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スケイルが託したものは


「はあ……散々な目に会った」


 ようやく人混みから解放されたカルミナが、酷く疲れた様子でアインスに手を引かれて外に出る。

 人気のない、建物の裏側に隠れて、一息をつく。


「名刺や商店への紹介状ばかり渡されたが……どうすればいいんだ?」

「私が整理してあげようか?」

「頼む」


 カルミナに名刺や紹介状を渡され、ミネアはざっと目を遠し、要るものと要らないもので仕分けを始める。

 主に残すのは、紹介状を見せることで割引してもらえる店や、冒険者の間で評判の有力店。それ以外のものは後でまとめて捨てるらしい。


「……それで、スケイルに絡まれていたが何かあったか?」


 カルミナに訊ねられて、アインスはスケイルに手渡された、小さなポーチのようなポケットを取り出した。

 小物でも入っているのか、とポケットを開けたアインスが、思わず「え?!」と声を上げる。


「マジックバックだこれ……」

「はあっ⁈」


 アインスたちが持っているものよりも小さいが、値をつけるのであれば5億は下らないであろうマジックバック。

 そんなものを内ポケット代わりに使用し、封筒感覚で渡してくるスケイルには恐れ入る。


「明後日の式典の……警備について、ですかね?」


 マジックバックから取り出した資料には、連盟本部が所在する島の上面図と、それに付随する幾つかの資料が入っていた。

 上面図には、式典が行われる際の、警護に当たる冒険者の配置が事細かに記載されている。


 そして、上面図と同じ大きさの3枚の紙が入っていた。

 一つ目は、とある一点から複数の直線が四方に伸びたような、謎の幾何学模様が描かれた紙。

 二つ目は、幾つかの赤い円が疎らに描かれた紙。

 三つ目は、『覚えているかい?』と煽るようなメッセージと共に、幾つかの×印と、とある日の日付が書かれた紙だ。


「……上面図はともかくとして、あと3枚はなんだ?」

「………………」


 訳が分からず、カルミナたちは紙を見つめて唸るが、これといった案は浮かんでこない。

 3つの紙に共通しているのは、右上に方位記号が描かれていることぐらいか。


 マジックバックにはまだ中身があるらしく、取り敢えず中身を確認してみる。


「それに……巨大な念話石か?」

「それに大量の魔力ポーションね」


 それとは別に入っていたのが、直径50cmほどの巨大な念話石。この大きさであれば、こちらも3億は下らないだろう。

 それに加え、大量の魔力回復のポーションだ。透き通った青色の液体は、一目でわかるほど高品質の魔力ポーションで、一度飲めば、一気に魔力が回復するだろう。

 それが凡そ100本ほど。金額にすれば5000万G分だろうか。


「最後にスケイルさんからの手紙、ですか……」


 3馬鹿諸君へ、と挑発的な宛名書きの封筒を開け、アインスが読み上げ始める。



~~~~~~~~~~~~~~~~~


 3馬鹿諸君へ。


 僕の連盟の周年式典に嫌々出席してくれてありがとう。

 出席するからには、馬車馬の如く働いてもらおうかな。


 君たちに頼みたいのは、明後日に行われる式典の警備だ。外のことは完全に君たちに任せる。


 渡した警備計画書については、ナスタ、シャノンにしか渡していない極秘事項だ。資料については、誰にも口外するな。誰にもだ。


 後、アインス君はまだ他所の冒険者ギルドの者たちとの交流が少ないだろうから、今夜行われる、慰労会には出席するように。他ギルドにどのような冒険者がいるか知るのは、いい経験になるだろうからね。


 式の間、僕は自由に動けないから警備は頼んだよ。

 報酬の一部を先に渡しておく。好きに使ってくれたまえ。


 それじゃあ、後のことは任せたぜ。


 追伸。マジックバックは返せよ。ミネアちゃん。


~~~~~~~~~~~~~~~~~


「相変わらずムカつくわね‼ 盗るわけないでしょうが‼」

「……」


 いや、何も書いて無ければくすねるつもりだっただろう。マジックバック。

 プンプンと腹を立てるミネアを冷めた視線で眺めてから、カルミナがアインスに向き直る。


「報酬というのは、念話石と、大量のポーションか? よく分からんな」

「……」

「アインス?」


 真剣な顔をして手紙を見つめるアインスに、カルミナが改まった表情で顔を寄せた。


「何か気が付いたのか?」

「……分かりません、が」


 アインスは探知眼を発動して、辺りの情報を収集し始める。

 余程広範囲を探っているのだろう。グラッと一瞬だけよろめいたアインスの体を、カルミナが反射で支えた。

 心配と懐疑が混ざった様子で「大丈夫か⁈」と尋ねると、アインスはしばらく探知を続けた後、「大丈夫です」とカルミナを安心させるように体から離れた。


「スケイルさんが用意してくれた慰労会まで、あと2時間ほどあります。一度ナスタさんたちに会いませんか? ちょうど一緒の場所にいるみたいです」

「ああ。いいぞ」

「……それと、2人にお願いがあるんですけど」

「「?」」


 カルミナたちは顔を見合わせてから、アインスに向かい直る。

 小さな声でアインスが告げた内容に、「どういう意味?」とミネアが眉をしかめる。カルミナも同様に怪訝な表情だ。


「……わからないから確かめに行くんです。もしそういう場面に出くわした時に、発言や振る舞いが不自然にならないよう、気を付けてほしいんです」


 アインスが告げた内容に、少し間をおいてから二人は頷いた。

 スケイルから渡された資料や備品をマジックバックにしまいなおし、3人はナスタ達がいる連盟本部へと、再び足を運ぶのだった。


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