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とびっきりの宿

 カルミナのギルドとして、初の依頼攻略。

 高まっていくアインスのテンションに冷や水をぶっかけたのは、ミネアが用意したという宿だ。


「ここが当面の間、私たちの根城よ」

「「……」」


 カルミナは宿に向かう途中、「私が泊まる宿だ、スペシャルな宿なんだろうな?」とミネアに聞いていた。そんなカルミナの問いに「もちろん。とびっきりの宿を用意しといたわ」と自信満々な表情だった。


 【強者の円卓(ゴライアスサークル)】にいたときは、床の硬い粗悪なベッドで就寝していたアインスも、カルミナの御眼鏡にかなう宿ということで、想像出来得る限りの豪華な宿を期待していた。


 だが案内されたのは、都市の中心から離れた狭い路地にある、いかにもな格安宿であった。外装は清掃こそはされているものの、悪い意味で年季を感じさせるような木製の造り。上手く隠してはいるものの、補修がしきれずに隙間風を通している箇所がある。

 周囲の建物も空き家になっているものが多く、行き交う人の少ない、商業都市とはかけ離れたゴーストタウンじみた雰囲気が漂っている。

 表ではすぐ隣のカルミナの声を聴き分けるのも苦労するほど、人の声でにぎわっていたが、ここは路地をそよ風が通り抜ける音がくっきりと聞こえるほどの閑散っぷりだ。


「おいミネア」

「何~?」


 笑みを保ちながらも、ほんの少しだけ怒りで声を震わせながら、カルミナが訊ねる。


「……私はお前に、とびっきりの宿を用意しろと頼んだよな?」

「ええ。ここが底値」

「誰もとびっきりの安値という意味で言ってないんだが⁈」

「あらやだ、コミュニケーションエラーってやつ~? ま、住めば都って言うし、ガタガタぬかしなさんな。それとも何? いい女は人様が確保してやった宿に文句つけんの?」


 良い御身分ね~と、煽るミネアを、カルミナは口を噤んだまま睨みつけていた。

 カルミナもカルミナで相当我が強いはずなのだが、それを手玉に取るミネアも大した度胸である。


「チェックインはすませてあるから、各自、荷物を置いてきなさい」


 ミネアは部屋番号が記された、木製の札が付いたカギを放ると、親指で宿の入り口を示した。

 ミネアに促されるまま宿のドアを開ける。

 蝶番(ちょうつがい)の緩んだドアを開けると、受付と思われる場所から、宿の管理者と思われる女性が頭を下げてきた。


「いらっしゃいませ。ミネア様のお連れ様方ですね」


 綺麗な笑顔で頭を下げるのは、栗色の髪の、気の優しそうな女性だ。


「オーナーのココと申します。お荷物、部屋までお運びしますね」

「ああ、ありがとう」


 年季の入った建物に対し、オーナーと名乗ったココという女性はかなり若い。

 何か事情があるのかな。アインスは勘繰りながらも、自分の荷物をココに預けた。


「ここがお客様のお部屋です」


 案内された部屋は、窓が一つで、ベッドと簡単な机が置いてあるだけの簡素な造りだ。机の上にはランプが置いてあり、ロビーで油を買えば、使用できるらしい。トイレとシャワーは共用のものだ。

 ココの気持ちの良い接客に、ほんの少しだけ機嫌を良くしていたカルミナの表情が再び固まった。


 荷物を置いてココが丁寧なお辞儀をしてから場を後にすると、カルミナは恐る恐るベッドの上に敷かれていた、マットの感触を確かめる。


「……少年。私は買い物に行ってくる」


 どうやらお気に召さなかったらしい。

 マジックバッグがあるので持ち運びに困ることはないが、それなりに寝床にこだわりはあるようだ。

 これぐらい普通だけどなあ、とマットを擦りながら、アインスは宿を出るカルミナを見送った。


 結局、ギルドの活動についての会合は、カルミナが帰ってきてからになった。


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