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今は幸せな夢を

 10件あった討伐依頼を、カルミナたちは3日で済ませた。

 普通は1日1件こなせればいい方なので、かなりのハイペースで依頼をこなしたことになる。

 この城塞都市ではギルドはなく、代わりに依頼は役所が管理しているので、報酬の受け取りは役所で行った。予定よりだいぶ早い依頼攻略に、受付嬢もご満悦だった。


 そしてその日の夜、アインスたちは宿へ帰り、大量の料理を注文して食卓に着いた。


「皆、まずは3日間の依頼攻略、ご苦労だった」


 カルミナの合図で木製のジョッキが重なる音が響いた。慰労会も兼ねての食事会は、宿のロビー横にある朝食会場で行われることとなった。


「ごめんなさい、無理行って(言って)夕食までつけてもらって」

「いいえ。お代は頂いてますし、他のお客さんもいませんから」


 アインスの謝罪に、宿のオーナーであるココは笑顔のまま首を振った。

 ここ3日頬滞在しているが、カルミナたち以外でこの宿を利用している客は、新規を含めて現れていない。


「むしろ、収入源が増えてラッキーって感じです」

「別に悪い宿じゃないんだけどね。値段を考えればもっと賑わっていてもおかしくないのに」


 ミネアがなんとなしに呟いた言葉に、カルミナも同意するように頷いた。

 立地は街の主要施設から少し遠めの位置にあるが、離れすぎてはいない。部屋の設備は簡素ではあるものの、旅の商人が一晩泊まるには不便はない。

 建物は古いが清掃は行き届いていて、利用するにあたって不快感はない。シャワーがあり、朝食も予約すれば用意してもらえるなど、同価格帯の周辺の宿と比べると設備もサービスもワンランク上だ。


「都市周辺に魔物が増えてから、行商人の数がめっきり減っちゃって……。昔はいろんな都市から商人たちが来て、うちもにぎわっていたんですけど」

「ココさん、魔物が現れ始めたのって、3か月くらい前からですか?」

「ええ。確かそれくらい」

「ありがとうございます」


 アインスが小さく頭を下げると、ココは「いえいえ」と、手を振った。


「むしろ感謝するのは私の方です。皆さんが魔物を狩ってくださったおかげで、また商人たちがこの街に来るようになりますから。上がった物価も戻るでしょうし、街の人たちも感謝していると思います」

「いえいえ~私たちも儲かりましたから。報酬金はしょぼかったけど、魔物の素材がわんさかわんさか! お互い得して値二千金ってね~」


 食事をしながらも素材の沢山入ったマジックバッグに、恍惚とした表情で頬をすり合わせるミネア。


 そんな様子のミネアに、厨房の奥からアインスと同じくらいの背丈の少年が、料理を運びながらやってきた。


「いいなあお姉さんたち。冒険者って儲かるんでしょ?」

「こらバット! そんな失礼な言い方しないの!」


 まるで楽して稼げる役職みたいな物言いをココが窘めるが、ミネアは「いいのいいの。実際に儲かるし」と、右手で金を作って見せた。

 そんなミネアの後頭部をカルミナが殴って諫める。実際は命がけで魔物の討伐やダンジョンの攻略に挑むことも多いので、勘違いされては困るのだろう。


「俺も【戦士】の役職持ってるんだ。ねえ、俺冒険者だったらどれぐらい強い? Aランクくらいいける?」

「もうやめなさい! すいません弟が失礼な真似を……!」


 カルミナたちに絡むバットを、ココが無理やり引きはがして頭を下げる。

 無理やり裏へ引っ込められたバットは少し不満げだった。


「気にするな。元気があって良い弟じゃあないか」

「残りのお料理もすぐにお出ししますね。今日はお腹いっぱい食べていってください」


 その後は、次々と流れてくる料理をお腹いっぱいになるまで食べた。

 料理はココが行って、配膳は弟のバットが行う。


 この宿には2人以外のスタッフの姿は見当たらない。それでも上手くやりくりしているのは、ココの手腕の良さによるものだろう。

 それだけに早く客足が回復して、経営が回復してくれればいいのだが――


「ミネアさん、さっき値二千金って言ってましたよね? 報酬金はしょぼかったのに」

「魔物の素材ががっぽがっぽだもの。他の街で売りさばけば結構な額になるわ~」

「……つまり、この街では買取してもらえなかったってことですよね」

「ええ。今すぐ全ての素材を換金できるだけのゴールドがないんだって。一部だけ換金してもらって、残りは後日か、他の街で換金して欲しいって言ってたわ。つまりそれ位大金ってことでしょ~?」


 依頼の緊張から解放され、最早金のことしか頭にないミネアは、だらしなく頬を緩ませながらエールを飲んだ。


「……意見は纏まったか? 少年」

「……はい」


 アインスの質問の内容に、何か確信を掴んだと判断したカルミナが訊ねる。

 カルミナの問いに、アインスは少しだけ考え込んでから、力強く頷いた。


「……明日、誰にも聞かれないところで話がしたいです。値二千金どころか最悪大損の可能性があります」

「いいだろう。この馬鹿にも今日まではいい夢を見させてやるとするか」


 ただ一人真実に気が付いていない、幸せそうに酔っぱらうミネアを横目で見ながら、アインスとカルミナは食事の続きを始めるのであった。



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