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神を信じる少女と、呪われた俺

ユウトは一人、王都の静かな広場を歩いていた。頭の中には、昨日から続く騒動の数々がぐるぐると巡っている。各国が自分の「健康」を基準にして調整しようとしている。兵士たちは次々と倒れ、治療法も効かない。周りの人々の恐れと嫉妬の目が、ユウトをどんどんと追い詰めていく。


「どうしてこんなことに……」


彼は思わず呟いた。その時、ふと広場の片隅で声が聞こえた。


「あなたが、ユウト・カナエ様ですね?」


ユウトはその声に振り向くと、目の前に一人の少女が立っていた。彼女は白いローブを身にまとい、長い金髪を束ねている。目元には深い青い瞳があり、優しげでありながらも、どこか神聖な雰囲気を漂わせていた。


「え? あ、はい。そうですが……」


ユウトは驚きながらも、言葉を返す。少女はにっこりと微笑み、そしてお辞儀をした。


「私はフィリカ。教会の巫女見習いです」


「教会の巫女?」


ユウトはその言葉に少し戸惑いながらも、少女の顔を見つめる。フィリカは顔を上げ、真剣な表情でユウトを見た。


「あなた、ユウト・カナエ様の体は、単なる奇跡ではありません」


「奇跡?」


「いえ、違うわ。あなたの体こそ、神の呪いです」


その一言に、ユウトは目を見開いた。


「呪い? それは、どういう……?」


フィリカはしばらく黙った後、深く息を吸い込んで話し始めた。


「あなたの体、ただの健康体ではない。あれは、この世界の神が何かを試みた結果、生まれたものなのよ」


ユウトはその言葉に混乱し、思わず口を開いた。


「神? そんなの、信じてないよ。俺が異世界に転生して、ただの健康体になっただけだろ?」


「違うわ、ユウト・カナエ様」

フィリカは深刻な顔で言った。


「あなたの体の中には、この世界を支える何かが宿っているの。私たち、教会の者は、それを神の器と呼んでいるわ」


ユウトは一瞬、言葉を失った。それから、やっと口を開く。


「それって、どういう意味だ?」


フィリカは目を閉じ、静かに話し始めた。


「神がこの世界に与えた秩序。それは、力を持つ者によって支配され、調整されている。この世界の健康、魔法、戦闘、すべての基準が神の意志によって決められているわ。しかし、あなたの体――それは、その秩序に反する存在。あなたが今、この世界にいること自体が、ある意味でこの世界にとってのバグであるの」


「バグ?」


「そう。あなたの存在こそ、神がこの世界に持ち込んだ不具合であり、それが原因でさまざまな問題が起きているの」


フィリカは一歩近づき、ユウトに向かって真剣な眼差しを向ける。


「でも、だからこそ、あなたには責任がある。あなたがこの体を維持する限り、この世界の秩序は崩れ続け、やがては破滅を迎えることになる」


その言葉に、ユウトの心は重く沈んだ。信じたくはないが、フィリカの言うことが、まるで本当のように感じてしまう自分がいた。


「つまり……俺の体、これが原因で世界が崩れかけていると?」


フィリカは静かに頷く。


「その通り。だからこそ、あなたには選択肢がある。自分の体を治すことで、世界を元の秩序に戻すか。それとも、あなたの体を壊して、この世界に秩序を取り戻すか」


ユウトはしばらくその言葉を噛みしめる。確かに、今の自分の体は、異常すぎる。どんな食事でも平気で、どんな負荷にも耐え、まるで病気になることがない。それが、逆にこの世界を混乱させているのだとしたら……。


「じゃあ、俺がこの体を壊すしかないってこと?」


「そうよ。あなたの体を壊すことで、世界は元に戻る。でも、それは簡単なことではないわ」


フィリカの言葉には重みがあった。その時、ユウトの心に決意が湧き上がった。この世界のために、そして元の世界に戻るためには、自分の体を犠牲にする覚悟が必要だと感じた。


「わかった。でも、どうやって……」


フィリカは静かに微笑む。


「そのために、私はあなたと一緒に歩みたい。私があなたを導くわ」


ユウトは一瞬、彼女の目を見つめる。そこには、ただの巫女としての使命感だけでなく、彼自身を助けようという強い意志が込められていることを感じ取った。


「ありがとう。でも、これからどうすればいいんだ?」


「まずは、あなたの体の謎を解き明かすことが最初のステップよ。それから、どうすべきかを考える」


ユウトは頷いた。この先、彼がどう進んでいくべきかはまだ見えていない。しかし、一つだけ確かなことがあった。それは、彼が自分の体と向き合い、この世界の秩序を取り戻すために戦わなければならないということだ。


そして、ユウトは決意を固めた。自分の体を壊してでも、元の世界に帰る。そのために、彼はこれから歩むべき道を選び始めた。


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