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分断

 それぞれが得物を構え、探知眼を発動させたアインスを先頭にダンジョンの中へと入り込む。

 入ってすぐむせ返るような湿度と熱さが襲ってくる。どうやら熱帯雨林のフィールドらしい。


 入ってすぐ、アインスが近くのあった木をナイフで傷つけ、中から出てきた樹液を体に塗り始めた。


「フィールド全体に蚊やダニ科の毒虫が多く分布しています。この樹液はそれらの生物が嫌う成分を含んでいます。体に塗りたくっていきましょう」


 指示に頷いてから、アインスの真似をして二人とも樹液を体に塗り終えた。


 所々ぬかるみ、大きな木の枝が地表に露出したゴツゴツとした地面を歩いて進む。高い湿度、湿度に加え、この歩きにくさは、ダンジョンを進むだけで大きなストレスだ。


「カルミナさん。右から3体。アイアンセンティピードが地中から来ます」

「わかった」

「30m先に罠。進みづらいですが、右の崖から行きましょう。ゴブリンが落石を狙っているので、ミネアさん。先に潰してください」

「了解」


 少しずつではあるが、着実に、安全なルートを進んでいく。魔物の数も多いが、それ以上に人間にとって過ごしにくい環境が辛い。


 スケイルのマジックバッグの中には、水や食料だけでなく、各環境に適応できるための、靴や服などの装備品や、魔力回復ポーションや、怪我をしたとき用の回復薬。簡易テントや寝袋、火おこしの道具といった、長期の攻略に必要なものが多く入っていた。


 党首としての仕事には必要ないのだろうが、釣り大会の話では、スケイル自身も他の冒険者が攻略できないようなダンジョンは、自分で攻略しに行っていると言っていたか。そのときの為に用意していたものなのだろう。


 フロアを2時間ほど歩くと、階層のゲートに辿り着いた。


「早いわね」

「シャノンさんが逃げた後ですから。彼女の足取りを探知眼で追ってみました」


 アインスがマッピングと並行しながら答える。


「……普通なら、一日かかって探索をするような広さの階層だ」

「ですね。それなのに、シャノンさんも真っ先にこのゲートに向かって逃げ込んでいる」

「シャノンがこのダンジョンの情報を持っているってこと?」

「はい。この様子だと、ダンジョン全体の情報を持っていてもおかしくありません」


 アインスたちもいざとなれば撤退の判断をしなければならないため、ダンジョンのゲートの位置、安全なルートなどは最速で攻略しながらも、データとして纏めておかなければならない。事前に知識が無ければ、このハイペースで逃亡するなどは不可能だろう。


「もしかしたら、ダンジョンの魔物にも襲われないのかも」

「……城内のスタンピードを生き残っているかならな。十分あり得る」


 加え、道中でアインスたちは魔物に何度も襲われたが、ダンジョン内には死骸どころか、戦闘の跡すら残っていなかった。

 シャノンも同じルートを辿っているはずなのだが、戦闘の跡がないということは、シャノンは魔物に襲われていない、ということになる。


 場内で魔物をスケイルけしかけている以上、襲われない秘訣があるのかもしれない。


「他に奥の手を持っているのかもしれません。……急ぐ必要はありますが、安全第一に進みましょう」

「そうね。私らが死んでダンジョンブレイクが起こったりしたら元も子もない」


 シャノンの目的がダンジョンブレイクかもしれない以上、自分を餌に冒険者をダンジョン内に誘い込み、ダンジョンで不意打ち、或いは過酷な環境で死亡させることによって、ダンジョンブレイクを起こす狙いかもしれない。


 ならば、攻略ペースを落としてでも、慎重に攻略する必要がある。

 アインスの探知がある以上、鬼ごっこなら有利だし、奥へ逃げていくのなら、最下層で落ち合える。


「では、次の階層へ」


 まだ変異が起こる前なのにこの危険度のダンジョンだ。

 何が待ち受けているか分からない以上、皆の表情が自然と引き締まる。


 ゲートを潜り、次の階層へ足を運ぶ。すると待ち受けていたのは、予想だにしない光景だった。


「——あっつ?!」

「?! どういうことだ、これは?!」


 次の階層に入った瞬間待ち受けていたのは、ぐつぐつと煮えたぎる溶岩が地表を流れる、火山地帯だ。

 気候的な暑さから、肌を焼くような熱線が、地面の岩場を反射して、ダイレクトに肌を焼きに来る。


「シャノンが踏み込んだことで、変異をした後なのか?」


 通常、変異の前には大きな予兆があるだが、今回そのような素振りはなかった。


「……あまり考えたくはないですが、階層ごとに環境が異なるダンジョンなのでは?」

「はあ?! そんなダンジョン聞いたことないわよ⁈」


 カルミナが言ったように、既に変異を追えただけという可能性もあるが、変異の際は、ダンジョン全体の階層が変化する。その場合だと、1階層も火山地帯になっていなければおかしい。

 現状を鑑みるに、アインスの考えが、一番しっくりくるにはくるが、それはそれで前代未聞の事態である。

 対策を事前にたてられるから、各地の冒険者がそれなりに安定してダンジョンを攻略できているというのに、階層ごとに環境が違うダンジョンなど、普通の冒険者に攻略できるわけがない。


「……仮にそうだとすれば、こんなダンジョンをブレイクさせるわけにはいかんぞ」

「ええ。……情報があったとして、並大抵の冒険者じゃ攻略できない。世界に種子をばら撒かれたら、いったいどれだけの被害が出ることか……」


 住む魔物もAランク以上の非常に危険なダンジョン。魔物の強さだけでなく環境も人間にとって最悪なものばかりだ。


 こんなダンジョンを世界中にばらまかれたら、どれほど大きな犠牲が出てしまうのか。考えるだけでぞっとする。


「荷物の中に耐熱マントがあったはずです。まずはそれに着替えましょう」


 それを防ぐためにも、早くシャノンを捕まえて、ダンジョンブレイクを阻止しなければ。

 アインスたちが荷物の中から、耐熱マントを取り出して身に着けようとした時だった。


「——がっ?!」

「?! アインス?!」


 突如として岩陰からシャノンが飛び出し、アインスを力強く突き飛ばす。


 そして、突き飛ばされた先で罠が作動し、一瞬、階層全体が光に包まれたかと思えば、その場からアインスが忽然と姿を消していた。


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