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孤立する党首

「3班、6時の方向から獣型の魔物が10体。火の魔法で足止めを」

『了解』

「10班。宿屋の302号室の中に取り残されている人がいます。中にCランク相当の魔物が4体ほど。誰か向かえますか?」

『了解。数名派遣する』

「ギルホークさん。9時の方向から飛竜型の魔物の群れが発生してます。市街地に入るまでに撃ち落としてください」

『任された』


 避難誘導は、式典の挨拶を聞くために、スピーカー付近に人が集まっていたこと。すぐそばに安全な避難経路ができていたこと、警護の冒険者たちの護衛、誘導が完璧だったことが重なり、非常にスムーズに行われた。


 後はアインスの探知眼を利用し、救助に漏れがないかを確認しながら、魔物の殲滅に当たるだけだ。


「【流星矢】」


 遠くから発生した魔物の群れへ矢を構え、ギルホークの弓に強大な魔力が収束すると、魔力が矢に乗って解き放たれる。

 水生の如く放たれた矢が、無数のエネルギーに枝分かれをし、生まれたばかりの魔物の群れを貫いた。


 一発一発が鋼をも抉るような威力の矢を、超遠距離から無数に放つことができる【弓士】の奥義。

 高ランク冒険者が多く居合わせる中、2~3割は彼一人の戦果だ。伊達にSSランク冒険者の称号を与えられていない。


「カルミナさん。周辺の物資を通路に投げて、こちらへ合流してください」

『了解した』

「ギルホークさんも周辺の魔物を殲滅後、一度補給に戻ってください。代わりの冒険者を向かわせます」

『助かる』

「全班、防衛ラインを一度下げます。交代の冒険者を向かわせるので、拠点に戻って一度休息を。休息を取り次第、今度は外側の魔物を殲滅しましょう」


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「これで街の内側の魔物は全部終わった?」

「はい。後は外側の魔物を全滅させれば、街の方は大丈夫かと」


 地下に形成した避難通路の収束地。

 大規模な大広間のような空間の端で、アインスは探知眼を発動させながらミネアと話している。


「カルミナさんが物資を通路に運び終えました。67番の入り口を閉じてください」

「オッケー。物資も床ごと運ぶわね」


 ミネアが杖で地面に魔力を流し込み、地下通路を操作する。

 後は該当の通路から、カルミナと避難物資がベルトコンベアーのように運ばれてくるだろう。





「避難はこれで終わったのか?」


 暫くすると、支援物資と共に、カルミナが運ばれてきた。

 約10万人を収容している施設を一瞥しながら、アインスたちの下にやってくる。


「はい。後は魔物を殲滅すれば、市街地の方は大丈夫です。……市街地の方は」


 姿こそ見えないものの、アインスが顔を向けた先にはスケイルやナスタがいる連盟本部の城がある。


「……城の中だけ、何故か探知できないんです」

「【カモフラージュ】……対象を、探知眼による探知から守る魔法があるが……」

「城全体を覆えるような使い手となると、使用者は限られますね」


 カルミナの言葉に割り込むような形で、ギルホークも合流してきた。


「【幻覚魔導士】ファルアズム……確かこの式典には招かれていないはずですが」

「シャノンの協力者だったのかもしれんな。いくら何でもシャノン一人でこの規模の反乱を起こすことができるとは思えん」


 合点がいったのか、カルミナがうんうんと頷いた。

 カルミナが水や食料が入っている麻袋を、ギルホークに向かって抛る。


「確か、ファルアズムはダンジョンの生態について研究していたはずだ」

「突如として発生したこのスタンピードも、秘宝の力によるものかもしれません」


 ファルアズムが誰なのかはアインスも知らないが、きな臭い研究をしていたのは間違いない。 

 スタンピードを任意に発声させる力も、秘宝の力と言われればそれまでである。


「それししても、あなたの探知眼は素晴らしいですね。範囲もそうですが、まさか魔力の反応以外も探知できるなんて」


 被害者がゼロで済んだのは冒険者たちの頑張りも大きいが、一番の要因はアインスの探知眼だろう。

 迫りくる魔物の方角から規模、種類の選別。冒険者への指示、一般人の避難誘導、物資の確保までなんでもござれだ。


「内の魔物は滅ぼしたので、後はじわじわと外側に戦線を広げていきましょう。それでスタンピードは収束です」

「ずっと探知眼を使用し続けているが、脳の疲れは大丈夫なのか?」


 アインスが魔力ポーションを飲みながら、「大丈夫です」と頷いた。


「最初はきつかったんですけど、だんだん慣れてきました。それに魔物の数も減ってますし」


 アインスは戦闘が始まって以来、ずっと島全体を探知し続けている。

 戦況が少しずつ良くなって以来、他の冒険者は代わる代わるで休息をとっているが、アインスの代わりはいないので、休むわけにもいかない。


「使用しているうちに、負荷に慣れてきたのかもしれません」

「ならいいが……無理はするなよ?」

「SSランク冒険者に飛び級したのも納得ですね。……冒険者ランクで、少し疑問に思ったのですが」


 ギルホークがミネアの方を見つめた。


「何で彼女はSSランクではないのですか?」

「ねえ魔導士のおねーちゃん。トイレが足りないよー!」

「しゃーないわね。新しく作ってあげるから文句言わないのー」


 ミネアが避難してきた子どもの駄々を聞いて、手洗い場に新しくトイレを増設する。


 急ピッチで仕上げた避難場所だが、ミネアの物質魔法で一通りの生活設備は揃っているうえに、必要に応じて物質魔法で作っている。広間は地上の外灯から拝借した光源石で明るく照らされているし、ガスや水道のライフラインも、物質魔法で管を変形し、一時的に避難施設に繋げているため、困ることはない。

 更には定期的に、地下全体に魔力を流し込んで強度を補強している。地上で大規模な遷都が起こっても、振動1つ感じないのはそのためだ。避難してきた人たちも、初めは戸惑った様子だったが、徐々に落ち着きを取り戻している。


 全体を通してみれば、この作戦のMVPはミネアだろう。戦闘以外の彼女の功績があまりにもデカすぎる。



「……まあ、あいつは、ちょっと、だな」


 まさか素行が原因で昇格し損ねてるなどと、尊敬のまなざしでミネアを見つめるギルホークに言えるわけもない。

 カルミナが言葉を濁しているうちに、「いずれはあなたのギルドと、共同任務に携わらせて頂きたい」と、ギルホークが勝手に締めくくった。


「ねえ、外を殲滅するのはいいけど、城の方へ応援は出さなくてもいいの?」


 便所を作り終えたミネアが、アインスたちの会話に合流する。


「中の様子分からないんでしょ。戦況が落ち着いてきているなら、こっちから応援出したほうがいいんじゃ」


 スケイルが予測したスタンピード発生地点には、城の中も含まれている。

 つまり場内も魔物で溢れかえっている可能性が高い。


「……スケイルさんは、ナスタさんと二人で対処するつもりでしょうし」

「確かにナスタなら一人でスタンピードも何とかできるかもしれないけど、あいつの魔力も無限じゃないでしょ」

「……頃合いを見て僕たちも城へ向かった方がよさそうですね」

「その必要はありませんよ」


 不意に投げられた淡々とした声に、全員が声の方へ振り返る。

 そこには毅然とした振る舞いで、アインスたちの下へと歩いてくるナスタの姿があった。


「私もこちらに合流します。早いところ外の魔物を殲滅してしまいましょう」

「いや……なんで、なんでナスタさんがこっちに?!」

「何か不都合でも?」

「不都合も何も、あのクズ一人にしてきたの?!」


 ええ。と素っ気なく答えるナスタに、ミネアが突っかかった。


「馬鹿‼ あいつ【斥候(スカウト)】でしょうが?! 戦闘能力なんてないのに、あんたが離れたら誰があいつを守るのよ⁈」

「落ち着けミネア」


 ナスタの擁護に回ったのはカルミナだ。


「スケイルなら一人で大丈夫だ。むしろ邪魔になる」

「?! 一体どういうこと……?」

「確かに戦闘スキルはないが、それとは別に、あいつには特別な能力があるんだよ。……説明すれば長くなるが、端的に言えば——」


 スケイルの姿を思い浮かべたのか、カルミナが戦慄するように息をのんでから、安堵と畏怖が混ざったような複雑な顔色になってから告げた。


「SSランク冒険者を含めた、世界中の冒険者を束にして戦っても、あいつ一人には敵わない。それだけの力をあいつは持っている」


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