SSランク冒険者 カルミナ
アインスを追放したギルド【強者の円卓】。
アインスの去り際の姿を笑い話にしながら、冒険者たちが昼間から酒を煽っている。
「でも良かったのかしら? あの雑用坊や追い出しちゃって」
屈強な男の丸太のような二の腕に抱き着きながら、色目遣いに受付嬢が訊ねる。
口先だけの心配ではあるが、懸念を示す受付嬢に「大丈夫だろ」と男は返した。
「低ランクの斥候なんていてもいなくても変わんねえよ。実際ほとんど雑用みたいなもんだっただろ」
「それよっかギルドランク昇進のかかった今、ダンジョンで死人を出した冒険者に居座られる方が厄介だ。上にばれる前にさっさと報告書改ざんしてもらわねえと」
「それもそうね」
気を取り直して、酒を手に下品な笑い声をあげてバカ騒ぎを再開する。
そんな騒々しいギルドのロビーの扉が、勢いよく蹴破られた。
「なんだなんだ。この昼間っから酒に溺れる馬鹿共は。この私が来ると知っておきながら、迎えの一人さえ寄越しはしないのか?」
突然現れた何者かに馬鹿呼ばわりされ、酒を飲んでいた冒険者たちが、一様にドアの方を睨む。
「なんだてめ——⁈」
と、1人の冒険者が突っかかろうとした矢先、ドアを蹴破った女冒険者が余裕の笑みと共に、煽るように首元の金水晶を見せびらかすと、その場にいた全員が怒りを引っ込めて言葉を失ってしまう。
「いい女を見るのは初めてか? 興奮するのは分かるが、初対面の言葉を間違えるなよ?」
現在、冒険者ギルド連盟に登録している冒険者の中で最高ランク――世界で5人しか存在しないSSランクの称号を持った最強格の冒険者。
その5指の内の一人、【緋色の閃光】カルミナ。
【強者の円卓】に在籍する冒険者全員が束になっても敵わないであろう存在に、その場にいた全員が委縮した。
そんな冒険者たちに目もくれず、妖艶な笑みを浮かべたまま、緋色の髪の冒険者、カルミナは受付に向かって歩みを進めていく。
「見ての通りスペシャルな来賓だ。そんなところで固まってないで応接室へ案内し、飲み物でも用意するのが礼儀じゃあないか。受付嬢」
「は、はい! すぐに用意を――」
「い・ら・ん。こんな汚い辺境のギルドで用意される茶の味など、たかが知れている。手短に済ませよう。ギルドリーダーをこの場に寄越せ。先月受注したBランクダンジョンの件だ。連盟から調査依頼が上がっている」
カバンから取り出した一枚の羊皮紙には、世界全ての冒険者ギルドを管理している組織、冒険者ギルド連盟から発行されたものだと示す、多頭竜の印鑑が押されていた。
全ての冒険者ギルドの大本の組織である【連盟】。その連盟が派遣した、世界最強クラスの冒険者カルミナ。
そんな2つの強大な権威を振りかざされては成す術もない。
受付嬢は怒られることを承知で、リーダー室で上機嫌に酒を飲むリードを、無理やりカルミナの元へ連れてくるのであった。