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昇格・Sランクギルド

 

 お茶と言われて連れられてきたのは、スケイルが泊まっている宿のカフェスペースだ。

 この町で最も高級な宿ということもあって、紅茶一杯の値段もかなりのものだった。余程いい茶葉を使っているに違いない。


「好きなものを頼めよ。払ってやるからさ」


 スケイルに言われ、カルミナとアインスはケーキセット。ミネアはメニューの中で一番高い高級パフェと紅茶のセットを頼んだ。

 硝子の容器に盛られて出てきたパフェを見て、アインスが思わず「すごい」と唸る。そっちにしておけばよかったと言わんばかりの表情だ。


「フローゼでいいもの見つけたじゃあないか。無限に水を生成する水壺だろ?」


 突然ふられた話題に、カルミナたち一行が一斉に茶を気管に詰まらせた。


「ゴホッ、ゴホッ! ……知っていたんですか?」

「後からだがね。これでも君と同じ眼を持ってる人間だぜ?」


 スケイルがこれ見よがしに探知眼を発動させ、目を金色に輝かせる。


「ナスタ。あれを」

「はい」


 スケイルが手を挙げると、ナスタがカバンの中から一枚の新聞を取り出した。彼女の鞄もマジックバックらしい。

 スケイルがとある記事を指差すと、アインスたちの表情がみるみるうちに青ざめていく。


「いや……! この記事はちょっと……!」


 ~~~~~~~


 連盟が蘇らせた砂漠のオアシス。


 ダンジョンから出た魔物の被害により、オアシスが枯れた【フローゼ】の町。

 連盟の冒険者がダンジョン内で見つけた秘宝により、泉が復活。町の住民は歓喜に溢れた。

「連盟の冒険者様には感謝しかありません」町の長であるミト氏はこう語る。


(中略)


 フローゼは、商人たち御用達の、マグナサバナの東西をつなぐ貴重な交易地だった。

 町の復活により、以前のようにマグナサバナの貿易は発展していくことだろう。

 国王は連盟に対し、謝礼として北にある鉱脈から採れる希少鉱物の優先取引権を約束する。今回の一件は国政にも多大な影響を及ぼし、連盟は更なる支持と権力を得ていくことになるだろう。


 ~~~~~~~


 一面に大々的に書かれていたのは、カルミナたちの手に入れた秘宝で、フローゼの町が救われたという記事だった。


「馬鹿?! こんな大々的に秘宝のことを公にしたら、あの町の水壺が狙われちゃうじゃない?!」

「馬鹿はそっちだ。その水壺を守るために僕が公にしたんだよ」


 慌てて食って掛かるミネアを、スケイルが呆れた息を吐きながら宥める。


「そもそもちゃんと調べれば、あそこの水源が自然にできたものじゃないことくらい誰にでもわかるんだよ。逆に今まで秘宝のことがバレていなかったのが奇跡だ。そして今回の一件で水源が枯れ、また不自然に復活した。もう隠しきれないだろ? あの町の長だけで守り切れる状況じゃあなくなったのさ」

「それはそうかもしれんが……」

「だから他国の連中や悪党が秘宝を狙う前に、今回の件を公にしたわけ。これであの水壺は連盟の所有物。あれを盗めば連盟を敵に回すことになる。今の情勢でそんな馬鹿は現れないだろう」


 スケイルの言うことは確かにその通りだ。確かにあのレベルの秘宝であれば、他の国が狙ってもおかしくない。キリエ達【フローゼ】の住民が守り切るのは無理がある。

 連盟の後ろ盾があれば、秘宝を狙う者もいなくなるだろう。実質的にフローゼの町もとい、その大元の国であるマグナサバナは連盟の傘下に入るわけだ。


「もちろん貰うものは貰っている。タダで人助けはしないさ」


 貰ったもの、というのは、マグナサバナで採れる希少鉱物の優先取引権だろう。


「……今日来たのは、偽の報告書を出した僕たちを叱るためですか?」

「おいおい。僕が私情で叱りに来るような、器の小せえ男に見えるのかい?」

「「「……」」」

「おい黙るな」


 器が小さいとは思わないが、それ以上に性格がねじ曲がっているのが否定しきれない原因である。

 カルミナたちの態度にムスッと顔をしかめると、「要件はこっちだ」と一枚の羊皮紙を取り出した。


 一瞬怪訝な顔で羊皮紙を見つめたカルミナが、「なっ……?!」と目を丸くして、その紙を手に取った。


「この件が公になる……即ち、君たちの活躍も公にしなければならないということだ。この前の報告書は破棄し、高ランク——Sランクダンジョンをクリアしたものとして、成果を改めさせてもらう」

「てことは……私たち……」

「ああ。Sランクギルドに昇格だ。おめでとう」


 スケイルが出したのは、連盟の印が押された、Sランクギルド昇格の証明書だった。

 カルミナたちはしばらく無言で顔を見合わせた後、大きな歓喜の声をあげて、互いを抱きしめ合い、全身で喜びを表現した。


「そういうわけで、このしょぼい光源石は返すぜ」


 スケイルが机に置いたのは、キリエの母の形見である小さな光源石だ。


「そうだ。ギルド名いい加減考えておけよ。Sランクギルドになって仮登録じゃかっこがつかないぜ?」


 スケイルはそう言うと、伝票を持って会計に向かい、カルミナたちの分まで代金を支払って出て行ってしまった。

 その後を追ってナスタとシャノンが店を出る。シャノンが店を出る前にカルミナたちに「おめでとうございます」といって手を振った。


 釣銭を受け取るのを拒否したスケイルの背中が消えてから、カルミナたちは改めてSランク昇格の証明書を見つめて、頬をほころばせた。


「……まさかこんなことになるとはな」

「あいつもちょっとはいいとこあるのね」


 コツコツとランクを上げようと計画を練っていた所、いい意味で計画を打ち砕かれることになろうとは。

 喜びのあまり、まだ現実として受け止められていないのか、妙な浮遊感が一向に漂っている。


「皆のおかげだ。本当にありがとう」


 カルミナが改まった様子で、アインスとミネアに頭を下げた。


「……カルミナさんのおかげですよ」

「あんたが集めたメンバーでしょ。誇りに思いなさいな」


 互いに互いをたたえ合って、3人は嬉しそうな顔で笑い合った。

 喜びの熱が落ち着いてきたところで、


「そういえば、ギルド名どうする?」


 ミネアがカルミナたちに訊ねると、「まだ考えていない」とカルミナが難しい顔をした。

 全員でお茶を飲みながら考えるも、いい案が一つも浮かんでこない。


「……後でゆっくり考えるとして、ひとまずはお祭りを楽しみませんか?」

「それもそうだな。ここを出たら釣り大会の準備をしよう」


 カルミナの言葉に皆で頷き、ケーキとパフェで腹を満たした一行は、港で釣りの道具一式を揃え、大会の受付所へと足を伸ばすのだった。



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