第一話【我こそが団長、ベリス・ガンロード】
カクヨムで掲載しておりましたが、こちらのサイトでも同時に掲載することになりました!
どうかよろしくお願いします!!
――大海暦一九二〇年。
この世界は大陸よりも海の方が圧倒的に大きかった。
世界中の人々は何よりも空に憧れていき、遂には航空技術の結晶「飛行船」を完成してしまった。 人間はやろうと思えば何でもできるという証拠である。
今や大空には鳥か飛行船か、又は何処かしらの空軍の飛行艦隊が当たり前のように飛んでいる。 やっと人々は念願の空を手に入れたのだ。
飛行船が完全に普及されて以降、この時代は後に「大航空時代」と呼ばれている。
――そんな最中、列を組んだ飛行船団が悠々と空を飛んでいた。
伝承に語られている幻獣かのような大きな鉄の両翼。
船の上では巨大なプロペラが素早く回っている。
誰もかれもが向こうで飛んでいる飛行船団を眺めている。
最前列の飛行船がゆっくりと速度を落としていく。
すると船団の中でも大きな飛行船から、スピーカー経由で声が聞こえてくる。
聞こえてきたのは透き通るように綺麗な女性の声であった。
『皆さん! 我らはグリフォン飛行船団です! 現在、皆さんが欲しいであろう飲料・食料・更には燃料を安価でお売りしております! 信頼のできる国家停泊施設が近くにございます! 安価で購入できるのは数ある船団の中でも、グリフォン飛行船団だけですよー!』
スピーカーからの内容を聞いた飛行船に乗る人々は「おおっ!」と声を上げた。
人々はグリフォン飛行船団の名を既に知っていた。 それほどまでに有名なのだ。
だが流石に知らない人も多数は存在する。
「ねえ父ちゃん、グリフォン飛行船団ってなに?」
旅客船に乗っていた一人の子供が父親に聞いてくる。
父親は「まだ言ったことがなかったな」と息子に話す。
「グリフォン飛行船団というのはな。 世界を股にかける有名な民間飛行船団で、物販や救助、護衛戦闘までも担える凄い船団なんだ」
「そういえば最近、エルフとダークエルフの和睦も担ったらしいぞ」
親子の会話に隣の老人が入ってくる。
子供は「そんなに凄い船団なんだ」と驚き目を輝かせる。
――いつか自分もそんな船団に入りたい。 そんな夢を抱いた子供が後に、新たな飛行船団を立ち上げて世界でも有名になるのだが……、それはまた別のお話。
近くに存在する大きな島。 そんな場所に国家公認の停泊施設があった。
船団は一隻ずつ海に着水して停泊する。
施設の従業員の誘導で、後を追ってきた飛行船も続々と停泊していった。
その様子を確認していた一人の男がいた。
髭を口と顎に生やした高身長の紳士的な格好、傍から見ればハンサムなイケメンといった感じだろう。
「ハーッハッハッハ! どうやら今日も大量の商品が売れそうだぞ!」
高笑いをして非常に機嫌の良いこの男の名はベリス。
グリフォン飛行船団の団長ベリス・ガンロードその人であった。
「さあ諸君、在庫の確認はしたか!」
『準備万端! いつでも売れます!』
「販売担当、配置はどうだ!」
『各員全て、配置完了!』
「ならば諸君! 沢山売って利益を出して、人々の生活に貢献してやれ!」
意気揚々と船員達は自らの配置について行動を開始する。
徐々に人々が物販をしている場所にやってきた。
物販場所の目の前には早く食せるように椅子とテーブルも用意されてある。
見えるのは人々の笑顔。 安く買えるのはグリフォン飛行船団だけ、というのはあながち間違いではなかった。
どこもかしこも物価は上がる。 安くしようにも国家がそれを許さない場合もある。
しかしグリフォン飛行船団はどこの国にも属さない、無所属の便利屋といった方が分かりやすいだろう。
だから価格も安くできる。
人々は時々、どうしたら安く提供しているのに利益を上げているのだろうと。
実はグリフォン飛行船団の所有する中規模な島が存在する。
その島では多くの船員が交代制で農業や水産業、さらには畜産業も行っているのだ。 燃料は他国から買わなければならないが、食料だけでも十分に黒字になるというわけだ。
「まだ使ってない島はあるし、他の使い方も可能だなぁ……いやしかしぃ」
ベリスがぶつぶつと呟いていると、一人の少年がやってきた。
「もしかして貴方が団長さんですか?」
「んん? ああその通り、私がグリフォン飛行船団の団長ベリス・ガンロードだ」
ベリスは名を名乗ると、少年は「本物だ」と目を輝かせる。
どうやら船団のファンのようだ。
「君はどうやら我が船団のファンのようだが、両親はどこに?」
「……お父さんもお母さんも戦争で死んじゃったんだ」
少年はしょんぼりと落ち込む。
まずいことを聞いてしまったかとベリスは慌てる。
しかし少年はすぐに切り替えてベリスに言った。
「だけど、グリフォン飛行船団の活躍を新聞で何度も見て元気が出たんだ! 色んな人を助けて平和を守っているんだって!」
少年の言葉は、ベリスにとって非常に嬉しいものであった。
ベリスは戦争を好まず、何よりも平和と人々の笑顔を愛する誇り高き「ガンロード家」の生まれである。
そんな彼だからこそ人々を動かしてグリフォン飛行船団を立ち上げた。
世界からも絶賛される有名な飛行船団となったのだ。
「……少年よ。 君は旅をしているのかね?」
「うん、元々貴族の一人息子だったから、親が戦死した後に相続を使って旅に出てたんだ」
ベリスは驚く。 まだ多少幼い元貴族の少年に殆どの相続が貰えたのかと。
もしかしたら他の親族も戦争で死んでしまったのではと考えたが、少年の為にこれ以上は聞かないことにした。
「名前はなんという?」
「――ラインハルト。 僕の名前はラインハルト・フォル・ゲールバッハ!」
「なっ!?」
……ラインハルトということは「ゲルマング王国」の出身。
つい最近までベリスの祖国「ブリテー王国」と長い間戦争をしていた国だ。
ベリスは恐る恐るラインハルトの目を見る。
その目は純粋だが凛としている部分もある、ラインハルトはベリスの故郷を知ってもなお、グリフォン飛行船団を尊敬しているのだ。
「……そうか、君は立派なのだな」
「え?」
「ならば我が船団に入らないか? 君のような人材は大歓迎である!」
「ぼ、僕がグリフォン飛行船団に!?」
ラインハルトはベリスの提案に驚愕する。
ベリスは責任を取りたかったのだ。 早く両親を失ってしまったのはブリテー王国が原因、大げさに言えばベリル含めた国民全員が原因なのだ。
――当時は「打倒ゲルマング王国」と国民全てが熱狂していた。
いくらガンロード家が戦争反対だからといってゲルマング王国と争ったのは事実。
だがラインハルトは秀才で、相手の心境を察する能力も優れていた。
ベリスの心境を理解してしまったのだ。
一度考えたラインハルトであったが、迷いもなく口を開いた。
「……僕、グリフォン飛行船団に入ります!」
「よろしい、良い返事だ!」
ベリスは身に着けているマントを片手で翻した。
そしてニヤリと笑い、ラインハルトに言った。
「改めて名乗っておこう、我の名はベリス……。 グリフォン飛行船団の団長、ベリス・ガンロードである!!」
一つの物語が今、始まろうとしていた――。