僕たちの在り方
「あなたは、僕の……お父さん、ですか……?」
アインスの問いに、スケイルは不自然に見えない程度に、顔を逸らして表情を隠した。
答えるだけなら、肯定することも、否定することも簡単な単純な問い。
だというのに、スケイルは深く息を吸ったまま、何も言わずに顔を隠したままだった。
風が吹き、草木が重なる音が鮮明に聞こえるほど、静かな時間が続いた。
これだけ返答に間が開くということは、
そういうことで、いいのかな。
アインスが沈黙に耐え切れず、再び問いを重ねようとした時だった。
「——他人だよ」
スケイルがアインスの方に顔を向け、いつも通りに、不遜な笑みを作ってみせる。
「僕と君は……他人だ。…………そうだろ?」
ああ。そういう人なんだな。
悔しそうに細まった目じり。
笑い切れずに歪んだ口の端。
溢れ出る感情を抑えきれずに震えた声。
何より、振り向く直前に一蹴だけ見せた、酷く悲しそうな横顔が印象的で、
母の言う通りの人間だと思った。
真っすぐだけど歪んでいて。
自分自身の心に嘘をついて生きるのが嫌いで苦手で。
そのくせ人を怒らせたり、おちょくることが大好きで。
だけど自分が救った誰かが、自分に救えない誰かを救ってくれると信じている。
あくまで『公平』に、多くを救おうとする『悪い』人間。
それを貫くからこそ、いつまで経っても愛おしいと言っていたのだろう。
「……そう、ですね」
母が眠る墓石を、2人揃って見つめ直した。
薄くかかっていた雲が晴れて、顔を出した太陽が暖かく墓石を照らす。
「君の欲しい答えは聞けたかな」
「いいえ」
「その割には満足そうだね」
「はい。……スケイルさん」
「なんだい」
顔を合わせないまま、墓石を見つめて、アインスは母の顔を思い浮かべて笑う。
きっと——
「今後ともよろしくお願いします。——冒険者として」
「こちらこそよろしく頼むよ。——冒険者としてね」
これが一番いい、僕たちの在り方なのだと。
それから、墓石の前で、色んなことを語り合った。
アインスの今までの人生。
潜ったダンジョンや、討伐してきた魔物。
アインスの話を、スケイルも茶々を入れながら楽しそうに聞いた。
スケイルからもアインスにいろんな話を振った。
歩んできた人生については、全てを語ってはくれなかった。
その分冒険者としての話を沢山してくれて、アインスもそれを楽しそうに聞いた。
そういえばシャノンが良い顔になってたよ。
スケイルがそう知らせると、「ざまあないです」とアインスが笑い、「君も悪い人間だね」とスケイルも喉を鳴らした。
2人で気が済むまで語りつくした頃には、既に夕方になっていた。
「そういえば、来週のパレードで君の【二つ名】を発表しようと思っているんだ」
「僕の……二つ名、ですか?」
首を傾げたアインスに、スケイルが「ほら、あれだよ」と人差し指を立てる。
「カルミナの【緋色の閃光】とか、ナスタの【理の操者】とかそういうやつ」
「ああなるほど。……って、僕も?!」
「当たり前だろう。わざわざ二つ名をつけて特別感を演出する。SSランク冒険者になったからにゃあ、つけてやらんとね」
「発表ってことは、もう決まっているんです?」
「ああ。発表の時まで楽しみにしておいてくれよ」
「……変なのつけないでくださいね」
「どうだろう。そこは僕のセンス次第かな」
アインスが不安そうに見つめると、スケイルも面白がって、人の悪い笑みを浮かべた。
「じゃあ、帰るとしようか」
「はい」
話すことを話した二人は、満足そうな顔で墓石に目をやってから、二人並んでその場を後にした。
大きさの違う二人の冒険者の歩調が自然と重なって、誰かが微笑むように優しい風が吹き抜けた。
次回、最終話。
午後12時〜13時の間で投稿予定です。
どうぞよろしくお願いします。




