意味がわからない
珍しく残業をした日、コンビニで調達したご飯が入った袋を引っ提げて家の鍵を開けようとすると隣の家から大学生の女の子が出てきた。目が合ったから会釈をしようとした瞬間光が私たち二人を包み込むように出現した。
まぶしくて咄嗟に目を閉じた瞬間、歓声があがり人のうれしそうな声が聞こえてきた。
「成功しました!」
目を開けると私と女子大生の周りをローブを着た男の人が取り囲んでおり、歓声をあげている人もいれば、ニヤニヤと薄気味悪い笑顔を浮かべている人もいる。意味の分からない光景に私は理解が追い付かなかった。それは隣にいる女の子も同じのようで、おびえた様子で私の腕を弱い力で握っていた。
「どっちが聖女でどっちが先導者だ?」
唯一ローブを着ていない青髪の男の人が私たちの顔を見ながら言い放った。聖女…?先導者…?
余計に意味がわからなくなった私の隣でつぶやくような声で異世界という言葉が聞こえてきた。
「まだどちらがどのスキルを所有しているか判定できません。過去の文献にも召喚して数日経たないと魔力が安定せず、正確なスキル判定ができないと書いてありましたから」
「つかえんな。すぐわかる方法はないのか」
「慌ててもいいことはありませんぞ、殿下。召喚は無事成功したのですから先を急ぐこともありますまい。これで殿下の即位は確実となったことには変わりないのですからな。」
「…しょうがない。今回はそれでよしとしてやろう。」
殿下、と呼ばれた男は横にいるおじさんの言葉ににやけが抑えきれないといった様子であった。
「とりあえずこの女たちは同じ部屋にでも入れておけ。スキル判定ができるまで部屋から出すな」
そういい捨てて殿下とおじさんは出ていき、命令に従うため一人の男が私たちに近づいてきた。
「今からお部屋に案内しますので着いてきてください」
《Yes》
「え?」
「…お姉さん?」
「え、いやなんでもない。…とりあえずついて行こう」
状況がわからないのについて行くわけがないと思った瞬間、頭の中に[Yes]という言葉が響いた。なにかはわからないが従うべきだと思い、ついて行くことにした。女の子は不安を隠せない表情をしていたが、私が動き出したのを見て私の腕は掴んだまま一緒に動き出した。
その間ローブ軍団はこちらに目もくれずゾロゾロと部屋から退出し、女の子が立ち上がった時には案内をかってでてくれた男と怪訝そうな顔をした私、不安でいっぱいな女の子の3人しか残っていなかった。