美味しい依頼……?
翌日、アインスたちは城塞都市【インシオン】の周辺に生息する、魔物の討伐依頼に赴くことになった。
魔物は危険な生物だが、その地域の生態系を構成する1生物でもあるため、魔物だからといって何にでも討伐依頼がでるわけではない。
突発的な大量発生で周辺環境に影響を及ぼす場合や、商人が利用する馬車道の付近などに危険な魔物が現れた時に、国や都市が発行する依頼。利用価値がある魔物の素材を集めるために商人が出す依頼など、どんな依頼にも理由がある。
今回アインスたちが受注したのは城塞都市インシオンが発行したものだ。都市周辺に魔物が発生し、住民や都市を行き交う行商人たちに被害が及ぶ可能性があるため、発行された依頼。
アインスたちは、都市から少し離れたところにあるため池に蔓延るカエル型の魔物――【ポイズントード】の群れの討伐にあたった。
「ミネア、頼む」
「ハイハイ。お任せあれっと」
ポイズントードは全長1m程の魔物で、体を守る粘膜に毒性がある。
粘膜はローションのようによく滑り、普通に剣や斧で攻撃しても、ダメージを与えにくいのだが、
「【抽出】」
ミネアが、水晶が先に付いた杖をかざすと、ポイズントードの粘膜がみるみるうちに剥がされ、ミネアの杖先でボールのように纏められる。
「よくやった」
粘膜の剥がれたポイズントードたちを、カルミナが目にもとまらぬ速さで、急所を一突きにして仕留めていく。
1分も経たないうちに、50体ほど存在していたポイズントードの群れは全滅してしまった。
「うっほほ~。粘膜は痺れ薬の材料になるし、皮は毒物を通さないから、毒物耐性のある装備の材料になるのよね~。もうけもうけ~」
目を金にしながら粘膜を瓶詰めした後、ミネアが慣れた手つきで解体を始める。アインスも前のギルドで雑用を任されていたから、魔物の解体はお手の物だ。
アインスの解体の手つきを見て、「やるじゃない」とミネアが感心した声を上げた。
「でも討伐依頼で手に入れた魔物の素材は、基本的には依頼主に還元しなきゃいけないんじゃ?」
「今回の依頼には『魔物の素材は自由にして良し』って注釈があったのよ。美味しい依頼でしょ?」
素材に利用価値がある魔物は、基本的には依頼主に手に入れた素材を還元しなければならない場合がほとんどだ。その分報酬の金は多くなるが、素材を傷つけずに魔物を狩らなければならないなど、普通の討伐に比べて制約も多い。
逆に金のない依頼主が、素材の扱いを自由にし、低報酬で依頼を出すケースもある。
今回受注した依頼は、素材の扱いに制約がなかった。
倒せれば何でもいいということなのだろう。その場合は素材を無視して魔物を殺すか、素材あまり傷つけないように魔物を倒すのかは冒険者の自由だ。
魔物の素材は武具や防具の加工に重宝されることが多く価値が高い。解体の術を自ら持っている者からすれば、基本的にはおいしい依頼の形式だ。ミネアがウハウハなのはそのためだ。
「……美味しい依頼か。確かにそうだな」
「……」
何やら意味深なカルミナの言葉も意に介さず、ミネアはうっとりとした表情で涎を垂らしながら、解体を進める。
素材の山を目に興奮気味のミネアと違い、アインスはどこか浮かない表情だ。
「少年はどう思う? あの街の状況を」
「……今は何とも。確証を得た時に話します」
アインスの返事に、カルミナは満足そうに頷いた。
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その後は、今日狩った魔物の素材をマジックバッグに纏めて、換金所へもっていった。
「……」
ミネアが涎を垂らして素材を換金している中、アインスは隅の方で探知眼を発動し、何かを探っている。
そして何かを確信したかのように小さく頷いて、探知眼を解除した。
この都市には何かある。
そう感じたアインスはカルミナを横目で見やると、視線を感じたカルミナが片目を瞑る。
どうやらカルミナも何か思うところがあるらしい。
「さあて! 帰って祝勝会と行きますかぁ!」
換金されたゴールド袋を手に、ミネアが軽い足取りで辿る宿への道のりを、アインスたちは少し遅れて歩くのだった。




