働かざる者、超健康でも食えぬ
異世界に転生してから数日が過ぎ、ユウトはすっかり村の外れにある小さな宿屋で生活していた。何もすることがないわけではないが、特に仕事があるわけでもない。あの時から、どこかで「働かなければならない」という義務感に駆られていた。
だが、ユウトには一つ大きな問題があった。それは、金がないということだ。
「食べ物もないし、泊まる場所も限界だなぁ」
ユウトは宿屋の窓から外の景色を眺めながら、空腹感に耐えていた。自分が転生してから体調が良すぎることを実感している一方で、この世界の厳しい現実に少し戸惑っている。
「完全健康体って言っても、金がなければどうにもならないし……」
ここに来て初めて気づくことになる。「健康」だけでは、すべてがうまくいくわけではないということだ。
ユウトが宿屋を出て、少し歩いてみると、村の広場には働く人々が集まっていた。家畜を運んだり、木材を運んだりする作業で汗を流している者たちが、ユウトの目に映る。
「……あの仕事、ちょっとやってみようか?」
ユウトは迷いながらも、思い切ってその集まりに近づいた。村の広場で仕事をしているのは、農作業に従事している村人たちだった。彼らの目の前に立つと、ユウトは少し緊張しながらも声をかけた。
「すみません、ちょっと働かせてもらえませんか?」
その言葉に、作業をしていた村人たちが驚いた表情でユウトを見た。彼らはしばらく黙ってユウトを見つめ、誰かが口を開いた。
「お前、どこかの王族の坊ちゃんか?」
「いや、普通の……普通の村人です」
ユウトは焦りながらも言い訳をした。王族に見えたのは、異世界の服装や風貌がやや目立っていたからだろう。
「ふーん、でもよ、見た感じで働けるのか?」
「ええ、できます」
ユウトは自信満々に言ったが、内心では少し不安を感じていた。だが、ここで働かなければ自分の生活が成り立たない。
「じゃあ、運搬を手伝ってくれ。荷物をこの場所からあそこに運ぶんだ」
そう言って、村人が指差した先には大きな木箱が積まれていた。ユウトは軽く頷き、早速その木箱を持ち上げると、意外にも軽く持ち上がった。
「なんだ、これ……」
その木箱はおそらく数十キロはあるはずだったが、ユウトにとってはそれもただの重さを感じる程度でしかなかった。まるで、普段から軽々と運び慣れているかのように。
ユウトが荷物を運ぶ姿に、周りの村人たちが驚きの声を上げた。
「おい、ちょっと待て。お前、あんなに軽々と運べるのか?」
「確かに、普通の人間ならあんなに持ち上げられないだろ」
その瞬間、ユウトは自分が異常であることに気づく。普通の人間ならば、少なくともこれほど重いものを楽に持ち上げることはできない。
だが、ユウトはそれを意識しても、まったく力を入れることなく、木箱を運び続けた。
「いや、ちょっと待ってくれよ。あんなに軽々と運んで、しかも全然疲れてないのか?」
村人たちが疑惑の眼差しを向けてきた。ユウトは、体に特別な力を感じていたが、これが普通のことなのだろうと思っていた。
「うーん、そう言われると、俺もなんだかおかしい気がしてきたけど……」
「いや、だってお前、あの荷物を運んでいる時に汗一つかいてなかっただろ?」
その指摘にユウトは気づいた。確かに、自分は汗をかいていない。何なら、作業をしている間も息一つ上げず、身体が全く疲れない。
「う、うーん、まさかね。俺、そんな特別なことはしていないよ」
ユウトは答えながらも、心の中では少し動揺していた。何かがおかしい。自分の体に異常な力が宿っているのではないかと。
その後もユウトは村人たちの手伝いを続け、結局、一日中働き続けることになった。どんなに運び続けても、疲れた様子を見せることなく、作業が終わるころにはすっかり日が暮れていた。
「おい、あんた、ちょっとおかしいぞ。なんであんなに働けるんだ?」
最後に一人の村人がユウトに尋ねた。ユウトは答えようとしたが、口を開ける前に、その村人が続けて言った。
「もしかして、お前……病気とかしてるんじゃないか?」
その言葉にユウトは首を振り、苦笑いを浮かべた。
「いや、まさか。健康そのものです」
その瞬間、村人たちの目が一層恐れと警戒を込めてユウトを見つめた。彼の異常な体力を前にして、誰もが言葉を失った。