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信頼されたくて

 部屋を出て、フロントへ続く階段に差し掛かった時に、ココとすれ違った。

 ずっと部屋にこもっていたため、会うのはバットを助けた時に事を、ひとしきり礼を言われて以来か。

 アインスが会釈すると、ココは会釈しながらも気まずそうに後ろを見やる。


「……今から外行くんですか?」

「あ、はい。夜風に当たろうかと」

「……今はやめておいた方がいいですよ」


 言葉にしたくはないのか、それ以上は説明せずに、ココはその場を去ってしまった。

 何がどうまずいのだろうか。

 アインスは気になって【探知眼】を発動させ、先の様子を探知する。


 食堂に二つの魔力反応在り。

 身に着けている装備品や身長から、カルミナとミネアだろう。


 こんな夜更けに何をしているのだろう。など自分が言えた義理ではないが、寝るように促した当の本人が起きているとなれば、その理由は気になってしまう。

 恐る恐る足音を殺して、食堂のドアに耳を当てる。


「どうしてアンデッド出現の可能性を事前に言わなかった」


 すると、先ほどまでのミネアの声とは反し、静かに、確かな怒りのこもった声が聞こえてきた。

 カルミナに向けられたものだろう。声を荒げているわけでもないのに、どっしりと心にのしかかるような圧のこもった声が、アインスの胸を締め付ける。

 言葉を探すように目を泳がせたカルミナの言い訳を、ミネアが先に潰す。


「まさか冒険者ランクによる情報制限が理由なんて言うんじゃないわよ。半違法(グレー)なルートでギルドランクをあげようとしている奴が、規則を盾にするのは許さない」

「それは……」

「環境変異のことも、あんた事前に気が付いてたでしょ。なんで気づいたときに言わなかった。言いなさい」


 ミネアはじっとカルミナを見つめ、語りだすのを待った。

 話すまで意地でも動かないという意志が、重い気迫となってカルミナの胸を押さえつけた。

 しばらくの沈黙の後、観念したようにカルミナは語りだす。


「……信頼、されたかった」

「説明になってない」

「……………………冒険者として、頼れるところを見せれば、アインスに信頼してもらえるかと」


 細い声で、途切れ途切れに吐きだした理由に、ミネアは「馬鹿が」とカルミナの頭に拳骨を食らわせた。


「そんな強さをひけらかすような方法で、信頼なんか得られるわけがないだろ‼」


 今までで一番の怒声に、カルミナがビクッと体を震わせ、身を縮める。


「いつもにまして高い宿取れってしつこかったのもそれか! アインス君にかっこつけたかっただけか!」

「……」

「私たちに黙って聖水を用意したのも、知識でマウント取りたかっただけか!」

「ちが……」

「何が違う‼ 言ってみろ‼」


 鋭く芯の通った声に、カルミナは言葉を詰まらせ、何も言うことができなかった。

 迫力に押されたのもあるが、ミネアの言葉に異を唱えることができなかったからだ。

 沈黙を肯定の意でとらえたミネアが、静かな声で続ける。

 

「あんたに忠実な部下を育てたいなら、やり方の一つとして否定はしない。でも対等な仲間が欲しいなら、そのやり方は止めろ」

「……」


 カルミナは何も言い返せないでいた。事実上の降参宣言だ。


「あんたがカッコつけたいだけのギルドなら、あたしゃ辞めるわよ」


 これ以上の説教は今後の関係に響きそうだ。

 最後に一言だけ言い残し、ミネアは食堂を後にした。ドアを閉める音が優しかったのは、せめてなりの気遣いか。

 

 怒る方も体力を使うものだ。

 ドアの外でげんなりと息を吐くミネアが、なんとなしに横を見ると、


「……」

「oh……」


 気まずそうに目を丸くするアインスと目が合い、ミネアがギョッと目を剥いた。


「聞いてた?」

「……はい」

「……あちゃー」


 先ほどまでカルミナを圧倒していた様はどこへやら。

 目を泳がせながら冷や汗をかくミネアは、暫く、やっちまったと言わんばかりの表情で天井を仰いだ。


「……行くの? カルミナの所」

「……はい」


 アインスの返事に、ミネアは何やら考えた後、マジックバックから一本の酒瓶を取り出し、そのラベルに何やらメッセージを書き込み始めた。


「じゃあこれ渡しておいて」


 酒瓶をアインスに託し、「今度こそ用が済んだら寝なさいよ」と恨みがましく指をさしてから、ミネアは部屋に戻っていった。


 ミネアの姿が見えなくなってから、アインスは自分を落ち着かせるように深呼吸をしてから、食堂のドアを優しくノックする。


 返事は返ってこなかった。

 失礼します。と一言声にしてから中に入る。


「……なんだ」

「……カルミナさんにお話があって」


 食堂の机に持たれるカルミナの姿は、とても小さく見えた。

 自分に背を向けたままのカルミナに、アインスは呼吸を整えてから語りだした。


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