スペシャルで値千金の戦果
ダンジョンが設置した罠を避けながら、じりじりとカルミナたちの方まで迫る。
「あと2㎞くらい……!」
「でも兄ちゃん、この先砂が深いよ。また迂回しなきゃ」
カルミナたちの姿がはっきりと見える所にまでたどり着いた。
だが、その前に砂の深いエリアがある。
喉もカラカラだが、ここを迂回しなければ、ランドイーターに見つかってしまう。
「遠回りなんてめんどくさい。このまま突っ切っちゃおう」
「え⁈ あいつに見つかっちゃうよ⁈」
「いいんだよ。この先に罠もない。斥候(僕)の仕事はほとんど終わりだ」
とはいえ、ダンジョンが罠を増設するかもしれないので、範囲を絞って【探知眼】は常にオンにしておく。
「全力で走ろう。3,2,1……」
GO!
アインスの掛け声とともに、キリエとアインスは全速力で砂原をダッシュした。
その瞬間、背後で大きな振動が起こり、ランドイーターが地面の中を潜ってアインスたちへと迫りくる。
やばいやばいやばい。
あんなデカいのに襲われたら、兄ちゃんも姉ちゃんも死んでしまう。
だが、アインスには何か考えがあるのだろう。
全力で走りながら、視界の端に映るアインスの様子を伺った。
「カルミナさん! ミネアさん!」
奥で待つカルミナたちに向かって、アインスが叫ぶ。
「あとよろしく‼」
「兄ちゃん?!」
作戦も何もない。まさかの無策。全部カルミナたちにぶん投げた。
今まで知的に立ちまわってきたアインスからでた、あまりに投げやりな指示に、キリエも悲鳴に近い声で突っ込んだ。
そんな無茶ぶりされても、姉ちゃんたちだって困るだろう。
そんな不安を抱きながら、奥のカルミナたちの様子を確認すると——
「「任された‼」」
大胆不敵に笑うカルミナたちが、それぞれの得物を構えていた。
カルミナは武器に魔力を纏わせ、アインスたちに向かって駆けだし、ミネアは杖を地面に突き立て、地形に魔力を流し込む。
アインスたちを飲み込もうと、ランドイーターが顔を出したところで——
「【地形変動】‼」
ミネアが地形を大きく変動させ、ランドイーターを空中へ打ち上げる。
突然砂原の底が隆起し、砂漠ごとひっくり返したかのように、ランドイーターの巨体が宙へ放り出された。
そして、アインスたちとすれ違うように、神速の速さで駆け抜けたカルミナが、魔力を武器に強く籠め、その刀身を大きくしながら、剣を振りかぶった。
「【オーラブレード】‼」
一部【戦士】のみが使える、魔力で鋭い刃を生成し、敵を切り裂くスキル。
高く飛び、大きく伸びた輝く刀身を振るうと、全長500mはあるランドイーターの首を、跳躍の勢いのままに一刀両断する。
華麗な身のこなしで先に地に立ったカルミナの後に、一撃にて切り離されたランドイーターの頭部と胴体が砂原に落下し、強大な振動と共に、大量の砂埃を巻き上げた。
大量の砂にむせ返りながら、砂埃の収束を待つアインスとキリエ。
ゆっくりと視界が晴れたとき、カルミナとミネアがアインスたちに向かって走ってくるのが伺えた。
「アインス‼」
「アインス君‼」
心配から解放されたのと、無事に再開できた喜びで、2人ともなきそうな顔でアインスにしがみついた。
「よくぞ無事で帰ってきてくれた……‼」
「めちゃくちゃ心配したのよ! 杞憂だったけど!」
「皆が見込んだ斥候ですよ。これぐらい当然です……そんなことより」
アインスが興奮する2人を宥めながら、ランドイーターの死体を指差した。
「皆さんにお土産です」
ぽかん、とする2人の様子を見て、アインスは小さく吹き出して、「毒は持ってないみたいです」と補足した。
そして、アインスの意図に気が付いたミネアの表情がみるみるうちに明るくなる。
「水ううううううううう‼ 肉ううううううううう‼ 塩おおおおおおおお‼」
興奮した様子で、肉の解体と、水分や塩の抽出を始めるミネア。
ミネアの物質魔法【抽出】によって、肉のみならず、水や塩といった成分もピンポイントで抽出できる。
つまり、危惧されていた水と食料の問題を一気に解決した形だ。
「スペシャルなお土産だったでしょ?」
一気に状況が好転したせいで、逆に呆然としてしまっていたカルミナに向かって、アインスが得意げに親指を立てた。
自分の口癖を真似て、良い笑顔をするアインスに、カルミナもとびっきりの笑みを浮かべて、その体を抱きしめた。
「君は、ほんっとうに優秀な斥候だよ‼」
その後は、水や肉、塩をマジックバックいっぱいに詰め、脅威の無くなった砂原を歩く。
目的地は同じ階層内にあるオアシスだ。ランドイーターを討伐し、物資が十分に補充された今、そこまで脅威ではなくなったが、転移トラップを探知眼で避けながら泉へと向かう。
オアシスまでの道を、カルミナたちは、アインスの成長と活躍をずっと褒め続けていた。
抽出したてのぬるい水で、喉の渇きを存分に潤しながら、一行は辿り着いたオアシスで野営の準備を始めるのであった。




