世界が俺の健康に潰される前に
ユウトは広間に到着すると、すでに多くの人々が集まっていた。王国の高官や軍の指導者、そして幾人かの学者たちが、長いテーブルを囲んで座っている。その中には、ユウトを一目見ようと集まった視線も含まれていた。
彼は深いため息をつきながら、席に着いた。
「ユウト・カナエ、あなたの体は、もう隠しておけない存在だ」
テーブルの向こう側から、王国の最高指導者であるアラン・ベイランが低い声で言った。彼は冷徹な目をユウトに向けている。
「あなたの健康が世界に与える影響について、私たちはすでに認識している。しかし、それが今後どう進展するか、未だに予測がつかないのが現状だ」
アランはその言葉を続け、周囲の顔を見渡した。
「他の国々がすでにユウト・カナエの体について研究を進め、データを集めている。ここで手をこまねいているわけにはいかない」
隣に座っていた魔法学院の長、サリム・フォークが顔をしかめながら言った。
「ユウトがこのまま世界の秩序を乱すなら、治癒魔法の効力が失われる恐れもある。軍事訓練をしている兵士たちが倒れるなんて事態を招きかねない」
「その通りだ」
アランが頷き、ユウトを見据える。
「だが、もしユウト・カナエの体が本当に神の器であるなら、それを利用する方法を考えるべきだ。王国としては、あなたを保護し、研究し、結果を導き出さなければならない」
ユウトはその言葉に反応して、思わず声を上げた。
「そんな…! 俺を使おうだなんて…!」
「黙れ」
アランは冷たい目でユウトを睨んだ。
「あなたの体が引き起こす混乱を防ぐためには、王国としてあなたの力を使うしかない。それを拒否するという選択肢はない」
その瞬間、部屋の中の空気が一変した。ユウトは思わず立ち上がり、顔を真っ赤にして反論しようとしたが、すぐにフィリカが手を挙げて制止した。
「アラン殿、少し冷静にお考えください」
フィリカが落ち着いた声で言った。彼女はユウトの隣に座り、彼に微笑みかけた。「ユウトの体は、神の呪いだとおっしゃいましたが、それが本当に破滅的なものかどうか、まだわかりません」
「その通りだ」
ノイが加わる。
「私たちが調査を続け、ユウトの体に秘められた力を解明することが先決だ。このまま利用しようとするのはあまりにも危険だ」
「では、どうするつもりだ?」
アランは眉をひそめてフィリカを見つめた。「今のままでは、どの国に引き渡しても、結局ユウトは争奪戦の対象になるだけだ。私たち王国が手を出さなければ、他の国が先に動き、最悪の事態を招く」
フィリカは一瞬黙った後、ゆっくりと口を開いた。
「それなら、私たちがユウトを保護し、彼を導く方法を見つけましょう。今はその過程を慎重に進めるべきです」
彼女はユウトを見つめながら、彼の手をそっと握った。
「ユウトがどのような力を持っているのか、まだ誰もわからない。だから、焦って結論を出すべきではないわ」
ユウトはその言葉に少し安心したように見えたが、それでも心の中で葛藤が渦巻いていた。自分が持つ力が、こんなにも世界に大きな影響を与えるなんて、考えもしなかった。彼は自分の健康が他の人々を苦しめ、世界を混乱させていることに責任を感じていた。
その時、部屋の扉が急に開かれ、一人の神官が慌てた様子で飛び込んできた。
「大変です! 王国外から使者が来て、ユウト・カナエの体について詳しく知りたいと言ってきました! どうやら、他国の連携で動き始めたようです!」
その一言に、会議室の中は一瞬でざわついた。ユウトの体についての争奪戦が、ついに本格化したことを意味していた。
「やはり、時間がない」
アランは冷徹な表情で言った。
「ユウトを守るために、私たちが最初に手を打たなければ、他の国々が先に動くのは時間の問題だ」
フィリカは深呼吸をし、再びユウトを見つめた。
「ユウト、あなたがどの道を選ぶにせよ、私たちは一緒にいます。あなたが元の世界に帰るために、私は手助けを惜しまない」
ユウトは少し考え、そして決心したように言った。
「わかった。俺は、まずこの体の力を解明して、それをどう扱うかを考える。そして、最終的には俺が選んだ道を行く。誰かに決められることではない」
その言葉に、部屋の中の人々は一瞬沈黙した。しかし、ユウトの決意が感じられたのか、フィリカやノイは優しく頷き、アランも不満そうにしながらも、それを受け入れた。
「それならば、私たちも全力でサポートする」
ノイが言った。
「ユウト、あなたの体に秘められた力を解き明かすために、一緒に進んでいこう」
ユウトは深く息を吸い込み、立ち上がった。
「ありがとう。俺がどう選ぶか、それがこの世界をどう動かすのか、俺自身が決めることだ」
その時、ユウトはようやく自分の役割を理解した。自分の体に宿る力が、どんな未来をもたらすのか。それを解き明かし、この世界を救う方法を見つける。それこそが、これからの彼の使命となるのだろう。
そして、ユウトの決意を胸に、次のステップへと足を踏み出した。