表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
47/51

第45話『王宮からの招待』

春の初め、王都に静かな風が吹いた。


 それは“過去の誤り”に、ようやく陽が差したという知らせだった。


 ――アメリア・ローズウッドの名誉は、正式に回復された。


 王政局より「正妃候補としての再招待状」が彼女のもとに届けられた。


 それは、形式上の謝罪でもあり、

 王太子ルシアンの“意思”が、ようやく王政に通ったことを意味していた。



***



 「……私に戻るのね。正妃候補としての立場が」


 侍女の手からその文書を受け取ったとき、私は不思議な静けさを感じていた。


 望んでいた未来のはずだった。


 かつて一度も与えられず、処刑という最悪の形で拒まれた“正統の証”。


 けれど今――

 私は、ただそれを“紙切れ”として眺めていた。


 「お嬢様。返答は……?」


「少し待って。私は“正妃になる”つもりはないの」



***



 ルシアンはその夜、私のもとを訪れた。


 「君になら、なんでも用意する。

 王宮の中に居場所を――玉座の隣に、君の席を」


 私は首を横に振った。


 「私は、“玉座の隣”に立つだけじゃ満足できないの」


「……どういう意味だ?」


「私はこの国で、“正しさが潰されない世界”を残したい」


 ルシアンの目が見開かれる。


「だから私は、ただの妃にはならない。“立場”をくれるのなら、“力”も分けて欲しい」


「……君は、政治に踏み込むつもりか」


「ええ。女性の意見が軽んじられる世界を変えるために。

 力のない声が処刑されない未来を作るために」


 それは、かつてすべてを奪われた私が、“本当に取り戻したかったもの”。


 名誉でも、地位でもなく――

 “声を失わずに生きられる社会”そのものだった。


 ルシアンは、静かにうなずいた。


 「……わかった。

 君がその席に立つのなら、俺は君の名を、国の公文書に刻もう」


「条件があるの」


「条件?」


「“私を愛している”からではなく、“信じているから”迎えて」


 ルシアンは、一瞬だけ息を呑み――そして笑った。


 「当然だ。……君はもう、愛だけで抱きしめられる女じゃない」



***



 数日後。


 王宮にて、“第二の婚約式典”が開かれた。


 それは“失われた未来のやり直し”ではなかった。

 “新しく築かれる政治的な同盟”だった。


 私は花嫁としてではなく、王太子の“対等な同志”として、王宮へ足を踏み入れた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ