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食料泥棒

「……水と食料が減っている」


 攻略5日目の朝、皆が起床した頃に、改まった声でミネアが告げた。

 ミネアの報告の内容に、困惑した様子でアインスとカルミナは顔を見合わせた。


「それは、想定以上に消費が早いというわけではなく?」

「違う。昨日最後に荷物を確認したときより、知らないうちに減っていたの。私の見てない間につまんだりはしてない?」


 この環境下では、マジックバックの中の水と食料が生命線。それを無断で消費するなどもってのほかだ。

 そんな人物はいないとミネアも思ってはいるらしく、疑うというよりは確認するような声色である。

 ミネアの質問に二人は首を横に振る。「そうよねえ……」とミネアも安心はしたものの、煮えきらない様子だ。


「念のため僕たちも荷物を確認しましょう」


 アインスの提案にカルミナは頷くと、全員のマジックバックの中身を取り出し、減っているものがないか確認した。

 減っているのは、水と食料。そして——


「……魔力ポーションも減ってますね」

「? 本数は変わってないわよ」


 ミネアが疑問の声を上げる。昨日確認したときには魔力ポーションの瓶は30本あり、現在もその数は変わらない。


「一本当たりの液体量が減っているんですよ。ほら、液体の後が残ってる」


 瓶内側の、液体面の上にうっすらと着いた細い線を示すと、「ほんとだ」とミネアが驚きの声を上げた。


「……私たちの水と食料は減っていないな」

「減っているの、ミネアさんの荷物だけですね」

「はあ⁈ なんで私だけ⁈」

「ちなみに寝ぼけて自分でつまんだりなんかは……」

「するわけないでしょうが?!」


 食ってかかったミネアを「ですよねえ……」とアインスがなだめる。


「魔力ポーションに関しては、工作の跡があるのが気になるな」

「僕たち以外の人間なんていませんよ?」


 アインスが探知眼を発動するが、周囲にはアインスたち以外に、人間どころか生物一匹たりとも反応がない。


 荷物が減るのは由々しき事態ではあるが、議論を重ねたところで原因の究明はできなかった。

 日が高くなって、気温が上がりきる前に、一行は攻略を再開する。


 次で第七階層。定期的に【探知眼】を発動させ、危険がないか確認しながら、ダンジョンを歩く。

 そして、今朝の出来事を不審に思ったアインスが、なんとなしに【探知眼】の索敵範囲を広げた時だった。


「…………?!」


 何かに気が付いたアインスが、ふと足を止める。


「どうした?」

「いえ、なんでも……」


 なんでも、といったものの、何かを考え込むアインスの様子を、カルミナが気にかけた。


 アインスはフードを整えながら、カルミナの隣に歩いてきた。

 そして、口の動きがカルミナだけに見えるように、読唇術を使って話しかけた。


(盗られた食料、何日分でしたっけ)


 盗られた、という表現に何かを察したカルミナが、一瞬眉をしかめて、人差し指を突き立てた。


(今晩も狙われるかと)


 了解の意でカルミナが頷く。

 ぐでえ。と疲れた様子で、両手で杖を突きながら歩くミネアを横目でみてから、二人は何事もなかったかのように歩みを進めた。


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 結局、今日も進めたのは2階層のみ。

 夜の寒さが本格的になる前に、風を避けれる岩場を見つけて、野営の準備をする。

 温かいスープと、パンでお腹を満たしてから、ミネアが岩場を変化させ、簡易的なシェルターを作った。


「じゃあ、夜の番は、今日もミネアさんからで」

「私たちが寝ている間に、勝手に食料をつまむなよ」

「つまんでないっての‼」

「ははは、おやすみなさーい」


 あらぬ疑いをかけられて、ミネアが不機嫌そうに突っ込むが、それを軽く笑っていなしたアインスたちは、ミネアの作ったシェルターの中へ引っ込む。


 暫くすると、シェルターの中から寝息が聞こえてきた。二人とも眠りについたようだ。

 階層に魔物がいないとはいえ、ダンジョンはその気になれば魔力を消費して魔物を生成できるので、どんなときでも夜の番は欠かせない。

 1時間半ぐらいたったところで、本格的に寒さが増してきた。


 ミネアが毛布に包まりながら、周囲を見張る。


 そして、暫く経ったとき、


「あ~、しょんべんしょんべん……」


 ミネアがマジックバックと毛布を下ろして席を立ち、そそくさとシェルターから少しだけ離れて、アインスたちに見えないところで砂を掘った。

 そして、そのマジックバックがひとりでに開いた時だった。


「うわっ?!」

「お前、何をしている‼」


 シェルターから顔を出したカルミナが、マジックバックに向かって枕を投げた。

 何もない空間に枕が弾かれたかと思うと、マジックバックを手に吹っ飛ばされた一人の少女が、突然その場に姿を現した。


「ちょちょちょ、なになになに?!」


 騒ぎを聞きつけ、慌てて服を整えながらミネアが飛び出てくる。


 少女の首根っこを掴み、逃がさないように地面に体を押し付ける。

 足掻こうとするも、身動きが取れない少女の顔を見て、ミネアが「あっ⁉」と声を上げた。


「あんた、あの村長の孫娘の……‼」

「ですね。どうやら役職持ちだったようです」


 アインスが補足しながら、シェルターから姿を現した。


「役職【暗殺者(アサシン)】。スキル【隠密】。自分の気配や痕跡を一定時間誰からも認知されなくするスキル。……備品を取ったのは君だろ?」


 アインスが確かめるように投げかけた質問に、【フローゼ】村の村長の孫娘——キリエは、観念したように小さく頷いた。


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