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元ブラックギルドリーダーのその後⑤ ~連盟を終わらせるために~

 

「端的に言えばテロだね」


 場所を変えようとファルアズムに連れられ、リードは再びダンジョンを養殖しているエリアの中に戻ってきた。

 禍々しく空間を歪めるゲートを見て、恍惚とした息を吐いてからファルアズムは語りだす。


「酷い話だと思わないかい」


 突然話を切り出され、困惑するリードを置いてけぼりにしたまま話は続く。


「僕はダンジョンのことについて、もっと知りたいだけだというのに……あいつの監視下では自由な研究を許してはくれない」


 酷い話というのはそっちの事か。

 目の前で死刑宣告をされた人間がいるというのに、心配がそっちに傾く以上、ファルアズムもリードの生死に興味はなさそうだ。


「あいつはこの世界を管理しているつもりだろうが、この世界を発展させたのはダンジョンが生み出す秘宝……今の世界の繁栄はダンジョンのおかげなんだよ。そうは思わないかい?」

「え、ああ……」

「つまりダンジョンの生体、思考! その全てを解明することは、人類の発展に大きく意味があることなんだ! 僕の個人的な興味だというのは認めるが、それと同時に世界へ貢献するという意義もある!」


 ダンジョンの秘宝が人間に大きな益をもたらすことは言うまでもない。動力石は乗り物や船のエンジンになるし、マジックバックは流通の概念を覆す逸品だ。その活用法と得られる利益を語り出せば、語り尽くすなど不可能だ。

 だからダンジョンについて解明すれば、人の役に立つというファルアズムの理論は正しい。


 故にスケイルもダンジョンの研究を認めていた。少なくとも外から話を聞く限りはそうだった。

 打ち切った原因はきっと別にある。非道なスケイルでもNOを突き付けるほどの何かが。


「その……なんだ。あんたは自由にダンジョンの研究をしたいから、連盟を潰したいわけだよな?」

「ああ、その通り」

「連盟はそもそも、あんたの何を禁じようとしたんだ?」


 フフフ、と小さく笑ってから、ファルアズムはゲートたちを一瞥した。

 得体の知れない悪寒がリードの背筋に走る。


「……同族にならわかるだろうが、そもそも死刑になるような奴ら皆、根元の思想が利己的なのが問題でね」


 同族になら、との前置きに苛立つも、否定できない以上、眉間に青筋を立てながらも、苦虫を噛み潰した表情になる。

 試験官を気絶させたときも、殺すつもりが無かったのは本当だが、それ以上にSランクギルドのリーダーという地位に目がくらんだこと。そしてギルドランク降格処分の可能性をちらつかせられ、自分が築き上げたものを奪われる焦りから正常な判断ができなくなったことが原因だ。


 故意ではなかったとはいえ、利己的な考えだったという指摘は正しい。


「死因や与える恐怖を調整すれば、生み出す秘宝に幅を持たすことができる。だが、ある程度すれば、それに限界が来た。ダンジョンが新しい秘宝を生み出さなくなった。理解し始めたんだ。そんな自分勝手なやつらの願いを叶えても、それが人間という種全体の役に立つとは限らないと」


 基本的には研究所内のダンジョンは、敢えてダンジョンブレイクを起こし、散らばった種子を利用し、再び研究に活用しているため、人間で言う世代を跨いだ状態なのだろう。


「新しい秘宝を生み出すために——新しい価値観を与える必要があるんだ」

「新しい、価値観……?」

「ああ。今まで食わせた奴らとは、違う価値観を持つ人間……僕はね——」


 興奮を抑えられのか、大きく嬉々とした声を上げてファルアズムが叫んだ。









「僕はダンジョンに、()()を食わせてみたいっ‼」








「————————は?」





 その言葉を聞いたリードの口から、乾いた声が漏れた。


 言葉の意味が分からなかったわけじゃない。

 ただ、1人の人間として、口にした内容が受け入れられなかっただけ。


 自分が尊厳とか、命の価値だとか。そんなものを語れる立場にないことはリードも分かっている。私欲のために他人を巻き込み、死にたくなさで死刑囚たちをダンジョンの中に押し返し続けた人間が、人道なんか語っていいわけがない。


 それを理解してなお、ファルアズムの発言はあまりに人道から外れたものだと、リードの脳が拒否反応を示している。


 突然頭を殴られたような衝撃に、困惑しているリードを気にもかけず、ファルアズムは一方的に持論を語りだす。


「死の間際に、自分じゃない誰かを思えるような人間を食わせて見たらどうだろう?! 自分の命を賭して、誰かの幸せに尽くすような人間を食わせて見たらどうだろう?! きっと見たことない秘宝ができるはずだ‼ 誰もが見たことない、とびっきりの繁栄を約束するような秘宝が‼」

「罪のない人間を餌にする気か⁈」

「実際成功だった‼ 食わせて見たら、最高の秘宝を生み出したんだ‼ 僕の説は間違ってなかった‼」


 スケイルが訊ねた、戸籍の無い人間や難民の不自然な消失は、コイツの仕業だったのか。

 全てを理解したリードが、後ずさりをしながら息をのんだ。


 おそらく国も絡んでいるのだろう。スケイルがファルアズムと国の行いについて、その場で深く追求しなかったのは、恐らく確定的な証拠がまだ用意できていなかったのと、表沙汰になる前に共同研究を打ち切ることで、その責任から逃れるためだ。


 勘づきこそしているものの、スケイルにさえ極秘で行われている研究だ。わざわざ証拠なんて残しはしない。

 ファルアズムは自分の下で目を光らせておけばいい。連盟とこの非道な研究を行った国が、物証で繋がりきる前に、その関係を断ち切りたかったのが、研究中止の命令を出した主な要因だ。


「君も生き残りたいなら、僕に協力するしかないぜ?!」


 はあはあと息遣いを荒くしたファルアズムが、恍惚とした顔でリードに向かい直った。


「人類の繁栄を阻止する巨悪を倒し、世界繁栄のきっかけを作る英雄になろうじゃないか⁈」


 スケイルがいる以上、リードの生存は許されない。


 生きることを許されないだけのことをしたのは受け入れがたいが、傍から見た時に理解ができる。


 他者の最低限の尊厳を傷つけないのが人間であるのならば、自分は人間を名乗る資格はないし、人権を主張する権利もない。


 自分が人間でないと前提を置いてなお、害獣と評された自分とファルアズムの間に、深く大きい溝のようなものを感じ取ってしまう。


 自分が害獣であるのなら、こいつはそれ以上の邪悪な何か。


「英雄、か……」

「そう! 僕らは英雄になるんだ‼」


 リードを背にし、高笑いを上げるファルアズムを見て、リードはしばらく考え込んだ後、ファルアズムに気付かれないように拳を作り、【身体強化】を発動させる。






 見つけたぜ、生きる道。お前に協力する以外に。


 興奮が押さえられないファルアズムは、背後から忍び寄るリードに気が付きもしない。


 罪があるなら、その分何かで償えばいい。

 今までの悪事が全部チャラになるような。そんな功績を上げればいい。


 目の前にいる大量殺人者。そいつはテロを企む反社会勢力の首謀者でもある。


 こいつの首を差し出せば——俺は英雄だ。


 ある程度近づいたところで、リードの魔力を肌で感じたファルアズムが、泡食った様子で振り返る。


「——?! お前何を」

「うおおおおおおおおおおおおお‼」


 気付かれたと悟ったリードが【身体強化】を全開にし、ファルアズムの頭に拳を振るう。

 ファルアズムも対抗して魔力を練るも、不意を突かれたせいで発動が間に合わない。


「俺は英雄だああああああああああああああ‼」


 尊厳を取り戻すため、もう一度人間としてやり直すため、岩をも軽く砕くリードの拳がファルアズムへと繰り出される。

 元Sランク冒険者の鉄拳が放たれようとしたところで、






「そんな利己的な英雄がいるかドアホ」

「————————?!」






 突如として真横から飛んできた矢のようなエネルギーがリードを襲い、その体が大きく吹き飛ばされた。


 死を覚悟していたのだろうか。その場でへたりと座り込んだファルアズムの下へ、1人の人物が歩み寄る。


「興奮すると、すぐ周りが見えなくなるんだから……」

「……ああ。すまない。お前を用心棒にして正解だった」


 なんとか平静を取り戻しながら、差し伸べられた手を握り、引き上げられるように立ち上がる。






「ありがとう、シャノン」






 リードを吹き飛ばしたのは、スケイルの忠臣であるはずのシャノンだった。

 いつもの快活な明るい顔は消え失せ、冷めた目つきで横たわるリードの様子を伺いながら、シャノンは呆れた息を吐いた。


「あんたの首を差し出せば、助かるかもと思ったのでは?」

「なんて自分勝手なやつなんだ……」

「人のこと言えた立場じゃないでしょう」


 不意を打たれ、攻撃をまともに喰らって動けないリードの下へ、シャノンが歩み寄ってくる。


「で、どうすんの。こいつ」

「不快だ。もう要らん。ダンジョンの餌にしろ」

「腐ってもSランク冒険者。良い餌にはなるか」


 リードは動けないリードの服の端を掴んで、ズルズルと引きずりながらゲートの方へと歩き出す。


「何番?」

「13番だ。あのダンジョンが一番難しい」

「了解」


 指定のゲートの前まで移動し、中へ抛ろうとリードの体を持ち上げた時、弱弱しい声で「やめろ……」と懇願された。


「結局あんたも犯罪者。自分の事しか考えていなかった、死刑囚たちと同じゴミだったな」

「お前らも……同じだろうが……」

「一緒にするな」


 不快そうに眉間にしわを寄せた後、シャノンは乱雑にリードの体をゲートに向かって放り投げた。


「あんたと違って、私には大義がある」


 ダンジョンの中に投げた後、シャノンはポケットからダンジョンシードを取り出して、目の前のゲートに向かってかざす。

 すると時空のゆがみがダンジョンシードの中に吸い込まれ、ダンジョンシードが黒く変色した。


「で、準備は整ったの?」

「ああ。決行は来月の、連盟設立を祝う周年記念式典だ」

「いよいよね……」


 シャノンが右手を握り締め、決意を固めるように力を込めて天を仰ぐ。


「あの悪魔の支配から、世界を開放するとき」




 その後、研究所は直ちに解体され、スケイルは押収した実験データを、連盟の機密文書を管理する施設の中に保管した。

 研究で得た秘宝は、共同研究を行っていた国に全て渡したそうだ。自分の手元にあっては、研究に関与していたという証拠になると考えたのだろう。


 いずれにせよ、罪なき人民を手にかけたことを白日の下に晒せば、自分の下に戻ってくるものだ。

 スケイルが党首の仕事と並行して、事件の証拠探しに奔走する。




 だが、証拠を集めきる前に、計画のXデーである連盟設立周年記念式典が連盟本部で行われる日を迎えることとなったのだった。


これにて第四章終了です!

少し短めの章でしたが、いかがだったでしょうか?


そして、次回から最終章のスタートです。

こちらは少し長めの章になる予定ですが、お付き合いいただければ幸いですm(__)m


続きが気になる、面白い! と思っていただけたのであれば、是非ともブクマや、下の☆☆☆☆☆から評価をおねがいします!


それでは最終章、どうぞ宜しくお願い致しますm(__)m

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