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水源の謎と村娘

 町長がコップに水を汲もうとしたところを「持ち合わせがある」とマジックバックから水筒を出した。

「……すみません」と頭を下げてから町長も席に着く。


「随分と荒れたな。ダンジョンのせいか」

「その通りです。街の外れにEランクダンジョンが生まれ、国が派遣した軍が攻略に向かいました。……しかし攻略は失敗に終わり、力をつけたダンジョンから魔物が溢れ、水源を破壊してしまったのです」


 話を聞きながら、アインスはダンジョンの依頼書や、攻略計画をまとめた資料を取り出し、村長の話と比較する。


「魔物の襲撃に会った割には、家屋の被害が少なく見えましたが」

「それが不思議なことに、水源を破壊した後はダンジョンの中に戻っていったのです、泉以外には一切被害が出ませんでした」

「……それはまた不思議な出来事ですね」


 アインスは魔物のリストを取り出し、「魔物の種類を教えてもらっていいですか?」と尋ねると、資料に記載されていた魔物の内、いくつかを町長が指差した。


「何か気になる点でもある?」

「ええ、ちょっと……」


 ミネアが訊ねると、アインスは資料をまじまじと見つめ、深く考え込んでしまった。

 窓の外から敵意を孕んだ視線を町人たちから投げられ、その視線を気にした様子のカルミナを見て、「やめんか」と町長が諫める。

 町長の言葉に、町人たちは仕方なしとその場を後にするが、後味の悪さが胸に残る。


「軍が攻略に失敗して以来、町の者は外部からの人間に対しあの様子です」

「低ランクダンジョン攻略に失敗した挙句、溢れた魔物に泉を枯らされちゃあ仕方ないわね」


 実際は高ランクダンジョンだった為、知らずに挑んだ軍も被害者みたいなものだが、それは町人たちからすれば関係ない。

 ダンジョンに挑もうとする者に厳しい視線が集まるのは当然とはいえた。


「ダンジョンを攻略しても、泉が元に戻るわけではないのが空しいな」

「まったくです。しかし、放置するわけにもいきません」


 町長がカルミナたちに改まって頭を下げた。


「この度はどうぞよろしくお願いいたします」

「……ああ。ギルドランクは低いが、皆指折りの冒険者だ。スペシャルな成果を期待していてくれ」


 町長を安心させるように、カルミナが首に提げた冒険者証を見せつけた。世界でも5人しかいないSSランク冒険者のみが持つことを許された金水晶の首飾りが小さく光る。


 その日は町長の家に厄介になることになった。物置部屋を客間として開けてくれたらしく、ベッドのみが置かれた簡素な造りの部屋に荷物を置いて、旅の疲れを癒したのだった。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 翌日、まだ皆が眠りについているような時間帯。

 アインスは町長からスコップを借りて、探知眼を発動させながら泉の中心部を掘り起こしている。


「いったいどうしたのよ~、こんな時間帯に」


 まだ日が昇っていない時間帯。外気は寒く、身を凍えさせる。

 体をさすさすとこすって、摩擦で体を温めるミネアにアインスが返す。


「いや、魔物が泉を荒らしたってのが気になって」

「ああ、そういえば気にしていたな。どうかしたか?」

「砂嵐で泉が埋まってしまうって話は聞いたことがあるけど、群れとはいえ、低ランクの魔物が、災害と同じレベルの被害を出すことができるのかなって」


 そもそも、砂漠の泉というのは、何千、何万年と地下に堆積した地下水が泉となって表れたものだ。

 一時的に埋まってしまうならまだしも、一度の襲撃で水源が枯れてしまうことなんてあり得るのだろうか。


 アインスの疑問に、カルミナも難しい顔をして唸ってしまう。


「……それに、やっぱおかしいですこの泉。どれだけ奥を探知しても、水源なんて見つからない」

「……どういうことだ?」

「……わかりません。ただ、ここの泉は自然現象なんかで生まれたものじゃないのは確かです」


 旅の途中でアインスが語っていたが、そもそもこの【フローゼ】の町の泉は、自然にオアシスができる条件に何一つ当てはまらない。

 不自然の正体を探そうと、【探知眼】を発動させたら、泉の中央に異物が埋まっているのを探知したわけだ。


 そして、町長に訳を説明し、スコップを借りて今に至る。


「それ何? アインス君」

「……何でしょう?」


 出てきたのは、不思議な鉱物でできた割れた破片。

 カルミナに見せるが、「見たことない素材だ」と不思議そうに目を細めた。

 更に掘り進めると、同じ素材でできた破片が何個も見つかった。


「これで全部です」


 全員でまじまじと破片を眺めてたところに、アインスに向かって誰かが石を投げてきた。

 カルミナが飛んできた石を、反射的に叩き落とす。


「余所者が街の泉で何をしているんだ‼」


 厚手の服に身を包んだ褐色の少女が、アインスたちに向かって指を突き付ける。

 その後ろから町長が慌てた様子で走ってきた。


「やめなさいキリエ! お客様相手に何を……!」

「余所者ってことだろ! 泉を枯らした原因を作った奴らが、泉で何こそこそやってるんだ!」

「あの人たちは違う!」

「一緒だよ!」


 町長の静止(制止)に抗いながら、吐き捨てるように叫んだ。


「連盟の冒険者なんて、秘宝目的にダンジョンに挑んで死んだ国の連中と何が違うんだよ‼ この町の事なんか微塵も思ってない奴らなんかに、これ以上街を荒らされるのはごめんだ‼」

「キリエ、お前はもう宿に戻りなさい‼」


 町長が鋭い声で怒鳴ると、キリエはビクッと身を固め、恨みがましそうにアインスたちを睨みながら、その場を去っていった。


「すいません、うちの孫娘が」

「気にしていない」

「お子さんがいられたんですね」

「ええ。泉が枯れて以来あの様子なもんで、昨日は宿に預けていたのですが……」


 町長がため息をつき、アインスたちに頭を下げた。

 そして、アインスが手にしていた破片たちを見て、「これはこれは」と感心した様に唸った。


「流石高ランク冒険者様ですな。それに気が付くとは」

「……何なんですか? この破片」

「? 知ってて手にしているのではないのですか?」

「「「……?」」」


 カルミナたちの呆然とした様子に、少しだけ苦虫を噛んだ表情になった町長は、誤魔化すように咳払いをした。


「いえいえ、私の勘違いでした。今のは忘れてください」


 逃げるように町長がその場を去ると、アインスたちは困惑した表情で互いを見合わせてから、破片をまじまじと見つめる。


「……念のため取っておきましょうか。これ」

「そうだな」

 

 正体は分からないが、何やら秘密があることには違いない。

 

 そして日が昇り始めた頃に荷物を纏め、アインスたちはダンジョンのゲートがある地へと向かった。


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