表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/7

健康体、解剖されかける

ユウトは、王立医学研究所に連れてこられていた。背後には、緊張した面持ちで歩くエルフの研究員、ノイがいる。彼女は、この奇跡のような存在であるユウトを、なんとしてでも調べたかったのだ。


「まさか、こんなにも早くお前が来るとは思わなかったわ」


ノイは無表情で言ったが、その目には興奮と好奇心があふれている。彼女の口元に浮かぶ微笑みを見て、ユウトは嫌な予感がした。


「え、ちょっと待って、ここって、もしかして……」


ユウトは不安げに周りを見回す。広い部屋には、金属製の器具や不気味な道具が並んでいた。壁には無数の瓶が並び、血液や薬品が収められている。それらの光景を目にした瞬間、ユウトは心の中で恐怖を感じた。


「ここは王立医学研究所だよ。お前の体を、詳しく調べさせてもらうわ」


ノイは冷静に答えると、すぐに手元の資料を確認しながら指示を出した。


「まずは基本的な検査から。身体測定を始めるわよ」


ユウトは心の中で「やばい」と呟いた。何も言わずに従うしかない自分に、少しずつ焦りが募ってくる。


「まさか、解剖されるわけじゃないよね?」


ユウトが不安げに呟くと、ノイはその言葉にちょっとした笑みを浮かべて返した。


「解剖するわけじゃないわよ。ただ、データを集めて、体の仕組みを理解したいだけ」


「ただって……」


ユウトはそれを聞いて、ますます気が重くなった。だが、もはや後戻りはできない。ノイに導かれるまま、ユウトは検査用のテーブルに座った。


「まずは、身長体重の測定から。立って」


指示通りに立ったユウトの背に、ノイはあらかじめ準備していた測定器をかざした。


「ふむ、身長は……ちょうど178cmね。特に異常はなさそう」


ノイはメモを取りながら、さらっと言った。その後、体重も測られたが、ユウトが思っていたよりも軽く、50キロ台だった。明らかに普通ではないその数値に、ノイは眉をひそめていた。


「これも、健康体の影響かしら?」


次に、ノイは血液検査を始めた。ユウトの腕に針を刺し、血を採取するが、その間、ユウトには全く痛みを感じない。


「まったく……」


ノイはため息をつきながら、採取した血液を分析装置にセットした。


「やっぱり、正常な人間の血液とは全然違う。これ、普通なら重篤な病気になりそうな成分が含まれているのに、本人はまったく平気なんて……」


ユウトは、目の前に並べられた複数の血液分析結果を見て、驚きと不安が入り混じった感情を抱く。


「それ、どういうこと?」


「例えば、この値……通常なら致命的な状態を引き起こすようなものが、あなたの体内には普通に存在している。でも、あなたは一切体調を崩さない。それが、おかしいのよ」


ノイは興奮したように言いながらも、その目には解明したいという強い欲望が光っていた。


「なるほど。だから、僕は死なないのか。けど、それって……もしかして……」


ユウトの言葉が途切れた。その時、ノイは無言で背後の棚から小さな瓶を取り出し、それをユウトの目の前に差し出した。


「これ、毒薬よ」


瓶の中には、青い液体が入っている。それは見るからに危険そうで、ユウトは思わず体を硬直させた。


「ちょっと待って、そんなものをどうするつもりだ?」


ユウトが声を荒げると、ノイは冷静に答える。


「心配しないで。これを少しあなたに注入して、あなたの体がどう反応するかを見たいのよ。まさか、全く影響を受けないなんてことはないでしょうから」


「それ、怖いよ!」


ユウトは内心で叫びながらも、体を動かすことができない。ノイは無表情で、静かにその青い液体を注射器に吸い上げ、ユウトの腕に針を刺した。


「さぁ、どうなるかな?」


その瞬間、ユウトの体に何も異変が起きなかった。普通ならば、激しい痛みや吐き気を伴うはずの毒が、ユウトにはまったく影響を与えなかった。


「何も起きない?」


ノイは驚愕し、何度もユウトの脈を確認した。


「おかしい……この薬は、死に至ることだってあるはずなのに」


その後、ノイはユウトに続けてさまざまな検査を行ったが、どれも異常なし。血液検査、心拍数、体温、さらには消化器系の機能すらも、すべて完璧に正常だった。


「どうしてこんなことが……」


ノイは悩み、少し肩を落とした。それでも、ユウトは自分の体を信じられないでいた。完全健康体だとは思っていたが、こんなにも異常なレベルで健康だとは予想していなかった。


「……ごめん、君には思いっきり実験台にされた感じだよな」


ユウトは照れ笑いを浮かべながら、ノイに謝った。ノイはその言葉に、一瞬驚き、そして少し笑みを浮かべた。


「いや、いいのよ。あなたの体がこれほどまでに異常だなんて、私も初めて知ったわ」


ノイは改めてユウトを見つめながら、深いため息をついた。


「でも、あなたの体には、まだ解明しきれていない何かがある。その謎を解かない限り、私たちの研究は終わらないわ」


ユウトは、その言葉を胸に刻みながら、次に起こることを考え始めるのだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ