健康って、なんだっけ
ユウトはその後、フィリカと共に教会の施設に戻った。教会の中は、どこか神聖で落ち着いた空気が漂っていた。フィリカが案内してくれた部屋は、静かな場所にあり、ユウトはしばらくその場でじっと座っていた。
「ユウト、これからのことを考えるために、しばらく私たちと一緒に過ごして欲しいの」
フィリカが静かに言うと、ユウトは黙って頷く。彼の心の中では、今後どうするべきかがわからなかった。自分の体が引き起こした混乱、そしてそれが今後どれだけ広がっていくのか。すべてを背負うには、あまりにも重すぎる問題だった。
「でも、俺が一人で考えても、どうにもならないだろうな」
ユウトは自分に言い聞かせるように呟いた。
「そう、だからこそ私たちが力になる。あなたが元の世界に戻るために、まずはあなたの体の秘密を解き明かさないといけない」
フィリカは真剣な眼差しをユウトに向けた。
その時、部屋の扉が開き、ノイが入ってきた。彼女はユウトに向かって少し微笑むと、ゆっくりと歩み寄った。
「どうしたの? 顔色が良くないわね」
「いや、ちょっと考え事をしてて」
ユウトは苦笑いを浮かべる。
「でも、話すことがあるんだ」
「私も少し話があるわ」
ノイはそのまま座ると、ユウトとフィリカに向かって話し始めた。
「実は、ユウトの体がこの世界の秩序を乱す要因になっていることを、他の国々も知り始めている。私のデータが流出したこともあって、各国はあなたの健康に関する研究を急いで進めている。いずれ、どこかの国があなたを無理に捕えようとするかもしれない」
「捕える? それって、どういうことだ?」
ユウトは目を見開いて尋ねた。
「あなたの体、もし解明されれば、医療や兵士の訓練、魔法に至るまで、すべての基準が一変する。そうなれば、世界中で大きな混乱が起きるわ」
ノイは真剣な顔で続けた。
「その結果、あなたを『神の器』として利用しようとする国も出てくる。だから、あなたには身の安全を守るための対策が必要だわ」
ユウトはその言葉に深く考え込みながらも、ふと立ち上がった。
「でも、俺がどうやってあの世界を元に戻せるんだろう? 俺の体が原因なんだろうけど、それを壊す方法すらわからない」
フィリカは静かに答える。
「あなたの体は、ただの健康体ではないわ。ある種の秩序を持っている。それが、この世界を崩壊から救う力を持っているかもしれない」
「秩序? それってどういうことだ?」
ユウトは眉をひそめた。
「簡単に言えば、あなたの体はこの世界の『健康』そのもの。あなたが健全であれば、この世界も健全でいられる。しかし、あなたが崩れると、世界の秩序も崩れる。だから、あなたがどう決断するかで、この世界の未来が決まる」
ユウトはその言葉に衝撃を受けた。自分が何も知らないうちに、こんなにも世界に影響を与えていたなんて。
「つまり、俺が健康でいる限り、この世界は保たれる。でも、俺が壊れたら、世界も崩れるってことか?」
「そう。だから、あなたには二つの選択肢がある。一つは、この体を壊して、秩序を崩してしまうこと。もう一つは、このままの状態を保ち、世界のバランスを守り続けること」
ユウトはその言葉を噛みしめる。壊すか、保つか。その選択が、この世界の未来を左右する。だが、ユウトにはその選択をどのように選べば良いのか、まだ見当もつかない。
その時、外から騎士の足音が聞こえてきた。ユウトはその音に反応して、顔を上げた。
「何か、あったのか?」
ノイが立ち上がり、扉を開けると、そこにはグランが立っていた。彼は一歩中に足を踏み入れ、真剣な表情でユウトを見つめた。
「ユウト、急いで来てくれ。王国の指導者たちが集まって、君の体についての会議が開かれることになった」
「会議?」
ユウトは驚きながらも、立ち上がった。
「早く行こう。今のうちに、君がどれだけ危険な存在なのか、確認しないといけない」
ユウトは深いため息をつきながら、フィリカとノイを見た。
「俺、一体どうすればいいんだ?」
フィリカは穏やかな声で言った。
「あなたが決めるべきなのは、あなた自身の心だよ。体を壊すのか、それともそのまま健康でいるのか」
ユウトはその言葉を胸に刻み、重い足取りで広間へと向かった。これから始まる会議で、何かを掴まなければならない。自分の体が引き起こす問題の根本を――そして、どうすれば世界を救えるのかを。