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海の町【シャンブルグ】 そして予期せぬ再会

第4章です。

宜しくお願い致します。


ちょっと緩めの章になる予定です。

 

「皆、この度のダンジョンの攻略ご苦労だった」


 フローゼの変異ダンジョン攻略から1カ月たった後、とあるEランクダンジョンの攻略を終えた一行は、焚火を囲みながら乾杯をした。


「あと1件Eランクダンジョンを攻略すれば、ギルドランク昇級試験が受けれますね」


 カルミナのギルドのランクは未だ最低ランク。昇級の為にはEランクダンジョンを何度か攻略し、昇級試験を受けなければならない。

 昇級試験を受けるために必要な依頼はあと1件。Dランク昇級まで着々と歩みを勧めてはいるが、


「その依頼を取るのが難しいんだけどね。次のダンジョン紹介まで1か月待ちとかでしょ?」

「低ランク故に、受注自体は誰でもできるからな」

「依頼をこなすことより、受注する方が苦労するなんて……」


 Eランクダンジョンは役職持ちであること以外に、受注制限がない為、依頼取得の競争倍率は、他のランクのダンジョンと比べてもかなり高い。

 そのため何でもいいから攻略したい旨を、連盟の紹介所に伝えてはいるのだが、次の依頼を獲得できるまで、最短でも1カ月近くかかる見込みだ。


「次の依頼までどうする?」

「近くの街まで行って討伐依頼でも探そうか。幸い、あと3日ほど歩けば大きな港町がある」

「暫くはそこを拠点にするんですね」

「ああ」


 アインスは地図を広げ、次の目的地を確認する。

 今いる地点から南西にしばらく歩けば、海岸に面した大きな港町【シャンブルグ】にたどり着く。


「シャンブルグは魚が美味いぞ。あそこの海鮮料理は絶品だ」

「いいですね。僕、海の魚は初めてです」


 アインスは内陸の辺境の地に住んでいたため、海の魚を食べたことがない。

 カルミナの持っていた図鑑で生物としての知識だけは仕入れていたが、味については食べて見なければわからない。

 カルミナやミネアの話を聞く限り、とんでもなく美味いらしい。二人の食レポを聞くだけでも、アインスは腹を空かせてしまっていた。


 どうせ次のダンジョン攻略まで間がある。

 ならば観光も兼ねて、港町【シャンブルグ】を拠点にすることで意見がまとまった。


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 そして、3日ほど歩いたところ、


「うわあ……‼」


 目に映った光景に、思わず感嘆の声をアインスが漏らした。


 半月型の海岸に沿うように造られた港には巨大な船が並び、港に沿って新鮮な海産物が並ぶ市が展開されている。

 海のものは初めてのアインスだが、イカ焼きの香ばしいたれや、巻貝のつぼ焼き、太刀魚の塩焼きなどの料理の香りに食欲中枢を刺激される。


 ごくりと思わず唾をのんだアインスを見て、カルミナが「どれがいい?」と財布を片手に語り掛けた。

 取り敢えず最初に目についたイカ焼きを指差すと、「3つくれ」とカルミナが金を支払う。


「うっま!」

「濃いたれが合うわね~」


 濃厚なたれがかかった、肉がぎっしりした旨味たっぷりのイカ焼きに、アインスとミネアが舌鼓を打つ。カルミナも後を追う用にかぶりついて、「うん、美味しい」と感嘆の声を漏らした。


 海の幸を食べるのは初めてだったアインスは夢中でがっつき始めた。その気持ちのいい食べっぷりに、店主の男性が機嫌よさそうに笑った。


「坊主、良い食べっぷりだな! そんなに美味いか?」

「はい! 実は海の幸を食べるのは初めてで……」

「そうかいそうかい! だったらいい時期に来たな! 今は祭りの真っ最中だ」

「祭り……ですか?」


 首を傾げるアインスに、店主の男性が得意げな顔になって説明した。


「おう。今の時期は海産物が多く取れるんでな。海と漁業の神様に感謝して、街中全体で祝うのよ」

「なるほど、道理で前に来た時よりも賑わっていると思った」


 イカ焼きを食べながら、カルミナが納得したように頷いた。

 海産物が美味いと有名な港町の為、常に他所から来た商人や旅人たちで賑わってはいるのだが、通常時とは違う高揚感のようなものを、街中全体から感じられる。

 よくよく見ると市の各所には、豊漁祈願や、海の神への感謝を表したのぼり旗が幾つも立ち並び、臨時に出展された出店のような小屋が目立つ。

 言われてみれば、確かに祭りの風景に近い。


「食べ歩きには最適ね」

「どうせこの街に泊まるんだ。祭りを楽しんでいこうじゃあないか」


 カルミナの意見に反対するものなどいるわけもなく、一行はひとまず宿を確保しに向かった。

 ミネアは安宿を取ろうとするが、カルミナが「寝床がふかふかなところがいい」と譲らなかったため、港町中心の、そこそこ値の張る宿の部屋を借りる。


 拠点を確保した後は、いざ食い倒れだ。

 カルミナが皆に、一律に小遣いを配り、各々好きなものを食べ歩きする。


 焼き魚、巻貝の炭火焼き等、自然の味を活かしたものから、魚のすり身を挙げたものや、干物などの加工品もたくさんある。


「……どれも美味しい」

「おいおい、食べ過ぎるんじゃあないぞ」

「夜食にいろんなもの買っていきましょう。マジックバックで日持ちしますし」

「そんなに買って食べ切れるの?」


 手当たり次第に惣菜を買い漁るアインスを見て、ミネアたちが苦笑した。


 海の幸とはこれほどまでに美味しいものなのか。

 初めて食べる美味にアインスの食欲中枢が覚醒したらしい。


 3人で食べ歩きをしていた所、「ちょっとちょっと!」とミネアが興奮した様子で、アインスたちの肩を叩いた。


「食べるだけってのもなんだから、ちょっと体動かしていかない?」


 ミネアが指をさした先には、大きな漁船と、その前に建てられた看板に大勢の人たちが集まっている。皆釣り具を持っている。

 人混みをかき分けるようにして看板の前に出てくると、


「なるほどな……」


 カルミナが呆れたような顔になって看板を見上げた。



 ~~~~~~~


 毎年恒例・シャンブルグ釣り大会


 最も大きなサイズの獲物を釣り上げた者には賞金100万G

 誰でも参加可能・気軽に参加してね!


 ~~~~~~~


 人混みで途切れ途切れにしか見えなかったはずだが、こういう金目のイベントを見つける嗅覚だけは相変わらず素晴らしい。


「お祭りなんだし、こういうイベントに参加するのも面白そうでしょ? どうせ暇なんだしやりましょ、ね? ね?!」


 などと供述しているが、目を金にして懇願する様から、目的が賞金なのは火を見るよりも明らかだ。

 どうする? とアインスに視線を投げてみるが、アインスも釣り自体には興味がありそうだ。

 優勝できるかはともかくとして、こういうイベントに参加してみるのも一興かもしれない。


「しょうがないな。参加しよう」

「やったー! 賞金は山分けよ山分け!」


 ちゃっかり山分けを提案してくるあたり、釣り自体には自信がないらしい。


「アインス君。探知眼で大物の場所探知して狙いなさい」

「……スキルを使うのはズルでは?」

「スキル使うな、なんて書いてないじゃない。勝ちゃあいいのよ」


 なるほど、勝算はアインスのスキルか。

 悪い顔をしてアインスに頬を寄せるミネアを、カルミナが困った表情で見つめた。


 そんなやり取りをしていた所で、


「あ、カルミナさんたち。お久しぶりです」

「おお、シャノンか」


 人混みの中からシャノンが元気よく手を振ってやってきた。


「今日も連盟の任務か?」

「はい。ちょうど終わったところです」

「そうか。ダンジョン攻略か?」

「いえ、その付き添いです。入り口の番ですね」

「付き添い?」


 付き添い、と聞いて首を傾げた一行の下に、「おひさしぶりです」と後ろから女性の声が聞こえてきた。

 そしてその姿を見た瞬間、カルミナとミネアが「げ」と顔をしかめた。


「……ナスタか」


 SSランク冒険者の【理の操者】ナスタ。

 あからさまに不快な感情をあらわにしたカルミナたちに、「私がいると何か問題でも?」と表情を変えずに尋ねる。


「いや、あんたは良いんだけど、その……あんたがいるってことは」

「よお、Eランクギルド諸君。久しぶりぃ‼」


 その声にカルミナたちだけでなく、アインスも「げ」と顔をしかめた。 

 先ほどまでの態度から一転、今度は声のした方向にさえ振り返ろうとしない。

 何も聞かなかったことにして、そそくさとその場を後にしようとするアインスたちの前に、一人の男が立ちはだかった。


「おいおい。一応君たちの上司だぜ。挨拶なしに帰ろうなんざ、無礼が過ぎるんじゃあないか?」

「「「ス……スケイル(さん)……」」」


 悪い笑みを浮かべて立ちはだかるは、連盟の最高権力者のスケイルだ。

 個人的に苦手なのもあるが、フローゼの攻略報告書の一件で、向こうからも因縁がある間柄だ。


「せっかく会いにきてやったんだ。ちょっとお茶でもしていこうぜ」

「……拒否権は」

「ねえよ」


 ニタニタと不遜な笑みを張り付けたまま、スケイルはカルミナたちを連れて、カフェテリアに入った。

 一気に重くなった足を渋々と動かし、カルミナたちはスケイルの後を追って店に入っていった。


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