砂漠の変異ダンジョン
「乾燥帯草原、森林と、奥へ行くほど水のある環境を作って、外の人間を奥地へと誘う構造のダンジョンなのでしょう……」
「それで、泉の前まで誘い込んだ瞬間、砂漠への環境変異は初見殺しが過ぎるでしょ……」
砂漠のフィールドをアインスたちはげんなりした様子で進んでいく。
二度としたくないと思っていた砂漠の旅を、まさかダンジョン内でもう一度する羽目になろうとは。
「魔物の一匹でもいれば、ミネアの魔法で水分を抽出できるのだが……」
「僕の探知でも一匹たりとも引っかかりません……。徹底しすぎだ……。完全に環境のみで侵入者を殺しに来ている……」
仮にこれがSランク相当のダンジョンだと仮定した場合、階層は全部で20階層ほどか。
魔物が多く蔓延るダンジョンであれば、魔物の配置などで、次の階層へのゲートの位置をある程度予測できるのだが、今回はそうはいかない。
フィールドを総当たりして、次の階層へのゲートを探す羽目になる。
「先に潜った軍隊も、この環境に殺されたんでしょうね……」
「うちらだって、アインス君の攻略予想がなきゃ詰んでるわよ……」
「まったく……君は優秀な斥候だ……」
「そういうの……ダンジョンクリアしてからにしましょうよ……」
「「それもそうか……」」
アインスは依頼書のダンジョン情報に、森林のフィールドと記載されていたのを見て、自分がダンジョンだったらどのようにしてダンジョンに人を呼び寄せ、効率よく殺せるかを考える。
得体は知れないが、思考する生き物である以上、ダンジョンの思考にどれだけシンクロできるかが、攻略計画を作るうえで重要なことだ。
外には資源に乏しく、寒暖差や水不足で生命が生きるには厳しい砂漠。
そんな中に、水や食料で溢れるダンジョンが突如として出現したらどうだろう。
秘宝目当てでなくとも、外に住む人間がいるとすれば喰いつくはずだ。低ランクの魔物であれば、人間を吸収する前でも生成できるし、ダンジョン難易度の偽装にも使える。
入って複数階層を低ランクの魔物と、過ごしやすい環境にし、周囲の人間をおびき寄せる。
そして、ある程度奥地に進んだところで、砂漠への環境変異で人間を殺す。
高ランク冒険者からすれば、ただ強い魔物が出現するダンジョンよりも質が悪く、致死率の高い最悪のダンジョンといえるだろう。
「会議でも思ったけど、良く気が付いたわね、このダンジョンの性質に……」
「低ランクダンジョンで毒性の強い植物が多いのは珍しいんですよ。それが一番のヒントでした。それでこのダンジョンが魔物の強さではなく、環境を利用した狩りを行う傾向があると結論付けたんです。それに死亡者が対面したことのある高ランクの魔物が【ランドイーター】だけだったから……」
「【ランドイーター】……全長500mにもなる、大型の砂蛇か」
出現が予想される魔物の中で、唯一警戒すべきはSランク魔物である【ランドイーター】。伸縮性の高い大あごで周りの砂ごと獲物を捕食する、砂漠の砂中に潜む蛇型の魔物だ。
住んでいる環境が砂の深い砂漠であるため、【ランドイーター】の出現を警戒するのであれば、砂漠環境への対策はどちらにせよ必須だったわけだ。
基本は地中に冬眠するように過ごし、砂上を通った生き物の、歩いたときの振動を感知し、反射的に捕食しにかかる。エネルギー源はほとんどが魔力の為、食事や水分は数年に一度しかとらなくていい体の構造ではあるのだが、逆を言えば数年に一度は水や食料を捕食しなければならない。
ランドイーターをダンジョンが飼う場合は、補給地点をダンジョンが用意する必要がある。
逆を言えば。ランドイーターがいない階層は、補給地点に期待はできない。と考えていい。
安易に高ランクの魔物を配置して、ミネアの【抽出】を利用した水分の確保や、食料の補給を封じている辺り、このダンジョンは狡猾だ。
「野宿ができそうなセーフティーエリアも探さなければな……」
「ただ歩くだけのダンジョンがこんなにも辛いとは……」
前回のダンジョンでは、1日に3~4階層のペースで攻略を勧められていたが、砂漠のフィールドでは1日に2階層進むのが限界だった。
次の階層に進んで、適当な岩陰を見つける頃には夜中になっていた。
簡易的な食事を作り、夜の寒さで死なないよう厚着をし、身を寄せ合うようにして眠りにつく。
夜の番を交代しながら、交互に身を休めたところでその日の攻略は終了となった。




