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七、理不尽な提案

「ほかに出されたものは?」

「月餅と、点心だ」

「どちらも普通のお菓子ですね」

「そうだ。しかし、菓子が出される前に宰相たちは倒れた。つまり、原因は乳酸飲料のほかにない」


 だとしても、万が一を考えると実際にその時の食べ物があればいいのだが、そうもいかないだろう。今は冬。雨流の誕生日は夏だからだ。月花の舌は、どんな毒をもあぶりだす。だから、生誕祭の乳酸飲料さえ手に入れば、すべては丸く収まったのに。食べれば月花には成分がわかる。ならば食べるのが手っ取り早い。


「乳酸飲料はもうないが、月餅と点心の材料はまだある」

「しかし、もう半年前のものになるので、検証しても無意味でしょう」


 月花はうむ、とうなる。なにか当てはあるようで、雨流は月花の言葉を待った。この娘の毒への知識には、目を見張るものがある。雨流は月花を上から下まで見渡す。小料理で会ったときは気づかなかったが、だいぶ女性らしくて可愛らしい。顔だって、化粧をすれば美しいし、衣から覗く胸だって、武器になるだろう。小料理屋で男として振る舞っていたのは、その方が都合がよかったからだろう。女というのはそういう身分だったから、月花が男装していたのも頷ける。しかし、月花が女だと知っていたら、雨流はもっと早くに『気づけた』というのに。


「金属の食中毒に、銅の食中毒というものがありますが、こちらならば、確かに吐き気に腹痛、頭痛などの症状が出るんです。ただ、今回使っているのはアルミですし」


 うー、と頭を悩ませる月花を見て、雨流がふと気を緩めたように息を吐き出して笑った。やはりこの皇帝はよく笑う。冷笑ではなく、嬉しそうに笑うのだ。確かに、そういう五行を整えるために料理を出していたが、それにしても、月花に気を許しているのだろうか。


「なにをお笑いですか」

「いや……ソナタ、近々行われる、皇后選び。そちらに推挙するゆえ」

「え、いや、え、それだけはご勘弁を」

「そんなに嫌か?」

「そりゃあ……私は皇帝陛下の生誕の席での毒の謎を解くためにここに呼ばれただけなのでしょう?」

「そうだ。そして、それを疑われることなく進めるには、美人の位では心もとない。ゆえに、ソナタを皇后としたい」

「ちょ、したい、って。だいたい、皇后選びには口頭試問があると聞いていますが?」

「そうだな。孟子や孔子は今年はなしにしようと思っていてな。なに、ソナタのその賢さならば、先帝もお気に召すだろう」


 月花の顔が青ざめる。皇帝である雨流にとっては大したことではないのかもしれないが、月花にとっては大問題である。早く毒の謎を解いて後宮を去りたかったのだが、どうにもそれは複雑で、すぐさまとはいかないのは月花もわかっていた。わかっているが、自分が皇后なんて、周りの反感を買うのは明らかだった。


「毒の正体は暴きます。なので、皇后選びだけは」

「なに、そう構えるな。形だけの皇后だ。ソナタが毒の謎を解いた暁には、廃妃にして、そっと逃がす」

「ええ、でも」

「ソナタ、ジャンカルの芋の食中毒の恩を忘れたか?」

「うっ……それは、それは、皇太后さまの食中毒を明かしたでしょう」

「ソナタは、皇帝が身を挺して芋を食して腹を下した恩を、たった一度で返せると思っているのか?」

「そ、そんなあ」


 かくして、月花は雨流の妃選びの候補者として、正式に内示が下るのだった。面倒なことになった。月花ははぁと聞こえないようにため息をついた。こうして月花の後宮生活が、始まるのだった。

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