表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

52/118

一皮むけるきっかけは

斥候(スカウト)の兄ちゃん……距離が離れていても会話ができるなら、向こうからも来てもらった方が、合流が早いんじゃ……」

「確かにそうなんだけど、ちょっと危険なんだよね」


 不安そうな顔で、自分を見上げてくるキリエを落ち着かせるように、アインスが笑って返答した。


「念話石は確かに便利なんだけど、ずっとオンにするのは魔力の消費が激しい。それに音声が届くのにどうしてもズレがあるし、魔力のコントロール次第ではノイズも発生するんだ。そんな不安定な状態で二手から動けば、下手すると罠でさらに分断されてしまう」

「そっか……」


 自分たちが動くしかないと理解したキリエが、暗い顔で俯いた。


「……ねえ」


 アインスを横に、上目遣いで見上げながらキリエが訊ねる。


「……あたし、邪魔になってない?」

「なってるよ」

「だよね……って、ええ?!」


 俯きながら、恐る恐るに訊ねたのは自覚があっての事だろう。

 驚きの声を上げたのは、アインスがストレートにぶち込んでくるとは思ってなかったからだ。


「そりゃそうだよ。君のせいで攻略のスピードは落ちるし、水や食料の配分は減るし。取り繕ったって仕方ないでしょ。カルミナさんが怒るのも無理ないよ」

「……そうだけど、その……あの……」

「でも大丈夫。僕が君の事助けたいって思っているのも本当だ。見捨てたりはしない」


 アインスが片目を瞑って見せると、キリエが泣きそうな顔になって、アインスに身を寄せた。

 アインスがキリエの肩を抱き、不安をほぐすように肩を叩く。


「……さて、どうやって合流しようか」


 アインスが顎に手を当てて、周囲を見渡しながら考え込む。

 アインスが戦う術を持たないのはキリエも分かっている。

 念話石とかいう不思議な石で、カルミナたちと連絡を取った時、ミネアもカルミナも不安そうな声をしていた。

 だからこそ、ランドイーターに見つかったらすぐに殺されてしまうであろうアインスが、現状誰よりも冷静でいられることが不思議で仕方なかった。


「……怖くないの?」

「え?」

「失敗したら死んじゃうんだよ。怖くないの?」

「怖いよ」


 言葉に反してアインスは落ち着いた様子だった。


「こんな物資に乏しくて罠も多いダンジョンで、探知役の僕が死んだらカルミナさんたちも死んでしまう。今の僕は組織の一員(パーティー)だ。僕の命は皆の命と繋がっている。責任がある。皆が死ぬと思うと怖い。……でもね」


 昔のギルドでも責任は背負っていたが、失敗したときに何に怯えていたかといえば、それによって自分が責められることだった。周囲の人間や環境に不満を抱きながら、自分の保身ばかり考えていた。


 でも今は違う。自分が死ぬと、大切な仲間たちまで危険に晒してしまう。それが何より怖く感じるのは、それだけ自分が大切にされている証だろう。

 だからこそだ。


「恐怖以上に、皆が育ててくれた自信が、僕の中に残っている。……一人なら折れていた。でも今は、僕の成長を自分の事のように喜んでくれた仲間がいる。恐怖も不安も、喜びも幸せも分かち合える仲間がいるんだ。皆の為に頑張れるんだ。怖気づくなんてもったないないよ」

「もったいない……?」

「うん。もったいない。ただのピンチで終わらせるには」


 ピンチはチャンス。なんて力に恵まれた者の妄言とばかり思っていた。

 でも違ったみたいだ。積み上げてきたものがある今だからこそわかる。

 このピンチを乗り切れば、自分の中で育んできた、形になっていないだけの自信が、確かな実力として自分の力に変わることを。ピンチとは努力を積み重ねた者の前に現れる覚醒の場だ。

 この試練ともとれる局面に、挑む勇気をくれた、仲間の期待に応えたい。


「一皮むける為の、『きっかけ』には最高かもね」


 目の前に広がるは未知のフィールド。

 未知の環境こそ。斥候(スカウト)の腕の見せ所。


 今ここで活躍出来たら。今日のMVPは僕ってことでいいよね。

 皆に胸を張れる絶好の機会だ。これに怖気づくなんてもったいない。


 望遠鏡を取り出して、探知眼を発動させながら。落ち着いて周囲を調べるアインスの目には、確かな力が宿っていた。

 アインスの目の輝きが、希望の光となってキリエの心を照らす。


「ここで成果を上げて、僕の成長をさいっこうの手土産にしよう。……とびっきりスペシャルで、値千金の活躍をしてやるさ」


 目標は仲間との合流と、危険の排除。そして今後の攻略に備えての物資の確保だ。

 スキルと今まで蓄えた知識をフル活用し、戦わずして勝つための、アインスの戦いが始まった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ