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深海の大物

 指定の海域に着くと、すぐさまアインスは探知眼を発動させた。


「ありますね、底の深いエリアが」


 アインス曰く、海底の岩盤を深く抉ったような、水深の深いエリアがあるらしい。海底までの深さは凡そ800mといったところか。


「どうだ? でかい獲物はいそうか?」

「ちょっと待ってください。探知してみます」


 アインスが意識を海底に巡らせ、大きな獲物を探知する。

 どうやら海底にも生命は多く存在しているらしい。珍しい姿の小さな小魚や、甲殻類が探知できる。

 だが、移動したのか、それとも絶滅してしまったのか、ダイオウイカのような大きな生物は中々探知できない。

 そしてしばらく探知を続けたところ、


「ダイオウイカはいませんが……一匹いますね。超絶デカいのが」


 船のほぼ真下。一際デカい生態の反応を探知し、アインスが唸る。


「全長10mほどでしょうか。サメのような……むっくりした魚のような……魔力の反応があるから、魔物の一種みたいです」

「随分と大きいわね。他にいないならそれに狙いを絞りましょ」

「そもそもどうやって釣るつもりだい? そんな巨大な魚……もとい海底生物を釣り上げるような釣竿なんかどこにもないぜ?」

「なければ作りゃあいいじゃない」


 その生物を釣り上げる手段がないとみて、スケイルが小馬鹿にするような態度で絡みに来るも、ミネアはそれを余裕の表情で一蹴した。


「ねえ、後で戻すから船を改造してもいい?」


 ミネアが訊ねると、船長が「お、おう」と戸惑いながら頷いた。


 改造? 何をどうやって?


 ざわつく周囲の者たちを横目に、ミネアは杖を取り出して、船に魔力を流し込む。


「【再構築】」


 すると、船体の一部がみるみると変形していき、甲板に固定された一本の巨大な釣り竿が出来上がった。

 深海まで糸を伸ばさなくてはならないため。釣り糸を集め、数十本の釣り糸を一本の釣り糸として、再び【再構築】。太さも長さも増した強靭な糸が出来上がる。

 釣り糸の先に付けられたのは、ミネアには因縁のある、あの巨大な釣り針だ。

 

「……まるでサルベージの設備ですね」


 釣竿というよりは、サルベージの機械。

 出来上がった設備を見て、ナスタが呆れたように息を吐いた。


「なんで即興でこんなもの作れちゃいますかね? ミネアさん凄すぎませんか?」

「……ほんとに実力だけは超一流なんだよなあ。いろいろと隙が多いだけで」


 シャノンの感想に、スケイルも関心を通り越して呆れた表情だ。

 

「木製だけど、私の魔力で強度を上げているから、そんじょそこらの鉄より硬いわよ」

「糸の強度も上がってますね」

「長さも申し分ない。深海まで針を垂らすことはできそうだな」


 兎にも角にも、これで準備は整った。

 船の者から、釣れた魚を分けてもらい、釣り針にセットする。


「よし、行くぞ」


 カルミナが重しをつけた釣り針を海面に落とすと、リールが回って、餌が付いた釣り針がどんどん海底へ沈んでいく。

 だが、その途中で探知眼を発動させているアインスが「あ⁈」と声を上げた。


「餌が外れました。多分水圧で餌が崩れて、釣り針から外れたのかと」

「……餌を私の魔法で、変形しないよう守ってあげなきゃいけないわね」

「下ろす速度が速すぎたかもしれん。餌が外れないよう、次はゆっくりと糸を垂らしてみる」


 1回目の釣りは失敗に終わった。

 

 反省を活かし、ミネアが餌を物質魔法で強化し、水圧で変形しないように強度を上げた。

 カルミナもリールに手を添えて、今度はゆっくりと餌を海面に下ろしていく。


 そして、また針を沈めていたところで——


「ああっ?!」

「今度は何?!」

「食ってます‼ 他の魚が餌を食ってます‼」


 どうやら沈めていく最中に、他の魚が寄ってきて餌を食べ始めたらしい。

 目標の水域にたどり着くまでに、餌は喰いつくされてしまい、一度回収する羽目になった。

 魚の種類や、餌の大きさを変えて何度も試すが、餌はその度に食いつくされる。


 餌に恵まれない新海だ。食えるものが投入されれば、それは群がるに決まっている。


 その後餌の強度を調節して、何度か他の魚に食われる前に、大物の傍に寄せることは成功するが、肝心の大物がヒットしない。

今食欲がないのか。そもそも餌の種類が合わないのか。

 餌を投入すれば魚が群がる以上、前者が原因だとは考えにくい。餌の相性が悪いことが原因の可能性が高い。


「ダメだ。旨味たっぷりの高級魚の切り身でも反応なしだ」

「探知したところ、舌の味覚細胞が他の魚に比べてめちゃくちゃ多いです。ホントに餌を選り好みしている可能性があります」

「とんだグルメフィッシュだな……」

「魚のくせに生意気ね。どれだけ舌が肥えてるんだか」


 その後、何度も餌を変えチャレンジするも成果は上がらない。

 ありとあらゆる餌を試す頃には、既に大会終了まで10分を切っていた。


「そろそろ諦めた方がいいんじゃないかな~?」


 スケイルがウザったい声で絡みに来る。時間が迫ってなければ悪態を返すのだが、反論できないぐらいにカルミナたちの間に諦めのムードが漂っていた。


「どうする? もう諦めて舟食う?」

「なんで僕に謝る発想が出ないんだよ」


 ミネアがため息交じりに漏らすも、カルミナは「あと1回はトライできる」と最後までやりきる構えだ。


「でも、あの魚が食いつきそうな餌なんてありますかね?」

「ここで使えそうな餌は使ってしまったからな。あの魚が食いつきそうなものとなると……」

「万策尽きたか……?」

「……」

「……ミネアさん? なんです? 僕の方を見て」


 いい案が浮かばず、沈んだ顔をするカルミナに反して、ミネアはアインスの方をじっと見つめて、何やら考えている様子だ。


「アインス君。あなた市場でご飯を買い込んでたわよね?」

「ええ。今日の夜食用に」

「……」

「……ミネアさん?」


 何を思いついたのか、腰を低くしながら、じりじりと歩み寄ってくるミネアに、アインスが思わず後ずさる。

 

 まさかこの人。


 勘繰った時には遅かった。ミネアは一瞬のうちにアインスにとびかかり、マジックバックを奪い取る。


「ちょっと何するんですか⁈ ああっ! それ100食限定のフィッシュバーガー‼ 大事にとっておいたやつ‼」

「借りるわよ~」


 アインスの制止を振り切って、ミネアがアインスの夜食を釣り針にぶっ刺した。


「何よ~揚げ物ばっかり買い込んで。これもそれもせっかくだから使っちゃいましょ」

「ああああ! あああああああああ⁉」


 そして連ねるように、アインスが買い込んでいた総菜をどんどん刺し込んでいく。

 出来上がった揚げ物の刺さった釣り針を海に投下し、意気揚々と針を沈め始めた。


「あんまりだ……こんなのあんまりだ……」

「優勝したら倍にして返してあげるわよ。ゴタゴタ言いなさんな」

「魚が人間の惣菜なんて食べるわけないでしょう?! 少しは物を考えて——」


 アインスが抗議の声を上げた瞬間、船体が大きく傾き、船にいた全員が体制を崩した。


「何だ?! 何が起こっている?!」


 アインスの体を支えながら、カルミナが船体にしがみつく。

 海が荒れているわけでもなければ、岩礁に乗り上げてしまったわけでもない。

 全員が困惑している中、スケイルが「おい」と、ミネアの釣竿を指差した。


「引いてるぜ?」

「「「え?」」」


 示された方向を見てみると、釣竿がものすごいしなり具合を見せながら、海面に向けて引っ張られている。

 アインスが慌てて探知眼を発動させると、


「え?! えええええ?! 食ってます‼ 大物、かかってます⁉」

「マジか⁈」


 今までピクリともしなかった大物が、とうとうミネアの針に食らいついた。

 ミネアが糸を巻き取ろうと、リールを巻くが——


「ちょっ?! 重?! びくともしない‼」


 力が強すぎるのか、どれだけ力を振り絞っても1㎜たりとも動かすことができない。

 そうしているうちに、船体がどんどん海面に向けて傾き始めた。


「糸を切れミネア‼ このままじゃ船が沈む‼」

「嫌よ‼ せっかくかかったのに‼」

「言ってる場合か⁈ このままだと全員海の藻屑だ!」


 意地でも竿を離そうとしないミネアを見て、「しょうがないな」とスケイルが頭を掻いて歩み寄る。


「手伝ってやるから、僕の指示通り動いてくれよ?」


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