いた指を揉む。疲労が滲む。)




(背後から軽い口笛。若いNo.2・西尾が現れ、ロッカーに寄りかかる。)




西尾


「“歌原の陽子”、来なくなったんだろ?


 あの人がいたから《RAZE》も持ってた。


 惚れた女に離れられたホストは──落ちるの早ぇよ。」




(赤西、黙って息を吐く。)




赤西(低く)


「……落ちても、立ってりゃいい。」




西尾


「家族がいるんだろ。妻と娘。


 でも、この仕事に“やり直し”なんてねぇぞ。」




(沈黙。鏡越しに見える自分の顔。


白髪が一本、光を拾う。)




西尾(声を潜めて)


「──“歌原レイラの母親”だ。


 まだ使える。金が尽きたなら、流せばいい。


 便利屋も紹介する。薬でも人でも、動かせる。」




(赤西、拳を握る。


だが鏡の中の瞳は、迷いと怒りの境に揺れている。)




ナレーション(微かに)


「誇りを失えば、生き残れる。


 ──だがその瞬間、魂は終わる。」




――黒画。






---




2. 歌原家・彩の部屋(朝)




(机の上、小さな封筒とカード。


制服姿の彩がペンを持ち、丁寧に文字を綴る。)




カードの文字(手書き)




> お姉ちゃんへ


勉強もモデルの練習も頑張ります。


いつもありがとう。








(書き終えると胸に当て、静かに微笑む。


下の余白を見つめ、ペン先を浮かせる。)




心の声(彩)


──ここに、似顔絵を描きたいな。




(時計を見る。登校時間。


小さく舌を出して笑い、封筒を鞄へしまう。)




(机のカレンダー。5月20日、赤い丸。)




心の声(彩)


──もう少しで、一緒に暮らせる。




(鞄を肩に掛け、扉を閉める。)






---




3. 玄関




(スニーカーを履く音。


その拍子に、カードが鞄の隙間から滑り落ちる。)




(彩は気づかない。足音が遠ざかる。


玄関には朝の光と、取り残された一枚の封筒。)






---




4. リビング(直後)




(ソファで寝ていた父・和人が目を覚ます。


だるそうに天井を見上げ、立ち上がる。)




和人(独り言)


「……朝っぱらからうるせぇな。


 ──こんな音も、今月までか。」




(玄関に向かう途中、床の封筒に気づく。拾い上げて表面を見る。)




和人ぼそり


「……金じゃねぇのか。」




(靴箱の上に投げる。封筒は奥に滑り落ち、見えなくなる。)




(わずかにためらい、覗き込みかけて──やめる。)




和人


「……くだらねぇ。大事ならまた書くだろ。」




(ドアが閉まる。静寂。


カレンダーの5月20日の赤丸が、朝日に滲む。)






---




ナレーション


「──誰にも届かぬまま、ただそこに残された。


 小さな“ありがとう”は、やがて運命を揺るがす《置き去りの手紙》となる。」




――黒画。




第15話へ続く

あとがき


読んでいただきありがとうございます。

第14話《置き去りの手紙》では、ほんの小さな感謝のカードが、誰にも届かぬまま取り残されました。無垢な思いが「手紙」として残るか、「証拠」として利用されるか──その差は、登場人物たちの未来を決定づけてしまうかもしれません。


物語の裏では、すでにそのカードをめぐる“別の思惑”が動き出しています。無邪気な文字の行方が、誰かの手に渡ったとき……それは愛情の証にも、凶器にもなる。後に探偵・白坂が直面する禁忌の選択は、この小さな紙片から始まるのです。


次回は舞台を変えて、歌原レイラが「個人事務所の社長」として見せる一面を描きます。華やかな表舞台だけではない、組織を率いる者としての孤独や強さ──その仕事ぶりが、妹・彩の未来にどう繋がっていくのか。ぜひご期待ください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ