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膨れ上がる疑念

 

「あ、カルミナさんたち。お久しぶりです」

「……どうも」

「久しぶりだな。シャノン。……それにナスタも」


 連盟本部へと向かい、人ごみをかき分けてアインスが先導する場所へ向かうと。人懐っこい笑みでカルミナたちに手を振ってくるシャノンと、不愛想な顔で帽子の鍔を下げるナスタがいた。


「釣り大会以来ですね。おなかの調子は大丈夫ですか?」

「こいつのおかげで散々な目にあったがな。なあミネア?」

「~♪」


 因縁の出来事を思い浮かべ、カルミナがジトリとミネアを睨む。するとミネアは気まずそうに顔を逸らし、下手糞な口笛を吹き始めた。


「で、わざわざ何の用です?」

「明後日のことについて、スケイルさんに聞きたいことがあって——」


 アインスが話題を切り出すと、ナスタが面倒くさそうに小さく息を吐く。


「……党首様は忙しいのです。事前の連絡通りにお願いします」

「私が西エリア、カルミナさんたちが東エリアの警備を担当ですよね? 当日は宜しくお願いします」

「ああ、よろしく頼む」


 シャノンの言う通り、渡された警備表にはシャノンが城外の西エリア。カルミナたちが城外の東エリア。そしてナスタがスケイルと共に城内の警備を担当することになっていた。

 式典は連盟本部である城の内部で、要人達を招いての催しが行われる予定だ。要人たちの警護はスケイル自身で、ということなのだろう。


「用はそれで終わりですか? ならば私は行きますよ」

「ちょっとあんた。こっちがわざわざ遠くから顔出してやってるってのに、あまりに素っ気ないんじゃない?」

「忙しいといったでしょう。今は私が党首様の代理なのですから」


 ナスタが一瞬だけ目線をやった先には、一般人に紛れてニタニタと手を振ってくるスケイルの姿があった。正体を隠すためとはいえ、業務を全部ナスタに押しつけて高みの見物とは良い御身分である。


「慰労会には出るんですか?」

「出ませんよ。来賓の対応があるので」


 それでは、とアインスたちに背を向けて、ナスタは人混みの中に戻っていった。

 戻った先で、早速他国の権力者たちに絡まれている。スケイルとの中継役は大変だろう。


「式典が終わるまでは、ナスタはあの調子だろうな」


 連盟の冒険者を労うための慰労会にも参加できないとなると少し可哀そうに思える。人付き合いが良い方ではないだろうが、それでも政治絡みのやり取りをずっと強いられるよりはましだろう。

 表には出さないものの、ナスタの背中は少しだけ疲れて見えた。


「私は参加しますよ。慰労会」

「そうか。それは良かった」

「一緒に警備する冒険者たちとも、コミュニケーションを取っておかなければなりませんしね」

「相変わらず真面目ね~。私は高い酒と料理を存分に楽しむわよ~」

「じゃあ僕もそうしましょうかね」

「慰労会までに宿に荷物を置いてきたらどうですか? これ、党首様から預かっておいたんです」


 シャノンが取り出したのは、城の傍にある高級宿のルームキーだ。


「王族御用達の宿じゃない?! いいの? こんな高級宿」

「スケイルのことだ。いざという時に要人の警護に当たれるよう、傍に置いておきたいだけだろ」

「ははは。正直に言うと、そんなとこだと思います」

「……そんな気を遣うくらいだったら普通の宿に泊まりたいんですけど」


 そんなことを気にかけていては、存分に休息など取れそうにない。

 ある種信頼されている証でもあるが、使うならとことん使い果たそうというスケイルの魂胆が現れてもいるルームキーを受け取って、カルミナたちは宿に荷物を預けた。


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「すっごい。部屋に防音魔法がかかっている」

「王族が使う宿だからね。セキュリティも万全を期しているのよ」


 案内された部屋には、光源石を利用した高価なシャンデリアに照らされた、広大な応接間にはキングサイズのベッドが人数分供えられていて、机や棚には最高級の菓子類やワインが並べられている。

 広々としたラウンジからは、連盟の街の風景が一望でき、雄大な景色を堪能できる。世界最高峰の宿の一つだ。


「見ろ、2人とも! ベッドが見たことないくらいフカフカだぞ!」


 カルミナが興奮した様子でベッドに飛び込むと、飛び込んだ勢いで、布団から何かのメッセージが書かれた紙がふわりと舞いあがった。

 舞い上がった紙を、ミネアがキャッチし、メッセージに目を通し、


『高い宿取ってやったんだから、宿代分くらい働けよ』


 すぐさま破り捨ててゴミ箱に捨てた。


「毎回嫌味を言わないと気が済まないのか?! あいつは?!」

「まあまあ、良い宿取ってくれたのはありがたいじゃないですか……」


 乱暴にマジックバックを自分の寝床に放ってから、部屋のドレッサーを確認すると、ドレスが2着、タキシードが1着準備されていた。

 サイズからして、カルミナたち用に特注で作られたものだろう。


「こりゃまあご丁寧にどうも」

「あと1時間ほどあるし、お風呂入ってから行きます?」

「そうだな。私から入っていいか?」

「「どうぞ~」」


 カルミナはバスタオルと下着、用意されたドレスを持って、浴室の中に入っていった。

 大きな浴槽が備わっていたが、時間的にシャワーで済ますだろう。カルミナが上がれば今度は自分たちが入らなければならないので、今のうちに慰労会へ赴く準備を進めておく。


「ねえアインス君」

「はい」


 カルミナの風呂を待つ間、ミネアがアインスに背を向けたまま問いかける。


「確かめたいこと、確かめられた?」

「……はい」

「そっか」


 ミネアが強がったように、少しだけ明るい声になってから、ルームキーを握り締めた。


「私にはまだ、ちょっとしか分からないや」


 言葉ではそう言っているが、ルームキーを強く握りしめる拳を見て、おぼろげながらにその核心へと迫っているに違いない。


 きっとカルミナも同じだろう。

 どこまで突き詰めても、自分が抱いている懸念は懸念でしかない。事が起こらなければ、確信になることはないただの疑念。


 それでもやるべきことをしなければ。


 そう胸に誓ったアインスは、ミネアがシャワーを浴びた後、さっとシャワーを済ませてタキシードに着替えた。


「似合わないわね」

「似合っているぞ」

「どっちですか」


 まだやるべきことは沢山ある。

 明後日の式典までに出来得る限りの準備はしなければ。


 その準備の一つの為に、慰労会への参加は必須条件だ。

 慣れない革靴に履き替えて、ぎこちない足取りでアインスたちは慰労会への会場へと赴くのであった。


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