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共同戦線

「なあ、言われた果実取ってきたけど、これでいいか?」

「うん。その汁を沪したら、こっちに持ってきて」


 アインスはナイフで自作した木の器を渡すと、リードは器に木の実を入れ、力いっぱい潰し始めた。


 マジックバッグが燃えてしまい、機能のほとんどを失ってしまっていた。

 マジックバッグは多少損傷しようとも、内包物は特殊な異空間に保管しているため、傷つくことはないのだが、流石にあそこまで損傷が激しいと、取り出しそのものが不可能になるらしい。

 異空間に繋がる鞄の口が、大幅に狭くなり、大きな荷物のほとんどは取り出すことができなかった。


 かろうじて取り出せたのは、一部携帯食料と、水筒ぐらいだ。水筒も水を抜いてから、体積を狭くしたうえで何とか抜き出した。

 ひとまずの食料と水、そしてそれを運ぶ手段があるだけまだましか。後は現地で自給自足していかなければなるまい。


「ほら、これでいいか?」

「オッケー」


 リードが持ってきた果汁が入った器に、アインスが鋼爪狼からはぎ取った毛皮を突っ込んで、革を汁に馴染ませる。


「それ、どうするんだ?」

「鞣してるんだよ。この果汁なら、一日も経てば十分革が馴染む。リード、上半身裸じゃん。何か身に着けないと」

「……おう」


 いつからダンジョンにいるのか知れないが、リードの装備はボロボロで、上には何も羽織っていない状態だ。

 階層ごとに環境が違うなら、虫刺されや寒さ対策の為にも、最低限の装備は整えなければならない。


「今日は物資の調達に宛てるよ。十分に補充してから、前の階層に向かって進む」


 ダンジョンを逆走する形になる。

 兎にも角にも、まずはカルミナたちとの合流だ。どれくらい階層が離れているのかはわからないが、食料が豊富な【森】の階層で、出来る限りの備えはしておいたほうが良いだろう。


「ここを拠点にしよう。見晴らしも良いし、魔物の接近にも気が付きやすい。少し離れたところに水辺もある」

「水辺を拠点にはしないのか」

「他の魔物の縄張りにもなってるみたい。こっちの方が安全だ」

「そうか」


 キャンプの準備はアインスが主導で行った。

 アインスの指示の方が確実だと理解しているのか、リードも素直に従った。


 周囲に火炎大蜥蜴(フレイムリザ-ド)の血を撒いて、魔物避けにする。火炎大蜥蜴(フレイムリザ-ド)より弱い魔物は、血の匂いを嗅ぎつけても寄ってこない。多少はリードの血の匂いも紛れる。


 夜は焚き木を汲んで、鋼爪狼の肉を焼いて食べた。少し血なまぐさい、旨味の少ない肉を、2人で火を囲んで食べた。

 ミネアがいれば血抜きも楽に行えるのだが。なんて考えていると、「なあ」とリードが訊ねてきた。


「……お前、いつからそうだったんだ?」


 そう、という曖昧な問いかけは、『いつから斥候(スカウト)としてそんなに優秀になったのか』という意だ。

 半日一緒に過ごしただけでも、食料や水、寝床の確保、装備品の準備に周辺の警戒。アインスの活躍を挙げだせばキリがない。


 斥候(スカウト)として役に立たないと思っていたアインスに、まさかこんなに力があるとは思っていなかったのだろう。

 いつから、という訊ね方をするあたり、『自分が認めていなかっただけで、アインスは実は凄かったのではないか』という、自省の念が伺えた。


 それを察したアインスが、「ギルドを出て行ってからだよ」と返した。


「カルミナさんに会うまではポンコツだったんだ。能力を使うと、情報量に脳がやられて、長時間探知眼を使えなかったのは知ってるでしょ。カルミナさんが能力の使い方を教えてくれて、まともに能力を使えるようになったんだ」

「……そうか」

「……だから、クビにされたことは、もうそんなに気にしてない」

「……そうか」


 アインスが肉を齧って会話を打ち切ると、リードも肉を食べるのを再開した。

 その日は互いに夜の番を交代しながら就寝を取った。

 あれほど犬猿の仲であったにも関わらず、リードも真面目に火の番をし、寝るときは安心した様に深い眠りについていた。




 翌日、アインスが固い木の枝をナイフで加工して針を作り、つたを細く結って紐にした。

 鞣した皮を簡易的な上着に仕立て上げ、リードに渡す。


「汁臭え」

「我慢してよ。何もないよりマシだろ」


 革のコートに鼻をしかめたリードに、アインスがアイアンセンティピードの牙を加工して作った短剣を抛った。


 持ち手になりそうな部分を、丸く削っただけの短剣もどきだが、素手よりはマシだろう。

 短剣を軽く振って、リードも感触を確かめる。


 そして、アインスを先頭に、道中で木の実を取ったり、浮いている魔物を倒して肉を調達したりしながら、2人は階層の探索を続けた。


 そしてしばらく散策した後、運よく前の階層に続くと思われるゲートの前までたどり着く。


「気を付けて、多分この先に魔物の群れがある」


 ゲートの周辺には魔物が良く群れる傾向があるのは、冒険者の常識だ。

 つまり、逆走している以上、この先には魔物の群れが待ち構えているというのは予想が付く。


「数とか配置とかわからねえか?」


 ゲートには【カモフラージュ】と同様に、探知から逃れる魔力が流れている。アインスがゲートを探知できないのはそのためだ。故に、ゲートの奥も探知できない。

 首を振ろうとした時、スケイルのことが頭をよぎった。


 あの人だったら、ゲートの奥も探知できるのだろうか?


「……やってみるか」


 今まで探知範囲を決めるときに、自分を中心に、円形に魔力を行きわたらせて探知範囲を広げていた。

 万遍に魔力を流すのではなく、ゲートの奥へ集中して魔力を流してみればどうだろう。


「ぐっ——」


 今までと違う魔力の使い方に、頭がギリギリと悲鳴を上げるが、カモフラージュの魔力を突破し、ゲートの奥の情報が頭の中に流れてくる。


「……ゲートを出てすぐ右にAランク、ミスリルホーンライノが2体。40mくらい左に20体ほどのEランク、スライムの群れがある。……環境は湿地。一部地面がぬかるんでいる。上手く使えば、魔物の動きを封じれるかも」

「わかるのか?!」

「すごくキツいけど、やってみたらできた」

「ははっ、すげえじゃん!」


 リードが興奮したのか、無意識の内に賛美の声を上げると、アインスもリードも目を丸くして、恥ずかしさからかそっぽを向いた。


 思えば、リードから褒められるのも初めてだし、リードもアインスを褒めるのは初めてだった。


 こいつ、褒めることできたんだな。


 そう思いながらも、アインスはリードへゲートを潜る前に指示を出す。

 不意打ちでミスリルホーンライノの急所を抉った後、ぬかるみを【身体強化】でアインスを担いで飛び越え、そのまま逃亡する構えだ。


 その作戦は功を奏し、2人は無事にゲートを突破し、前の階層へと進むことができた。


 ハイタッチなどはしなかったが、2人の間で会話が弾むようになり、言外に信頼関係を築いていたのは、2人とも確かに感じていた。


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