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自由か浪漫か ~旅立ちの時~

「君の能力が目覚めた今、君には2つのチャンスがある。一つはここで私と別れ、1人の人間として新しいスタートを切るチャンス。そしてもう一つは――この私の右腕として、そのスペシャルな能力を活かす権利を得るというチャンスだ」

「カルミナさんの右腕として?」

「ああ。私は、私が選んだスペシャルな人材のみで構成された、少数精鋭のギルドを設立しようかと思っている。そのメンバーとして、君を迎え入れたい」


 どうだ、少年。と大胆不敵に笑い、カルミナはそのギラギラとした瞳を、アインスの眼前へと近づけた。


「ここで別れるなら、君は自由を得ることができる。だが、私と来るなら、君一人では追えないような、とびっきりの浪漫を約束しようじゃあないか」


 自由か、浪漫か。


 ブラックギルド【強者の円卓(ゴライアスサークル)】に拾われた当時の自分には、選択権がなかった。入らなければ、飢えて死んでしまう。そのほかの選択肢も知らない、力のない人間だった。


 だけど今は選ぶことができる。自分の生き方を。自分の在り方を。

 だから、目覚めた力を利用して、冒険者としての新しいスタートを切るのも、悪い選択肢ではないのだが――


「僕は……浪漫を選びます」


 自分一人で生きるという選択肢が、完全に抜け落ちてしまうくらいには、このカルミナという女の魅力に魅せられてしまっていた。


 この人といれば、もっと違う自分に気が付けるかもしれない。


 アインスの力強い返事に、カルミナも満足そうに頷いた。

 剣を鞘に納めたカルミナは、左手をアインスに差し出し握手を交わす。


「スペシャルな活躍を期待しているぞ。少年」


 力強い握手を交わした後、遠くに見える馬車道を1台の馬車が走っているのを見つけた。


「ちょうどいい。次の街まで乗せてもらうとしよう」

「え、でもあそこまでだいぶ離れて――」

「私を誰だと思っている。あれくらいの距離、わけはないさ」

「ちょっと待ってって――うわあああああああああああああ⁈」


 アインスを強引に抱きかかえ、一息つく間もなくカルミナは馬車に向かって全速力で走りだした。


 ああ、きっとこの先僕は、この人にこんな感じで振り回されるんだろうな。


 選んだ選択に後悔はないが、この先の苦労を考えると、ほんの少しだけ先が思いやられてしまう。


 凡そ人の常識から離れたスピードで迫りくるカルミナの足音を、馬車の主は魔物のものだと勘違いしていたのか、面と向かって挨拶していた時は酷く怯えていた。


 勘違いさせたお詫びに、通常の3倍の料金をカルミナが払い馬車に乗る。


(この先、僕はどうなっていくのだろう)


 自分の能力が特別なものであることは、改めて理解できたし、カルミナという凄腕冒険者の右腕として活動していけるとしたら、自分が思う以上に、この先の未来は明るいものなのだろう。


 だが、それと同時に、今までEランクとして労働に従事していた自分なんかが、世界でも最高ランクの冒険者の右腕として、本当にやっていけるのかどうか不安も押し寄せてくる。


 とびっきりの浪漫を、カルミナは約束してくれた。

 だけど、カルミナの思う浪漫は、自分にとっても大きな浪漫になり得るのだろうか。


 期待と不安が混ざり合いながらも、馬車に乗ったアインスは、カルミナの隣に腰を下ろす。


 馬車の天幕から覗く朝日を見つめながらも、少しだけガタガタと揺れる馬車の振動に身をゆだねながら、新たな門出に思いをはせるのであった。


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