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浪漫とは

新章スタートです!

 カルミナと出会ってから2週間ほどが経過した頃,アインスは乗合馬車に揺られながら、とある街を目指していた。

 【強者の円卓(ゴライアスサークル)】のあった国の、国境を越えた先に存在しているその街に、カルミナの仲間が滞在しているらしい。


 その仲間と合流するために、街へ向かっているのだが――


「どうした少年。今頃になってホームシックとか言うんじゃあないだろうな?」

「あ、いや……そういうわけでは」


 時折故郷の方を見やって、遠い眼をするアインスにカルミナが訊ねる。

 アインスは首を振りながらも、どこか歯切れの悪い返事だ。


「先日の【強者の円卓(ゴライアスサークル)】解体の件についてだろう。聞けば、Sランクダンジョンを無理に攻略しようとして死人を出し、ダンジョンブレイクを起こしたらしいな。昇進に目が眩んだ者の因果応報だ。気にすることはない」

「いや、気にするというよりは……」


 カルミナ越しにアインスはその事件を知ってから、【強者の円卓(ゴライアスサークル)】があった街の方を眺めることが増えた。

 この事件に関して同情はしないし、ギルドへ戻る気など微塵も起きないのだが、


「僕にとっては、あのギルドがきっかけだったから」

「きっかけ?」

「はい。きっかけです」


 いくら不当な扱いを受けていたとは言っても、あのギルドのリーダー、リードが自分を拾ってくれていなかったら、飢えて死んでいたのは事実だ。

 結局は適当な労働力欲しさに誘われ、低賃金で使い果たされた結果に終わった。それでもその縁があって、カルミナという冒険者に出会えたのも事実。

 どんな便利なスキルを持っていても、自分は今も昔も誰かに拾われているだけだ。自分自身の将来を、自分で描くことができていない。


 誰かからもらった『きっかけ』に甘えているだけ。


 そう心の内を語ると、カルミナは少しだけ微笑んでアインスの前で手を組んだ。


「誰かから貰ったきっかけかもしれないが、きっかけを機に変われるのは、受け取った本人の力によるものだ。貰うこと自体は悪いことじゃない」

「……でも、貰ってばかりだと人に流されてばかりの人間になりません?」

「誰かについていくことと、人に流されることは意味が異なるぞ少年。流されているように感じるのは、君の中に浪漫が無いからだ。浪漫があれば(ソロ)であろうが、組織(パーティー)であろうが、そんな不安に駆られることはないだろう」

「浪漫……ですか」


 カルミナの言う浪漫とは、夢とか目標とかってことなのだろうか。

 夢や目標を持つことが、自分を見つけることなのか。


 確かに生きていくのに精いっぱいだった頃は、現状維持や待遇改善に努めるのが精いっぱいで、自分自身がどうなりたいかなんて考えたことがなかった。

 僕が浪漫——自分を【強者の円卓(ゴライアスサークル)】で見つけていたのなら、リード達は指名手配になることはなく、ギルドも崩壊することはなかったのかな?


 組織の一員として、パーティーの死に自分の責任もあるという、カルミナの言葉を思い出す。


 カルミナの言葉が正しいのなら、自分が自分を持たないことは、カルミナのパーティーにとって不安の種になるかもしれない。


「……あの、カルミナさんの浪漫ってなんですか?」


 アインスの問いに、「踏み込んだ質問だな」とカルミナは目を丸くした。

 ああしまった。こういう質問はまだ早かったのかな。

 一緒に旅をする以上、カルミナの夢や目標について知っておきたいと思っただけなのだが、どうやら気が進んで話すようなことでもないらしい。


 しどろもどろになるアインスに、カルミナは自身気な笑みを浮かべて、少しだけ間をおいてから答えた。


「見たこともない景色やもの、体験を通して、更にいい女になることだ」

「……自己研鑽ってことですか?」

「そうとも。冒険やパーティーでの活動を通してさらに成長し、自他共、世界中の誰もが認めるような、スペシャルにいい女になること。それが私の浪漫だ」


 その回答を聞いて、アインスは意外そうにきょとんとした顔になった。


 出会った時から自分自身をいい女、と称していたカルミナに、自己研鑽や他人の目から見た自分の姿というものがあったのか、とアインスは驚いた。

 常に自身に満ちた笑みを剥がさないカルミナの目が、少しだけ物憂げな色を帯びているのを見て、アインスはそれ以上尋ねるのを止めた。


 きっとここが、今の自分が踏み込んでいい限界だ。


「少年、もうすぐ目的地だ」


 カルミナの示した方へ顔を向けると、馬車道の先に大きな塀に囲まれた、巨大な都市【インシオン】が見えた。

 大きな門で仕切られた都市の入り口で、入国の手続きを済ませると、カルミナの仲間が滞在しているであろう場所へ向かうのだった。



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