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冒険者の島

 小舟から降りると、所持品のチェックや入島の手続きなどを幾つかして、アインスたちは本部の建物へと向かった。

 本部に向かう途中で、城下町の市場を通る。

 様々な人間が行き交う中、皆が首にぶら下げているのはゲストが発行される入島許可証または冒険者証。割合で言えば3:7ぐらいか。


「あいかわらず冒険者天国ねえここは」


 人混みが好きではないのか、ミネアがげえ、とわざとらしく舌を出した。

 冒険者天国とは言いえて妙だな、と行き交う冒険者の数を見てアインスも納得する。役職持ちは存在自体がレアケースだ。基本役職持ちである冒険者が、肩がぶつかるほど行き交う光景がみれるのはここぐらいだろう。


 人混みで賑わうだけあって、市場のラインナップも素晴らしい。

 肉や野菜、海産物といった食料から、武器や鎧などの装備品から、毒消しや回復効果のあるポーション、閃光玉や小型のキャンプキット等、取り扱うものは様々だ。少なくともダンジョン攻略の準備をする際に、ここでそろわないものはないと思っていいほどだ。


「……あれは、なんですか?」

「ああ。あれは光源石か」


 見慣れない商品が、ガラスケース越しに飾られているのを見て、アインスが訊ねる。

 カルミナの返答にアインスは店の看板を見ると、【秘宝店】と書かれていた。

 どうやら、ダンジョンで手に入れた秘宝を販売する店らしい。


「E~D級ダンジョンで稀に手に入る秘宝で、自ら光を発する石だな。連盟が買い取った秘宝はああやって市に流されることがある」

「加工前のは初めて見ました。どれどれお値段は……たっか⁈」

「基本秘宝は値が張るわよ。ああいう用途が多い秘宝は特に」


 森林や草原と言った、火種が手に入るフィールドならともかく、洞窟や砂原といった環境のダンジョンでは、視界の確保のためにカンテラを持たなければならないケースも多い。階層が多いダンジョンでは、意外と燃料に荷物のスペースを取られることがある。

 それを手のひらサイズの石ころ一つで解決できるのだから、冒険者から重宝されるシーンは多いだろう。


「おい……あいつら」

「ああダンジョンブレイクを起こしたって言う……」


 そんな風に街中を歩いていると、一部の冒険者たちがカルミナの姿を見て何やらこそこそと話をしている。

 冒険者証の色を見ると、Aランクの冒険者だろうか。

 インシオンでの一件の詳細については公にされていないはずだが、知っているということは一部冒険者には共有があったのか。


 時々感じる侮蔑的な視線の元を辿ってみると、A~Sランクの冒険者たちから投げられたものだ。Aランク以上の冒険者には共有があったらしい。


「……!」


 カルミナが睨んで黙殺すると、睨まれた者は気まずそうに目を逸らした。A~Sランクも高ランクなのだが、SSランク冒険者に直に悪口を言えるような立場じゃない。


「……すまないな。私のせいで」

「僕気にしてませんよ」

「右に同じ~」


 カルミナが申し訳なさそうな声で俯くが、それを慰めるように二人は笑った。

 カルミナは自分のせいにしているが、計画を容認した時点で二人も共犯だ。




 そんなこんなでウィンドウショッピングを続けながら、街を歩くこと40分。

 連盟本部である城塞の前に、アインスたちは到着した。

 入島の時と同じく、冒険者証と、連盟から発行された公文書を門番に見せ、門が開く。


 見上げてしまうほどの大きな門がゆっくりと開くと、中には天井の高い大広間が広がっていた。

 ここがどうやら各部署への受付になっているらしく、冒険者証の発行や、秘宝、素材の買取、依頼の報告所、受注所、冒険者ランク、ギルドランクの昇格受付などの部署の前は多くの冒険者で賑わっている。


 その光景にアインスが目を輝かせながらきょろきょろしていると、1人の女性が現れ、カルミナに向かって声をかけた。


「お待ちしておりました。カルミナさん、とそのお仲間の方々」


 声をかけてきたのは、首元に金色の冒険者証を下げた、魔導士の女性だ。

 目元のほとんどを前髪で隠した女性に、「久しいな」とカルミナが真顔で返す。


「党首は相変わらずか? ナスタ」

「ナスタって……SSランク冒険者、【理の操者 ナスタ】さんですか⁈」


 現在、世界中で5人しかいないSSランク冒険者の一人、ナスタ。

 炎、氷、雷といった、様々な属性の魔法を操る魔導士の中でも、最上位の実力を持つ冒険者だ。彼女が生成する炎魔法は、一国の軍隊に相当する数の魔物の群れを一撃で消し炭にし、彼女が放つ氷魔法は都市を飲み込むような濁流を、まるごと氷漬けにしたという逸話がある。

 カルミナたちが騎士団と協力し、半日がかりで止めたスタンピードを、彼女一人で鎮圧したのがSSランク冒険者となったきっかけだったか。


 紺色の髪の隙間から、深みを帯びた赤い瞳を覗かせて、ナスタがコクリと頷いた。

 大きい唾の帽子を取ってアインスに会釈すると、アインスもあわてて身なりをさっと整えて頭を下げる。


「早速ですが、連盟党首様がお待ちです」


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