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元ブラックギルドリーダーのその後

 

「はあっはあっ……! 何で俺がこんな目に……!」


 昇級試験で試験官を無視し、ダンジョンの奥地へ潜ったリードのパーティーは、変異ダンジョンの脅威に襲われることになった。

 まず森林の環境から熱帯雨林への環境の変化。むせ返るよな熱さに体力を奪われ、ダンジョン内を歩くだけで体力を消耗した。

 食料は森林のダンジョン内で補給するつもりだったが、環境遷移後のフィールドの植物は人間にとって毒性である成分が多く含まれており、木の実を食べるだけで腹を下した。水も泥が混ざって飲めたものではなかった。


 体力を奪われた一行を狙い、魔物の群れが襲い掛かってきた。

 弱っていた所襲撃に会い、リードを除くパーティーメンバーは呆気なく殺されてしまった。


 そして、仲間の亡骸をダンジョンが吸収したことで、ダンジョンブレイクが起こる。


 天をひっくり返したかのような大きな揺れで、リードは頭をぶつけてしまい、殺した魔物の死骸の傍で気を失ってしまった。




 目を覚ませば、全てが終わった後だった。

 リードは魔物の死骸に隠れるように気絶していたおかげで、スタンピードが起こった時に、魔物に気が付かれずに済んだらしい。


 ダンジョンがあったはずの場所は、大量の魔物が踏み荒らした為か、地面が荒廃していた。

 荒れた地面に埋まるようにして、仲間の装備品や、試験官の死体が転がっていた。試験官はスタンピードの際、魔物に踏み殺されたようだった。原型をほとんど保っていなかった。


 街に戻ると、リードは自分がスタンピードを起こし、周辺地域に壊滅的被害をもたらした極悪犯罪者として指名手配されていることに気が付いた。

 自分が運営していたギルドも建物ごと取り押さえられていた。入り口には連盟から派遣されたらしいSランク冒険者が、リードが帰還してこないか見張っていた。


 そうして、逃げるように街を転々とし、路銭が尽きたところで今に至る。


 顔を隠しながら食料を買い、人気のない路地裏で硬い壁を背に就寝する。

 追われている身ということもあり、心身の消耗が激しい。


 ——お前がクビにした斥候(スカウト)がいない限り、攻略は無理だ。


 全てはあれだけ言い残して、その場を去ったあの女冒険者のせいだ。

 あのクソ斥候(スカウト)に手柄を譲っていたアインスのせいだ。


 カルミナは今回の件に関しては何の関係もないし、アインスはアインスで、手柄を取られるとリードに何度も相談している。

 全ては自分の身から出た錆だが、他人のせいにしなくては、今のリードは自尊心を保ってはいられなかった。


「おやおや。思ったより元気そうじゃないか。犯罪者君」

「⁈ 誰だテメエ⁉」


 突然背後から声をかけられ、怒声と共に振り向くと、黒いローブを被った黒髪の青年が不気味な笑みを浮かべて歩み寄ってきた。

 ボロボロの大剣を構えて警戒態勢をとると、「そう緊張するなよ」と首に提げられた金水晶の冒険者証を見せつけてきた。


 世界で5人しか存在しない、SSランク冒険者の証だ。


「俺はファルアズム。連盟でダンジョンの生態について研究している冒険者だ」


 連盟、と聞いてリードが大剣を容赦なく振るい、ファルアズムと名乗った青年に襲い掛かる。

 今のリードは連盟が発行した手配書により、犯罪者となっている。

 つまり連盟に所属している冒険者は、自分を捉えに来る敵でしかない。


【身体強化】を使って体を強化してから、凄まじい速さで襲い掛かるが、


「————っ?! うあああああああ⁈」


 持っていた大剣が大蛇に変化し、リードに向かって牙を剝いた。

 突然の出来事にリードは恐れおののいて尻もちをつく。


「あっはっは。良いリアクションするねえ」


 そんなリードの様子をファルアズムがあざ笑い、指を鳴らした。

 パチン、という子気味良い音が鳴ると、リードを襲っていた大蛇は大剣に変化し、路地裏の地面で乾いた音を立てた。


 幻術を操る【幻覚魔導士】の役職持ちだったか。


 音や視線を媒介にして、相手の脳に魔力を流し込み、様々な幻覚を見せることに長けた役職だ。


「とっさに剣を離したのはナイス判断だね。幻術といえど、僕の幻術はリアリティがありすぎて、ダメージを知覚することもあるらしいからさ」

「……てめえ、俺を捕まえに来たのか」


 いくら屈強なリードといえども、近寄る前に幻術をかけられては勝ち目がない。

 観念したように膝をつき、ファルアズムの様子を伺ってくる。


「いや、勧誘だ。君みたいな人材を探してたんだ」

「俺みたいな……?」

「うん。腕っぷしは強いけど、もうどこにも行く当てのない、表では生きていけなくなった君みたいな人間だ。僕の研究を手伝ってほしいんだ」


 研究の手伝い、とは言うが。犯罪者に依頼するような研究だ。どうせ碌な研究ではない。

 表には出せない研究だろう。そんなヤバい研究の手伝いをしたら今後どうなるか。

 いくら後がない立場といえども、そんな得体のしれない依頼を二つ返事で了承するほどリードは馬鹿ではない。


 適当な理由をつけて断ろうと、リードが顔を上げた時だった。


「おい。断る選択肢なんかないぜ?」


 リードの足元に突然断崖絶壁が出現し、リードを奈落の底に飲み込もうとする。


「うおおおおおおおおおおおお?!」


 とっさに目の前の崖に手を伸ばし、崖を登ろうと力を振り絞るも、崖を掴んだ右手以外に力が入らない。これも幻術によるものなのか。


 今手を離し、奈落の底へ叩きつけられては、ダメージを知覚してショック死してしまう。


 決死の表情で崖を掴むリードを見下しながら、ファルアズムは邪悪な笑みを浮かべて語り掛けた。


「君の選択肢は2つ。今ここで僕に殺されるか、それとも僕の研究の手伝いをして、闇の住人として生きていくかだ」


 吹きすさぶ風の感覚に身を凍えさせながら、リードは恐怖に満ちた顔でファルアズムの顔を見やる。


「もう生き方を選べる立場じゃないだろう。犯罪者君」

「わかった! 手伝う、手伝う!」


 頷かなければ死んでしまう。

 生きたいという気持ちがリードを反射的に頷かせた。


 回答に満足したファルアズムが再び指を鳴らすと、リードの体の呪縛が取れた。

 身が解放されたリードが必死に崖をよじ登る。


「じゃあついてきな。今後は僕に逆らわないこと」


 そういって歩き出すファルアズムの背中を、すぐに追いかけることはできなかった。

 頷いたことに後悔しながら後ろを振り向いても、まだ底の見えない深い崖が背後には広がっている。


 もう戻る場所がないことを暗示しているのだろうか。

 生きるためには進むしかない。ファルアズムの通った、得体のしれない邪悪な道を。


 どうしてこうなった。そんな感情に苛まれながら、リードは目の前の幻覚魔導士の後を、弱弱しい足取りで追いかけた。


 何度も何度も、後ろを振り返りながら。


第2章、これにて完結です<(_ _)>

あまり爽快な結末ではなかったかもしれませんが、主人公とその仲間たちが、ギルドとして成長していく様を楽しんでいければと思っています。


成長していく主人公たちの一方で、着々と深淵へと足を進める元ブラックギルドリーダー。


二つの物語が交わる時を楽しみにしていただけると幸いです。


次の章での、主人公たちの成長と活躍をご期待ください。

次章から、1日1回ペースでの更新となります。(章が短いと判断したら複数回投稿にします)




もしこの物語を応援していただけるのであれば、ブクマ登録や、下の☆から評価、感想などを頂けますと幸いです。

今後とも宜しくお願い致します<(_ _)>

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