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第13話『疑惑と孤立、仕組まれた罠』

リリーの“仮面”が剥がれた。


 あの笑顔の奥にある嫉妬と執念を、私はもう正面から見据えている。

 そしてリリーもまた、もう私が“いつもの姉”ではなくなったことに気づき始めていた。


 だからこそ、次に仕掛けてくるのは――より巧妙で、より残酷な罠。


***


 事件はすぐに起きた。


 「書庫の大切な帳簿が紛失しております」


 ローズウッド家の資産管理に関わる重要書類が、ある日忽然と消えた。

 しかも、使用人たちの証言によれば――最後に書庫へ出入りしたのは、私だという。


「そんなはずはありません。私はあの日、母のもとに……」


「しかし、クララ様も同行しておらず、お一人で行かれたと……」


 証言は食い違わない。

 状況証拠は、確かに“私に不利”だった。


 冷ややかな空気が、屋敷内を覆い始める。


「……リリー……」


 前世でも私は“帳簿の不正流用”という冤罪をかけられた。

 その直後、母が倒れ、家中の実権がリリーに移ったのだ。


 いま、それが――再演されようとしている。


***


 その夜、私はひとりで厨房に降りた。


 誰もいない夜の厨房。ランプの灯りだけが、真鍮の鍋を照らしている。


 ――ここも、記憶にある。


 前世では、私はここでリリーの仕掛けた“使用人買収”に気づくのが遅れた。


 だから今回は、私の方から動く。


「……ここに隠すと思ってた」


 床下の隙間板を持ち上げると、中から出てきたのは、綴じられたままの帳簿だった。


 表紙には、ローズウッド家の刻印。だが中身は――捏造された支出記録。

 そして、明らかに“私の筆跡を真似た”署名。


「こんな粗末な細工で、私を貶めようとしたの?」


 笑みが漏れた。



***



 翌朝、私は母の前に帳簿を差し出した。


「これが、失われたとされていた帳簿です。そして、この署名は私のものではありません」


 母は困惑しながらも、それを受け取り、じっと目を通した。


 そして、一言。


「これは……誰かが、あなたに罪を着せようとしているのね」


 その言葉に、私は少しだけ目を伏せた。


 信じてもらえることが、こんなにも温かいのだと――改めて知った。


「お母様。この家には、内部に“敵”がいます。どうか……軽率な信頼は、なさらぬように」


「……分かったわ。あなたの言うとおりにしましょう」


 そのとき、ふとドアが開く音がした。


 振り返ると、そこにリリーが立っていた。


「お姉さま。ごめんなさい、勝手にお部屋へ……」


 その声は、いつものように甘く、柔らかく。


 けれど、その目は。


 私が帳簿を持っているのを見て――明らかに、冷たく笑った。


 ――思ってたとおり。あなたが仕組んだのね。


 でもそれを、あえて私は言わなかった。


 いま、暴くことに意味はない。


 これは、“積み重ねて崩す”戦いだ。


 その時が来たとき、あなたの居場所ごと、一気に焼き払う。


***


 夜。クララがそっと囁く。


「お嬢様、最近、使用人たちの間に“不自然な辞職”が続いております」


 リリーの手がまわり始めたのね。


 私の周囲から、支えとなる人間を一人ずつ削り、孤立させる。


 ――いいわ。それでも構わない。


 私が“誰にも頼らずに立つ姿”を、世界に見せつけてあげる。


 悪女にされても、結構。


 でも誰よりも“悪”に染まっているのは――あなたの方なのよ?リリー。



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