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一人前になりたくて ~脱ヒモ同盟~

 月明かりのみに照らされた部屋で、アインスたちはベッドに横並びに腰を掛けて、アインスの過去や冒険者業について話し合った。


「クビになったところを拾われたってことは、兄ちゃん、あのカルミナってねーちゃんのヒモじゃん」

「……これから役に立っていく予定だから。ヒモにはならないから」


 ヒモと言われると否定したくはなるが、何の実績も上げれていない以上、まだ返す言葉はない。

 未来へ逃げるような言葉に我ながら空しくなり、弁明をしながらもアインスは肩を落とした。


斥候(スカウト)ってそんなに扱いがひどいの?」

「酷いって言うより、低ランクのダンジョンだといなくても何とかなることが多いんだよ。いれば楽だけど、ある程度サバイバル能力や魔物の知識に富んだ冒険者なら、腕っぷしで何とかなっちゃう」


 アインスの説明した通り、斥候(スカウト)は戦闘能力を持たないため、魔物との戦闘が攻略難易度の大部分を占める、低ランクのダンジョンでの扱いは良くはない。

 事前に魔物の位置を探知できるのは便利だが、必須ではないことが多い。知識面でのサポートは、結局は他の戦闘職の冒険者でも可能な為、攻略に日数を必要としない低ランクのダンジョンでは重宝はされなかった。


 斥候(スカウト)のありがたみは、階層の深くなる高ランクのダンジョンになると増してくる。

 マジックバッグという例外はあるが、基本的には持ち込める物資には限りがある。可能な限り戦闘を避け、体力を温存し攻略することは、高ランクになるにつれて必須のスキルだ。そのため魔物の位置や、ダンジョンの生成した罠の位置がわかる【探知眼】は重宝される。


 しかし、下積みを積むには低ランクのダンジョンで現場の経験値を積まなければならないが、その低ランクのダンジョンでは斥候(スカウト)は重宝されない。

 高ランクのダンジョン攻略まで見据えて、斥候(スカウト)の扱いを良くしているギルドは多くはない。そのためダンジョン攻略の際、ダンジョンランク以下の冒険者は攻略班には入れないのだが、斥候(スカウト)は例外なのはそのためだ。


 魔物の討伐依頼で冒険者ランクも上げれず、実績を作るために低ダンジョン攻略にも同行できない斥候(スカウト)は多くいる。

 経験値を積む場を多く儲ける為、斥候(スカウト)は冒険者ランクが低くても、高ランクダンジョンの攻略に同行できるのだ。


「バット君は【戦士】の役職だっけ?」

「うん、あのねーちゃんと同じ」

「戦闘職なら仕事に困ることはないかもね。それにバット君の魔力量、結構すごいよ。前に働いていたギルドの、Aランク冒険者くらいはあるかも」

「本当⁈」


 アインスの言葉に、バットが目を輝かせる。

 戦闘のセンスは人それぞれだが、役職持ちの基本的なパフォーマンスの上限は、本人が持つ魔力量で決まる。

 戦士の役職は、魔力を使って肉体や武器を強化することができる役職だ。元の肉体の強さも必要だが、攻撃力や俊敏性に大きく影響を与えるのは魔力。カルミナが比較的細身ながらも、常人を遥かに超えた動きや攻撃力を発揮できるのは、その身に宿す魔力の量が尋常じゃないくらい多いからだ。


 アインスの【感知眼】で測定した、バットの魔力量は十分多い。素質だけだったら十二分あると言っていいだろう。


「……俺さ。早く自立したいんだ」

「自立? どうして?」

「うちの宿さ。ボロだろ?」

「……いい宿だと思うけど」


 ボロはボロかもしれないが、良い宿であるのも事実。

 嘘にならない程度にやんわりと返すアインスに、バッドは身の上話を始めた。


「あれ、元々はじいちゃんから譲り受けた宿なんだよ。んで、父ちゃんが後を継いだんだけど、父ちゃんと母ちゃんが亡くなって、姉ちゃんが後を継ぐことになった」

「父さんと母さん、いないの?」

「うん。何年か前に、馬車に乗っていた所を、魔物に襲われて死んじゃった」


 まずい。触れてはいけない会話だった気がする。

 これ以上深堀するのは無神経だろう。アインスは戸惑いながらも、強引に話題を切り替える。


「この宿、年季のある建物なんだ?」

「そう。だからコツコツと売上溜めてリフォームする予定だったんだ。で、目標の金額まであと少しってところだったんだけど」


 バットの顔が途端に曇る。


「街の周りに魔物が増えて、旅の商人が少なくなった。客が来なくなったから、計画がおじゃんになっちゃった。今じゃ滅多に客も来ないから、姉ちゃんと俺だけで宿を回してる」


 元々安さの割にサービスが良いということが売りなだけあって、荷物の護衛に人材を雇えないような商人たちがメインの客層だったのだろう。魔物の出現で顧客が一気に潰れたわけだ。


 魔物対策に腕のいい用心棒を雇える裕福な商人は、そもそも安宿など利用しない。

 街に何日か滞在して気が付いたのだが、ココの宿と似たような客層がメインの宿は、ほとんどが営業休止か廃業に追い込まれていた。ココの宿は何とか運営しているものの、原因解決に努めなければ、運営に限界が来てしまうだろう。


「だから俺、冒険者になってダンジョン攻略しまくって、秘宝を売りまくってお金持ちになる。そしたら、客が来なくても宿は潰れないし、姉ちゃんも楽できるだろ」

「ああ、自立ってそういう……」

「うん。だから早くギルドとか、冒険者とか。役職を活かして稼げる仕事に就きたい。がっぽがっぽ稼いで、今まで育ててくれた分、うんと姉ちゃんに楽させてあげるつもり」


 自立、といっても宿の業務や家族が嫌いなわけではなく、大好きだからこそ役に立ちたいのだろう。


「でも、騎士団やギルドに入ろうとすると、姉ちゃんダメだって言うんだ」

「反対されているの?」

「うん。そういう仕事に就けば、魔物と戦う機会があるからダメなんだって。魔物なんかこわくないって言うと、『だからダメなのよ』って反対される」


 戦闘用の役職持ちとは言え、どんなランクの魔物との戦いも、常に死のリスクが伴っている。

 両親を魔物に殺されたココとしては、その心配も一入だろう。便宜上、この街は魔物の討伐で騎士団から大量の殉職者を出しているからなおさらだ。


「俺が戦士の役職を活かして、魔物をぶっ殺せば、皆の生活はもっと楽になるでしょ。それってそんなに悪いことかな」

「それは良いことだと思うよ。一人の力で誰かの役に立つことは……いいことの、はずなんだ」

「……?」


 下を向きながら拳を握るアインスに、バットが首を傾げた。


「僕も同じ気持ちだ。カルミナさんの役に立ちたくて、仲間になった。……のはいいんだけど」


 今回、自分の【探知眼】の力や知識を使って、この街を取り巻く状況について突き止めたが、そのほとんどはカルミナが導線を張ってあったものだった。

 おそらく自分の【探知眼】なんか使わなくても、カルミナはこの結論にたどり着き、独自にダンジョン攻略を進めていたのだろう。


 自分がいたのは偶々だ。


 まだ自分はカルミナの下で何も成しちゃいない。

 カルミナから貰ったきっかけに甘えているだけ。


「……斥候(スカウト)の兄ちゃん? 震えてるけどどうしたの?」

「……武者震いだよ。頑張らなきゃなって思っただけ」


 なんて強がって笑ったが、本当はダンジョン内で見捨てられた時のことを思い出しただけだ。

 他の斥候(スカウト)と比べて使えない、戦えないことを理由にダンジョン内に置いていかれた時の事を。


 証明しなきゃ。カルミナさんに、僕は役に立てるって。


 震えを抑えるように固くこぶしを握り締めるアインスの様子を、バットは不思議そうに眺めたが、「変なの」と言って、話題を切り上げた。

 自分より年下の子どもに気を遣わせてしまって情けない。


「お互い、目指せ脱ヒモってやつだね」

「……情けない同盟だなあ」


 おどけて拳を突き出してくるバットに、アインスは苦笑しながら拳を突き合わせた。


 今回の攻略で証明しなきゃ。自分の斥候(スカウト)としての存在価値を。


 バットが去った後、アインスは頭を切り替えて、様々な資料とにらめっこをしながら、ダンジョンの攻略計画を練っていくのだった。


読んでくださりありがとうございます!


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話が面白くなるように頑張ってまいりますので、どうぞよろしくお願い致します<(_ _)>

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