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和解と水源の正体


「痛い‼ 痛い‼」


 翌日、アインスが朝食の準備をしているときに、カルミナがキリエを呼び出し、覆いかぶさるような体勢でキリエを膝の上に乗せると、その尻をパンパンと叩き始めた。


「私の! 仲間の! 物資を! 奪った罪を! 清算して! なかったからなあ!」

「ごめんなさいごめんなさい! でももうしませんって斥候(スカウト)の兄ちゃんに……」

「私への! 謝罪は⁉」

「姉ちゃんにもごめんさああああああい‼」


 体罰には変わらないが、顔をぶん殴るよりは愛嬌がある。

 あれぐらいは愛の鞭に含んでいいだろうと、ミネアも気にせずに泉の水で顔を洗った。


 ひとしきりケツを叩き終え、涙目になったキリエに、カルミナが顔を寄せ語り掛ける。


「改めて聞かせろ。何で私たちについてきた」


 鋭くなったカルミナの視線に怯みながら、キリエは答える。


「……秘宝を横取りしようと」

「何で横取りしようと思った」

「……だって、ダンジョンは願いを叶えてくれるって言い伝えがあるから」


 キリエの言葉に、カルミナたちは怪訝な顔で互いの顔を見合わせた。


「……この町を作った人からの言い伝えなんだ。ダンジョンが生み出す秘宝は、皆の願いを叶えてくれるって。だから、秘宝を横取りできれば、秘宝が町の皆を助けてくれるって思ったんだ」

「どういうことでしょう……?」


 詳細を聞いても、真意が掴み切れないアインスが首を傾げる。


「願いを叶えるって……動力石や光源石が?」

「とらえようによってはそうかもしれん。無尽蔵のエネルギー資源や、君のクロスボウのような人知を超えた道具というのは、ある種人類の夢だな」

「あの性悪が使った不老と若返りの妙薬もそうね」


 羅列すれば、確かに願いを叶えると言い換えても差し支えない秘宝が眠っているのは確かだろう。キリエ達町の人間の願いをピンポイントで叶えるかは別としてだ。

 

「……動機は理解した。だが、やっぱり私は、私の仲間たちを危険に晒したお前は嫌いだ」


 カルミナの言葉に、キリエも口を噤んで身を縮める。

 ダンジョンの恐怖やカルミナたちの凄さを思い知らされた今となっては、口答えする気も湧かないようだ。

 自分の命運をカルミナにゆだねるように、キリエは身を強張らせながら、続く言葉を待った。恐らく、置いて行かれることを覚悟しながら。


 そんなキリエの頭に、カルミナは優しく手を置くと、薄い笑みを浮かべながら、キリエの頭を撫で始める。


「……だが、町の皆の為に、何かしようとしたその心意気だけは買ってやる。二度とあのような真似をしないなら、私のパーティーへの同行を許可してやってもいい」


 一瞬ぽかんと目を丸くした後、キリエの表情が一気に明るくなった。


「絶対しない! 約束する!」

「よし! 先は険しいがへばるなよ」

「うん!」


 そのやりとりをみて、安心した様にカルミナとアインスが顔を見合わせて笑った。

 

 ようやくキリエも一丸となって旅ができそうだ。

 話がひと段落付いたところで、カルミナが皆を自分の元に招集した。


「今後の攻略についてだが、せっかくの安全地帯だ。あと一日休憩していくのはどうだろう」

「さんせー。食料に余裕はあるし、水もここなら溢れているしね」


 食料はランドイーターの肉が山ほど手に入ったので安泰だ。14層潜った今となっては、残りの階層を突破するだけの余裕は十分すぎるほどある。

 ならば、泉があり、岩陰で涼むこともできるこのオアシスで、今までの階層の疲れを癒していくのは賢明だ。

 ミネアに続いてアインスたちも賛成し、今日一日はオアシスで休養にあてることになった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「うっひゃー! ちべてー!」


 休息をとる、となって女性陣がまず何をしたかといえば水浴びだ。

 ミネアがオアシスの地形を物質魔法でいじり、泉の横に窪みを作って水をためる。

 簡易的なプールの出来上がりだ。


 灼けつくような陽ざしの中を散々歩き回ったおかげで、汗や髪のがさつきは一周回って気にならなくなっていたが、やはり水で体を洗えば、全身が浄化されたような感覚になる。

 砂漠の陽ざしがサンサンと降り注ぐ中、艶やかな肌を顕わに美女たちはプールではしゃいで回った。

 飛び散る水が、陽光を眩く反射しながら、美しいオアシスの景色を彩っている。


「アインス! 君も一緒にどうだ?!」

「いくわけないでしょう?!」


 一方でアインスはというと、汗でぐしょぐしょになっていた皆の着替えを、プールが見えない場所で洗濯していた。


「……まったく、僕だって男なんだから」


 ミネアが「水浴びしよう」とプールを作り、目の前で服を脱ぎだした時には驚いた。

 ミネアに釣られて服を脱ぎだした女性陣から逃げるようにその場を去り、その間に何かできないかと、洗濯物を預かって今に至る。


 それにしたって、男の自分がいるというのに、この岩場を抜けた先で下着姿で水浴びとは、なんと無防備なことだろうか。

 信頼されている証でもあるが、自分が男だということを意識されていないんじゃないかという不満もある。


 カルミナの裸を想像したときに、股間がうずく程度にはアインスも男の子だ。



 邪念を振り払うように、アインスはやけくそ気味に皆の衣服を水で洗って、砂が届かない場所へ干した。




「お? アインス君、今更水浴び?」


 水浴びを終え、さっぱりとした様子で、泉の水を飲むミネアたちに、下着姿になったアインスが現れた。

 

「ええ。泉の水源を調査しようかと」

「何か気になることでもあるの?」

「【探知眼】で探知しても、泉の下に水源になるような地下水がないんですよね。【フローゼ】の泉の様子に似ているんです」

「そういえば、向こうでも泉の様子を気にしていたな」

「それに、ミネアさんがプールの作成に泉の水を使用しましたけど、使用する前と今とで、泉の水量が同じなんですよ。常に一定になるように調整されているような……」

「確かにそれは妙だな」


 カルミナもアインスの疑問を不思議に思い、泉の水に手を突っ込む。


「……水浴びでも思ったのだが、この水冷たいんだよな」

「外が熱いから、相対的にそう感じるとかではなく?」

「違う。これだけ熱い外気に晒されている割には、水温が低すぎるんだ」


 カルミナが気づいた点に、アインスも頷いた。

 この泉はただの泉じゃない。

 環境を構成する要素が近いなら、【フローゼ】の水源の謎を解くきっかけになるかもしれない。

 そう考えたアインスは、【探知眼】を発動させながら、水の発生源に歩いていく。


「……何かある」


 ひざ丈ぐらいの深さである、泉の中心部に来たところで、アインスは泉の土を掘り起こし、その中から、手のひらサイズの壺のようなものを取り出した。


「兄ちゃん。それ何?」

「……どうやら、これが水源みたいだ」


 アインスが壺の側面についている、小さなスイッチのようなものを押すと、壺の中から水がちょろちょろと溢れ出した。

 溢れ出した水の堆積が、壺の体積を越えた時に、カルミナたちもその壺の正体を理解する。


「まさか……ダンジョンの秘宝か⁈」

「ええ。そうみたいです」


 カルミナの予想に、アインスが頷いた。


「無限に水を生成する秘宝……これが【フローゼ】の水源の正体ですね」


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