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答え合わせ① ~スケイルが託したものは~

 時は少し遡り、慰労会が終わって、アインスたちが宿へ戻った時の事。

 部屋の鍵、窓を完全に閉め切ると、防音魔法が発動して、部屋の外から、中の会話を聞かれない状態になる。流石は王族御用達の宿といったところだ。


 スケイルから渡された手紙、資料、念話石にポーションの一部を取り出してから、アインスは卓にカルミナとミネアを集め、改まった様子で切り出した。


「結論から言います。スケイルさんはシャノンさんが何か良からぬことを企てていると考えています」


 シャノンの顔なじみである2人には受け入れがたい内容だ。

 アインスが気まずそうに目を細めるが、2人は少しだけ目を合わせた後、「……一応理由を聞きたい」と返す。

 どうやらカルミナたちも同じ結論に至っていたらしい。


 アインスがまず取り出したのは、スケイル直筆の手紙だった。


 ~~~~~~~~~~~~~~~~~


 3馬鹿諸君へ。


 僕の連盟の周年式典に嫌々出席してくれてありがとう。

 出席するからには、馬車馬の如く働いてもらおうかな。


 君たちに頼みたいのは、明後日に行われる式典の警備だ。外のことは完全に君たちに任せる。


 渡した警備計画書については、ナスタ、シャノンにしか渡していない極秘事項だ。資料については、誰にも口外するな。誰にもだ。


 後、アインス君はまだ他所の冒険者ギルドの者たちとの交流が少ないだろうから、今夜行われる、慰労会には出席するように。他ギルドにどのような冒険者がいるか知るのは、いい経験になるだろうからね。


 式の間、僕は自由に動けないから、警備は頼んだよ。

 報酬の一部を先に渡しておく。好きに使ってくれたまえ。


 それじゃあ、あとは宜しく。


 追伸。マジックバックは返せよ。ミネアちゃん。


 ~~~~~~~~~~~~~~~~~


「まず注目すべきはここです。『外のことは()()()君たちに任せる』」


 アインスが該当の個所を指でなぞりながら続ける。


「なのに次の文では、ナスタさん、シャノンさんにも警備計画書を渡していると記載されています。しかもそのことについて『()()()口外するな』と念押ししています。2度も」

「確かにそれは変だと思ったけど……」


 ミネアが腕を組んで唸りながら、疑問を口にした。


「『君たち』の定義にナスタやシャノンも含んでいるなら、別におかしなことはないんじゃないの。2人と連携して警備したほうがいいのは違いないんだし」

「だとしたら、『口外するな』の前に『上記の者以外』といった旨の一文が付くはずです。それに協力してくれる冒険者には、どっちにしても警備について知らせる必要があります。わざわざ秘密にする意味も分からない。『誰にも』なんて念押しするのはおかしいですよ」


 アインスの意見に反論できず、ミネアが押し黙る。


「だから僕は、ナスタさんかシャノンさん。……あるいはその両方に、僕たちとは違う警備計画書が渡されているのではないかと思いました」

「だからか」


 ミネアと入れ替わるように、カルミナが発言した。


「あの時、『シャノンやナスタが、手紙の内容と矛盾する行動をとっても、その違和感を口にしないように』と言っていたのは」


 スケイルの手紙から何かを感じ取ったアインスが、カルミナとミネアに釘を刺したのはそのことだ。


 そして、2人の前でアインスが、『明後日のことで』と曖昧な言葉で話を切り出した時。


 ナスタは『事前の打ち合わせ通りに』と言葉を濁し、一方でシャノンは警備の詳細について、口にして確認を取った。


 この時アインスは、ナスタと自分たちには同じ内容の伝達がされる一方で、シャノンに対して、『口外するな』との連絡が行っていないことに気が付いた。


 スケイルが暗に、シャノンを疑えと示してきていると気が付いたのはその時だった。


「……それに、細かなことではありますが」

「この部屋のルームキーでしょ」

「……はい」


 ミネアの推理に、アインスが頷く。


「受付に行けば受け取れるものを、シャノンに預からせて、渡して貰おうなんて変じゃない。……無理やりにでも、私たちと一度は接触させたかったんでしょうね」


 人使いの粗いスケイルではあるが、無駄に手間をかけさせるようなことをわざわざさせるとは思えない。

 性格がねじ曲がっているので、もしかしたら嫌がらせ目的でさせるのかもしれないが、状況証拠的には、一度接触させる意味合いが強いだろう。

 ナスタはそのような頼みごとをしていない以上、味方とみて問題はなさそうだ。


「以上の事から……スケイルさんは、僕たちにシャノンさんの行動を警戒していてほしいと伝えたかったんじゃないでしょうか」

「なるほどな……」


 アインスが出した結論に、2人は受け入れがたそうに眉をしかめていたが、少しだけ俯いて、暫く手紙を見て黙っていた。

 わざわざアインスの推理を否定することをしないからには、説明に納得はしているのだろう。


「だが、そうなると不可解な点がある」


 カルミナがアインスに向き直る。


「話しぶりから察するに、シャノンに渡された警備計画書と、私たちに渡されたものは一緒のものだ。疑っている相手に、同じ計画書を渡す狙いはなんだ?」


 シャノンが話した警備の内容は、アインスたちに渡されたものと情報に相違はなかった。つまり、警備計画を誤認させたくて渡したものではない。

 だとすれば、その狙いは何なのか。


「恐らく、行動の誘導かと」

「誘導?」


 首を傾げた2人に、「はい」とアインスが警備計画書を見直した。


「恐らく、スケイルさん自身も、シャノンさんが何を企んでいるか……企んでいたとして、いつ、どこで実行に移すかは確証が得られなかったのかと。だから、信頼する振りをして警備計画書を渡し、行動を誘導しようとした」

「具体的には、式典が行われている最中ってこと?」

「はい。スケイルさんはそう判断したのだと思います」

「そうだとして、何をどのように実行するかまでは分からないぞ」


 スケイルがシャノンを警戒しているように、シャノンもスケイルを警戒しているのだろう。自分が警戒されていることを利用して、スケイルは対策の実行をアインスたちに一任したに違いない。


 だが、対策を打つためには、何を警戒すればいいのかは、シャノンの行動を予想しなければならない。

 予測しようにも情報が足りなさすぎる。いったい自分たちに何をしろって言うのだ。


 カルミナの疑問に答えるように、アインスは謎の三つの紙を取り出した。


 1つ目は、とある一点から複数の直線が四方に伸びたような、謎の幾何学模様が描かれた紙。

 2つ目は、幾つかの赤い円が疎らに描かれた紙。

 3つ目は、『覚えているかい?』と煽るようなメッセージと共に、幾つかの×印と、とある日の日付が書かれた紙。


 3つの紙に共通しているのは大きさと、右上の同じ場所に方位記号が描かれていることぐらい。


「……二人とも、ここに記載された日に、僕たちが何をやらかしたか覚えていますか?」

「やらかした? ……っていうと」


 2人が紙を見つめて考え込み、すぐさま苦い表情になった。


「……私たちが勝手にダンジョンに潜って、ダンジョンブレイクを起こした日だな」


 カルミナたちとあって、初めて【インシオン】の変異ダンジョンに潜り、その攻略に失敗した日だ。ダンジョンブレイクの原因はカルミナたちにはなかったものの、その後発生したスタンピードで、街に迷惑をかけてしまったのには変わりない。


 その事件があっての今の自分たちの成長があるが、苦い思い出なのには変わりない。

 少し気まずそうに目を逸らしながら、「それが今回の件とどう関係があるんだ?」とカルミナが訊ねる。


「……この紙たちは、警備計画書の上面図と合わせて、4枚で1セットなんです。方位記号を基準に向きを合わせ、全てを重ねてみることで初めて完成します」


 アインスが重ねて、紙の裏から光源石のライトを使って紙を透かし、地図の真の姿をカルミナたちに示した。


 確かに、島全体を写した上面図と、3枚の紙の記号たちは、謎に一致するように思える。


「これが何を示しているっていうの?」

「恐らくですが、×の印を起点に、スタンピードが発生します」

「何だと?!」「何ですって?!」


 アインスが告げた予想に、カルミナたちが悲鳴に近い声を上げた。


「なんで連盟本部でスタンピードが?! ブレイク寸前のダンジョンどころか、ゲート1つすら見つかっていないじゃない?!」

「僕にもそれは分かりません。ただ、スケイルさんが警戒しているのは間違いないです」

「複数個所で同時多発的にだとすれば……間違いなく死人が出るぞ」


 シャノンがどのようにスタンピードが発生させるのかは分からない。

 だが、その手段があるとすれば、×印は街中にも複数存在している。

 島の外、そして内から挟み込むように押し寄せる大量の魔物たちに襲われ、街に住む人間のほとんどは殺されてしまうだろう。


「……そうならないために、スケイルさんは僕たちにやるべきことを示してくれました」

「まだ続きがあるのか?!」


 スケイルが渡した、たったこれだけの資料に、いったいどれほどの意味が詰め込まれているのか。

 それを読み取ったアインスに、再びカルミナたちは耳を傾ける。


「では、対策についてです。これから話す内容は、絶対にシャノンさんにばれないようにする必要があります」


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