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連盟本部への招待状

「ふう、これで依頼完了だな」


 自分の3倍ほどはあるであろう大きさの飛竜(ワイバーン)の死骸を前に、カルミナが一息ついた。

 刀身に付いた飛竜の血を拭い、剣を鞘に納める。


「もー! 飛竜の皮なんて高級素材、何で無料で連盟に納めなきゃなんないのよー?!」


 飛竜の死骸を解体しながら、ミネアが抗議の声を響かせた。

 その様子にアインスは苦笑しながらも、1カ月前の出来事を思い出した。

 全てはインシオンを出た後、連盟から届いた1通の公文書から始まったことだ。


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 インシオンを出て、隣国へ向かう馬車に揺られている中、カルミナの元に、連盟から派遣された文通鳥(メールバード)がやってきた。

 連盟から依頼指示がある場合、拠点を構えない冒険者の元へは文通鳥によって行われる。


 文通鳥は全長2mほどの、ハシビロコウのように嘴と頭の大きい鳥だ。

 初めて見る極彩色の巨大な鳥にアインスは驚く中、カルミナはマジックバックから適当な果実を取り出し、チップとして文通鳥に食べさせる。


 すると文通鳥の首に提げられていたカバンのロックが解除され、カルミナは中から指示書を取り出した。


 指示書の内容は以下の通りだった。


 ~~~~~~~~~~~~~~~


 カルミナ、およびその傘下の冒険者2名。

 連盟法14条の違反により、下記依頼達成までギルドとしての活動を禁ずる。


(依頼内容の為中略)


 なお、この度の依頼達成の報酬や魔物の素材は、全て連盟に納めること。


 ~~~~~~~~~~~~~~~


「はあああああああああああああああああああああああああ⁈」


 指示書の内容にミネアが悲鳴に近い声を上げた。


 連盟法14条。ダンジョンの無断攻略を禁ずる内容の項だったか。

 アインスがカルミナに確認を取ると、カルミナも渋い顔で頷いた。どうやら半違法なルートでギルドランクを上げようとしたことは連盟にバレていたらしい。


 ダンジョンブレイクの原因はカルミナたちにはないが、それでもインシオンの事情を、事前に連盟に知らせていれば被害を少なくできたかもしれないのは事実。

 それを故意にしなかったが故の罰則だろう。ダンジョンブレイクを起こせば最悪連盟傘下の冒険者として、冒険者証(ライセンス)を没収されるため、ただ働きで済むだけ大分マシだ。


 それでもただ働きと言う点が気に入らないらしく、ミネアは暫くの間駄々をこねていた。


「どうします? カルミナさん」

「どうするも何も……」


 依頼を達成したところで報酬はなく、ミネアやアインスの冒険者ランクが上がるわけでもない。

 得るものがなく気乗りしないのは当然だが、冒険者として活動する以上、連盟からの指示は絶対だ。


「……やるしかあるまい」


 珍しく目に見えて気落ちした様子でため息をつくと、カルミナは御者に目的地が変わることを告げ、依頼の地へと行き先を変えた。


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 そして、複数あった連盟からの依頼を全てこなし、今に至る。


「ようやくギルドとしての活動が再開できそうだな。……皆、すまなかった」

「僕は良い体験ができて楽しかったですよ。各地の魔物を見て回れましたし」


 飛竜を解体しながら、アインスはノートに魔物のスケッチを取る。

 マッピングで培われたのか、アインスのスケッチは正確で速い。

「相変わらず良く描けているな」とカルミナが感心した様子で頷いた。


「初めて見る魔物はスケッチして、後で図鑑にしようと思ってるんです。ダンジョン攻略で活きることがあるかもしれないし」

「全部この出来なら、大量に印刷して各地のギルドに売れるかもね。そのときは印税の何割かあたしにちょーだい!」

「いや、売るつもり何てさらさら……」


 目を金にして懇願するミネアに、アインスは苦笑する。


「まあ、こうやって高ランクの魔物のスケッチができるのも、皆のおかげですし。売り物になった時はそうします」

「やったー! 言質とったわよ!」


 テンションを上げて、解体のスピードをミネアがあげる。

 黙々と作業を続けるアインスに、カルミナが「アインス」と語り掛けた。


「君も護身用に武器を持たないか? 魔物との戦闘で活きる場面もあるだろう」

「え⁈ 僕が武器ですか⁈」


 カルミナの提案に、アインスが驚きの声を上げる。

 以前同じことを考えたこともあるが、体が非力だったアインスは鉄製の武器をまともに振るうこともできず。前ギルドの者たちに馬鹿にされたことがある。

 苦い思い出に顔を暗くしていると、カルミナが「大丈夫だ」とほほ笑んだ。


「遠距離武器を勧めたいと思っているんだ。クロスボウなどどうだろう? あれなら力がなくても一定の威力を発揮できる」

「……なるほど。それならいいかもしれないです」


 剣や槍を握ったところで、魔物と命のやり取りができるなど到底思えないが、距離を離して不意打ち気味に攻撃を当てることならできるかもしれない。

 アインスの反応を好感触とみたのか、カルミナが更なる提案をする。


「他には、銃と言う手もあるぞ」

「……じゅう?」


 初めて聞く武器の名前に、アインスが首をかしげる。


「あまり出回っていないのだがな。鉄筒に鉄製の弾を込め、火薬で爆発させて撃ち込む武器だ。クロスボウよりも値が張り、雨で使えなくなるなどのデメリットもあるが、殺傷能力が高い」

「クロスボウにしましょうアインス君」

「……お前は黙っていろ。どうだろう? 必要に応じて取り寄せるが」


 口を挟むミネアを押さえながら、カルミナが訊ねる。

 しばらく考え込んだ後に、アインスは「クロスボウにします」と答えた。


「雨で使えなくなるなら、一部のダンジョンでは使えない。それに取り扱いが少ないなら、メンテも大変そうですし」

「了解した。次の攻略までに用意しよう」


 アインスの回答にカルミナは満足そうに笑った。

 そして解体が終わった頃に、カルミナが連盟の公文書に同封されていた巻物を取り出した。


「転移の巻物(スクロール)……何処宛です?」

「連盟本部さ」

「本部ですか⁈」


 今まで辺境の、それもブラックギルドで下働きしていたアインスにとっては縁のない場所だ。


「はあ⁈ 別に近隣の支部で依頼達成の報告と、素材の納品をして終わりでいいでしょ⁈ なんでわざわざ本部なんかに……」

「……顔を見せに来いということだろう。あいつの考えそうなことだ」


 呼び出される理由に心当たりがあるのか、カルミナとミネアはげんなりした様子で大きく息を吐いた。


「あいつ? その人……ヤバい人なんですか?」

「ヤバいというか、疲れるというか……」


 とある人物の顔を思い浮かべているようだが、別にその人物が嫌いと言うわけではないらしい。それにしては露骨に会うのを渋ってはいるようだが。


 観念したのか、カルミナは転移の巻物に魔力を籠め、魔方陣を現出させる。


「……行こう」


 カルミナたちは嫌そうな顔をしているが、アインスとしては、全世界の冒険者ギルドを治める組織の本部に行ける機会などめったにない。若干の怖さもあるが、わくわくしている部分もある。

 魔方陣の輝きが増していき、一瞬強い輝きを放ったところで、アインスたちは魔方陣と共にその場から消滅した。


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