表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/118

順調すぎるダンジョン攻略

 カルミナの言葉にハッとし、慌てて【探知眼】を発動させると、自分たちの周囲を複数の魔物が取り囲んでいるのに気が付いた。


 体を構成する素材や、魔力の大きさから【アイアンセンティピード】だろう。全長10mにもなる、体の背面を鉄のように固い装甲で覆い、毒腺の備わった鋭い牙で人間を嚙み殺すAランクの魔物。

 動きは早くないが土の中に潜り、視覚外から奇襲することもある厄介な強敵だ。


「土の中から2体、正面から3体来ます」

「ナイス探知」


 アインスの情報を聞き、すぐさまミネアが杖を地面に突き立て、周囲の地面を硬化させた。

 これで土の中を掘って奇襲することはできない。


 そして表に出てきたものも含め、カルミナが魔力のこもった剣で、全ての個体を細切れにした。

 並大抵の装備では傷一つつかないほど、固い装甲を持つアイアンセンティピード。討伐の時は装甲に覆われていない反対側から攻撃するのが基本なのだが、カルミナはそんな装甲をごと、柔い糸でも切るかのように切断する。


「この調子で進んでいこう」


 変異前後でEランクからAランクに、魔物の強さは跳ね上がったはずだ。

 だが、カルミナたちの余裕は先ほどまでと何も変わらない。彼らからすれば、EランクもAランクも同じなのだろう。


「ゲートは向こうじゃないか?」


 再びアインスの推察よりも早く、カルミナがゲートの方向を言い当てる。

 魔物の位置情報からアインスも同じ結論を抱いていた。「そうだと思います」とカルミナの意見を後押しする。


 高い草木の間を縫いながら奥へ進むと、アイアンセンティピードの群れが、ゲートを中心として縄張りを築き上げていた。 

 ミネアが土を変形させ動きを止め、動きの鈍った個体をカルミナが仕留める。これが二人の黄金パターンらしい。


 変異後も攻略のスピードは落ちなかった。気温もほどほど。高い草木で魔物の姿は見えにくいが、五感で敵の居場所が感知できるカルミナには関係ない。

 並大抵のダンジョンなら、パーティーを組まずとも踏破してしてしまいそうだ。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 そして、唯一危惧していたSランクの魔物、グレートドラゴン戦も――


「【無空空間(クリアエアー)】」


 離れた位置から、ミネアが物質魔法で周囲を無酸素状態にし、窒息させ気を失ったところに、カルミナが急所を一突きにして仕留める。

 無空空間は多く魔力を消費するのか、少しだけミネアが疲れた様子を見せたが、無傷で突破してしまった。


「うっひょ~。ダンジョン産でも、ドラゴンの素材は高く売れるのよね~♡」

「ドラゴンは肉もうまいぞ。今日の晩餐にしようじゃあないか」


 疲れはしたが、金のことを考えてすぐさま元気に解体を始める。カルミナも高級肉を目にし、ノリノリで手伝った。


「アインス君、これ、毒とか入ってる?」

「入ってないです」


 毒は持っていないはずだが、ダンジョン産の魔物なので念のため【探知眼】で毒物チェックをする。

 ドラゴンの肉は美味なことは有名なため、ダンジョンが生み出したドラゴンの肉もきっと美味なのだろう。自然産に比べれば味は落ちるだろうが。


 ある程度の肉や素材を回収し、その日はドラゴンの亡骸の傍を野営地として、野営の準備を始めた。

 ドラゴンは縄張りに自分の匂いを刻んで、他の生物を威嚇する。

 そんなドラゴンの死骸の傍なら、他の魔物は寄ってこないだろう。何とも贅沢な安全地帯だ。


 野営と食事の準備が終わるころには、辺りはすっかり暗くなっていた。


 ドラゴンの血を周囲に撒き、周囲に匂いをつけてから、アインスは焼きあがった肉を食べた。


「――うっま‼」

「そうだろうそうだろう」


 アインスの反応に、カルミナは鼻を高くしながら肉にかぶりつく。

 大胆な仕草にも、気品が感じられるのはいい女だからか。

 高級料理店の肉を優雅に食べていたカルミナも、ドラゴンの肉を口にし、ほんの少しだけだらしなく頬を緩ませたが、慌てて取り繕う。


「私たちと活動していけば、こんな肉ぐらいもっと食わせてやるぞ」


 私たちと活動していけば。

 その言葉に、肉を食べる口が一瞬だけ固まった。

 だが、「がんばります」と笑って、すぐに食べるのを再開する。ミネアは「麦酒があればなあ~」と贅沢を言いながらも、幸せそうな顔で肉を頬張った。




 食事を終えた後は、交互に火の番をしながら就寝だ。

 朝までの時間を3等分し、火の番と周囲の警戒をする。安全地帯とはいえ、魔物が現れない保証はない。


 アインスは2番目を担当した。これでカルミナとミネアは就寝を2度に分ける必要はなくなる。


 3時間ほど眠った後、「後は頼む」と火を任され、アインスはカルミナがテントに戻るのを見届けてから、火の傍に腰を下ろした。


 【探知眼】を発動させ、周囲を警戒しながら、アインスは攻略計画を何度も何度も見直した。

 これ以上ミスはないか。あの人たちの安全を絶対に保証できるだろうか。


 夜の冷たい風がアインスの体を煽る。消えそうになった焚火の炎が、何故か自分と重なって見えた。慌てて薪をくべて火元を保つ。


「ご苦労様~。交代の時間よ~」


 そうしているうちに交代の時間が来たらしく、大あくびをしながら、ミネアがダルそうにアインスの下へ寄ってきた。

 だらしないように見えて、約束事は守るし、時間ピッタリに起きてくるあたりミネアはしっかりしている。


「……もうちょっと寝てていいですよ。火の番、僕が続けます」

「馬鹿言いなさんな。あんたもしっかり寝ないと、ぶっ倒れちゃうわよ?」


 アインスの額をデコピンで弾くと、ミネアはニッと笑った。


「……いいんです。僕、今日も何もしてませんから」

「【探知眼】で周囲を警戒してくれていたでしょ。謙遜しすぎ」

「でも――」


 カルミナさんはそんなの無くても魔物の位置がわかるし。

 ――なんて口にすれば嫌味になるだろうか。

 そんな思考が過り、慌てて口を噤んでしまった。


「もしかして、攻略計画ミスったと思ってる?」

「え? ああ、はい……」


 それも落ち込んでいる要因の一つ。

 ミネアに指摘され、アインスは力なく頷いた。


「あんなのミスの内には入らないし、環境変異以外の考察は完璧だったじゃない。魔物のリストや準備するものまで、分かりやすく纏めてくれて助かったわ。あたしが言うのもなんだけど、あんた、結構優秀な斥候(スカウト)よ」

「……なら良かったです」


 でも、今ぐらいの仕事は、【探知眼】が覚醒する前もやっていたことだった。

 今までの苦労が評価されたようで嬉しい気持ちもあるが、反面、今までの仕事と同じ程度にしか活躍出来ていないことに不安が残る。


「つーわけで、安心して寝てきなさい。明日もガンガン探知してもらうからね!」


 ミネアがアインスを強引にテントの中に放り込むと、「グッナイ~」と手を振って火元の傍へ向かう。


 不安が表に出てしまっていただろうか。

 今日の様子を振り返り、そうだったかもしれないと反省した。


 明日こそ。明日こそ何か成果を上げなくては。


 そう決心し、アインスは寝袋に包まるようにして眠りについた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ