連盟本部へ
「ここが、連盟本部ですか……?」
魔方陣の輝きが収まり、転移先に広がっていた景色に、アインスは何やら拍子抜けした様子だ。
転移したのは、舟の停泊所と簡素な宿舎が用意されただけの小島だった。
霧がかかって、海の先は見えない。
てっきり城のような建物を想像していただけに、呆然とするアインスへ、「あー、違い違う」とミネアが手を横に振る。
「連盟本部に直接転移するわけじゃないのよ。ここの船に乗って本部に行くの」
「ああなるほど」
連盟はどの国にも属さない独立した組織ではあるものの、魔物やダンジョンがはびこるこの世界では、国政への影響力は大国のそれに勝る。
もはや国と言う形をとっていないだけの、国家同然の組織なのである。一度中継地点を挟むのは、セキュリティ面を気にしての事なのだろう。
停泊所にいた連綿の職員に、カルミナが冒険者証と、連盟の印が入った公文書を見せる。
公文書の印が本物であることを確認した職員は、船の桟橋を下ろし、カルミナたちを船の中へ案内した。
「すごい……風も受けずに船が進む」
船は定員10名ほどの小さい小舟だ。
その後部に取り付けられた装置のスイッチを職員が押すと、装置のプロペラが回り出し、推進力で船がひとりでに進む。
船に帆がないのを見た時には、てっきり漕がされるものだと思っていた。目を輝かせて装置を見つめるアインスに、カルミナが説明した。
「動力石と言ってな。ダンジョンで見つかった秘宝の一つだ。熱、電気、光など、様々なエネルギーを無限に、この石一つで発生させることができる」
動力部に装着された赤い石を示され、「へえ~」と感心した声をアインスがあげる。
「どこかの国で、石炭を動力に利用した乗り物も開発されてるらしいけど、実用化には至ってないみたい。あれ排気ガスも凄いしね」
「その点動力石は便利だな。ガスも出さなければ出力も高い。高ランクダンジョンでしか手に入らないのがネックだが」
「こんな秘宝を、連盟はいくつ手中に収めているのでしょうか……」
連盟が急速に成長したのは、冒険者たちをまとめ上げ、ダンジョン攻略のノウハウを共有し、各国の手に渡る前にダンジョンを攻略して、数々の秘宝を手中に収めたことが要因だ。
連盟は【変異ダンジョン】や【アンデッド】の情報などを、意図的に各国に共有していない。ダンジョンの進化を未然に防ぐ意味合いもあるが、連盟以外にダンジョンの攻略ができないよう、ノウハウを独占する意味合いも強い。
ダンジョンから発生した周辺諸国への被害の賠償は、そのダンジョンを保有している国が行う。高ランクダンジョンで死人を出せばダンジョンブレイクの危険もある為、国はダンジョンの保有権を連盟に譲るか、連盟が多くの利益を得る条件で攻略協力を依頼するしかない。
つまり、連盟は高ランクダンジョンの攻略権、そしてそこで手に入る秘宝を事実上ほとんど独占している。
ノウハウを共有せず、力を増し続ける連盟を敵視する国は多いが、逆らうには連盟は強大になりすぎた。ダンジョン攻略に関しては、誰も連盟には逆らえないのが現状だ。
「あれが連盟本部よ」
暫く小舟に揺られていると、霧のカーテンを突破したのか、段々と視界が晴れてきた。
そして、目の前に浮かんできた光景に、
「うわあ……!」
アインスが驚きと感動が混ざった声を上げる。
島の中央に建っている城が連盟の本部なのだろう。山をそのまま城の形にしたのかと思うほど、ずっしりと高く聳え立つ巨大な城だ。その城を中心として、高い建物が並び建つ城下町が広がっている。
先日訪れたインシオンも有数の商業都市ではあるが、それと比較しても二回りほど規模が大きい。
「あの島も建物も全部、連盟党首の私有物です」
アインスの様子を見て、連盟には初来訪だと悟った職員が補足した。
「あれが全部党首の私有物って……連盟ってかなりのワンマン運営なんじゃ……」
「そうよ」
ミネアが辟易とした様子で頷いた。
「まあ、どんな人物か会ってみればわかる」
この豪勢な島ごと私有物に出来るほどの力を持った党首とは、いったいどんな人間なのだろうか。
期待と若干の不安を胸に、アインスは初めて、連盟の本部がある島へと降り立った。




