スタンピード
【スタンピード】は、ダンジョンがダンジョンブレイクを起こした際に、中で飼っていた魔物を外へ解き放つ事象である。
ダンジョンブレイク後、すぐに魔物が溢れ出るわけではなく、一定時間後にダンジョンがあった場所にゲートが出現し、そこから魔物たちが溢れ出るといった具合だ。
「……⁈ カルミナさん⁈ なんでここに?」
転移の巻物を使用すると、辿り着いたのは騎士団長であるダンテの下だ。
転移の巻物は、転移先を一つだけ設定し、そこへ繋がるゲートを生成する魔法を記したアイテムだ。
困惑するダンテに、カルミナが手短に説明する。
「私たちより先に、街の貴族が傭兵を送り込んでいた。そいつらが死んでダンジョンブレイクが発生。スタンピードが起こり、中の魔物が溢れ出るだろう」
「なんという……! すぐさま【スタンピード】の対策に取り掛かれ!」
カルミナの報告を聞いたダンテは、すぐさま傍にいた兵士に指示を飛ばす。
「寄せますか?」
「ああ。誘導の準備だ。この城塞都市で迎え撃つ。それと戦力が足りない。街に在住する役職持ちの者に協力の依頼を出してくれ」
「かしこまりました」
ダンテの指示を聞き終えた兵士は、素早く一礼してから、その場を離れていった。
「私たちも手伝おうか?」
「お願いします。今は一人でも人手が欲しい。いろいろと準備をするので、先に西の城門へ向かってください」
ミネアの言葉にダンテが礼を述べると、さっそく指示された場所へ向かう。
「あの、僕は……」
「少年は留守番だ」
アインスの頭にポンと手を置いてカルミナが笑う。
「大量の魔物との戦いになる。君は一足先に宿へ戻って、スタンピードが収束するのを待っていてくれ」
「多分へとへとになって帰ってくるから、うまい飯作っといてね~」
今から街へ襲ってくるのは、ダンジョンが抱えていた大量の魔物たち。
それも普通のダンジョンではない。高ランクの魔物たちが跋扈する、Sランククラスのダンジョンの魔物たちだ。
戦闘手段を持たないアインスでは、傍にいても邪魔になるだけだ。
「……」
そんなことはわかっていた。
だが、それでも「わかりました」と頷くことはできなかった。
カルミナの後へ、ミネアが続く。
わかっていたことだ。自分はまだ彼女らの輪の中にいない。
「……」
何ができるわけでもない。
けど、何か出来ることはないだろうか。
動かなければ、自分と彼女らとのつながりが、ここで終わってしまうような感覚がした。
カルミナたちの姿が見えなくなってから、アインスは宿へは戻らず、魔物たちを迎え撃つ城門の方へと駆けだした。




