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ブラックギルド・完全崩壊

 

「そこまでだ。……試験は終了だ。撤退しろ」

「はあ⁈ ……まだだ! まだ2階層しか突破していない!」


 アインスを追放してから数日後。

 リードが率いる【強者の円卓(ゴライアスサークル)】は、ギルドランクの昇進試験の為、とあるダンジョンの攻略に挑んでいた。連盟が派遣した試験官の管轄の下、ダンジョンの最下層に達することができればギルドランクを昇級させることができる。


 事前の情報では危険度はB。全部で17階層。環境は森林。ただし、【変異ダンジョン】の可能性有。

 ギルドがAランクに昇格したときに【変異ダンジョン】についての知識は、連盟から渡された機密文書で把握していたものの、勉学が嫌いなリードはまともに目を通しておらず、【変異ダンジョン】をアインスでも生き延びてこれるような温いダンジョンだと思っていたため、碌な対策をしてこなかった。


 食料や予備の武器、ポーションや野営設備などの備品は最小限にしか持ってきていない。今回同行させたAランクの斥候(スカウト)曰く、森林のフィールドなら、食料は現地で調達すれば良いと言われたせいもある。


 だが、実際には17層あるダンジョンの3階層に達した頃には、リードを含めた5名のSランク冒険者と、1名のAランク斥候(スカウト)のパーティーの装備はボロボロになり、食料や予備の備品、ポーションなどの持ち物は底を尽きかけていた。


「もう皆満身創痍の上に、武器や食料も底を尽きかけているだろう。今回の攻略計画を主導した者は誰だ?」


 リード達のパーティーに同行していた試験官が訊ねると、一同は一斉に、Aランクの斥候(スカウト)に視線を投げた。


「君は本当にAランクの斥候(スカウト)か? 事前の魔物の予想や備品の用意はお粗末だし、魔物の位置を探るのには長けているが、周囲の環境から想定される魔物の種類の判別ができていない。君の判断ミスで何度もパーティーを殺しかけている」


 試験官からの厳しい言葉と、パーティーメンバーに冷ややかな視線を浴びせられ、斥候(スカウト)の男は黙り込んでしまう。


「……活動歴を見たところ、過去のランク昇級試験の際、斥候(スカウト)として攻略計画を立てたようだが、本当にこれは君の力によるものだったのかな?」


 この【強者の円卓(ゴライアスサークル)】のAランク斥候(スカウト)は、ダンジョンの攻略準備のほとんどをアインスに押し付け、その手柄を自分のものと偽って報告していた。

 斥候(スカウト)に求められる役割は、ダンジョン内の魔物や罠の位置の把握もそうだが、ダンジョンの構造から魔物の種類を予想し、それに応じた荷物の準備や、攻略計画の作成も重大な役割だ。

 そんな事前準備のほとんどをアインスに押し付けていた斥候(スカウト)に、【変異ダンジョン】を攻略できるような、攻略計画を立てる力はない。


(……そういや、前にアインスが、仕事を横取りされるって言ってたな)


 リードは以前アインスに、この斥候(スカウト)が自分に仕事を無償で押し付けてくると、抗議をしに来たことを思い出す。

 そのときは仕事の遅いアインスの戯言として聞き入れなかったが、実際にアインスはこの斥候(スカウト)の代わりに、Aランクダンジョンの攻略準備を代行していたわけだ。

 それを今問い詰めれば、そのことを知りながらもアインスを斥候(スカウト)として冷遇した管理責任を問われてしまうため、言葉には出さずリードは舌打ちを打った。


 誰が代行していたかは知らないが、この斥候(スカウト)にランク相当の実力はない。

 そして、その斥候(スカウト)が立てた穴だらけの育成計画を疑いもしない、このパーティーも大概である。

 試験官がそう判断した故の、試験の切り上げだ。


「これは命令だ。直ちにダンジョン攻略を切り上げ、外へ帰還をするように」

「……わかった」


 連盟から派遣された試験官も、腕利きのSランク冒険者。

 同ランクの冒険者の言うことに頷くのは癪に障るが、試験官の後ろには連盟の巨大な権力がある。逆らえばギルドの存続すら危うい。


「今回は撤退する。で、再試験ができるようになるのはいつ頃だ?」


 ならば今回は攻略を諦め、準備を整えて再試験に挑むのが賢明だ。

 そう判断したリードの問いに、試験官は小さく首を振る。


「以前の試験に代行疑惑が出てきた以上、君たちに再試験を受けさせるわけにはいかない。……それどころか、調査の結果によっては、ギルドランクの降格処分すら有り得る」

「はあ⁈ なんだって⁈ 俺はSランク冒険者だぞ⁈」

「冒険者ランクとギルドランクは扱いが違う。それぐらいギルドリーダーの君ならわかっているだろう?」


 冒険者ランクとギルドランク。それぞれE~Sランクとランク分けされているが、そのランクで得られる権利は、大きく異なる。(例外として一部冒険者にはSSランクの称号が与えられる)。


 基本的に、冒険者ランクは、その冒険者の強さの大まかな指標だ。Sランクの魔物を一人で余裕をもって倒せるようになり、討伐の証を連盟に提出すれば、基本的にはその冒険者はSランク冒険者を名乗ることができる。

 高ランクの魔物を討伐する際、依頼の優先権を得ることができるし、高ランクダンジョンの攻略に参加することができる。


 冒険者ランクが個の強さを表す指標ならば、ギルドランクは、組織としての強さを表す指標。ただ、そのランクも強い冒険者を集めれば上がっていくというわけじゃない。


 冒険者の質もそうではあるのだが、連盟がギルドに求める力は、【ダンジョン】をクリアするだけの力があるかどうか。


 万が一でも死人を出せないダンジョンは、個人での攻略は禁止されている。そのため、どんなダンジョンも、パーティーでの攻略が義務づけられていた。

 中の環境も、生息する魔物も多種多様。高ランクダンジョンでは環境の変異すらもあり得る為、様々な魔物や、サバイバルに関しての知識、それを可能にするための危険察知能力や、危機を打開するスキルなど、どんな環境でも生きていける力がギルドには求められる。


 ギルドランクは、どれぐらいのレベルのダンジョンをクリアするノウハウが、そのギルドに備わっているか図るための指標だ。Sランクダンジョンをクリアできる力があって、はじめてSランクギルドを名乗ることができ、Sランクダンジョンの攻略依頼を受けることができるようになるのだ。


 Aランクまでのダンジョンの攻略計画は、ほとんどアインスが作成していた。アインスの立てた攻略計画に沿って、腕っぷしだけは強い冒険者たちによるごり押しでダンジョン攻略をしていた【強者の円卓(ゴライアスサークル)】は、そんなことにも気が付いていなかった。


「再試験ができねえなら、尚更のこのこ帰るわけにはいかなくなったじゃねえか‼」

「……君?! 何を考えている!止まりなさい! ……ガッ⁈」


 高ランクダンジョンの攻略ができなければ、ダンジョン最奥部にある秘宝を手に入れることができず、ギルドの経営が大きく傾いてしまう。

 己の命よりも、ギルドの肩書や金目に目がくらんだリードは、制止する試験官の腹を殴って気絶させると、撤退ムードのメンバーたちを引きつれ、ダンジョンの最奥部へと向かっていった。


 そして、これが【強者の円卓(ゴライアスサークル)】の最期の瞬間だった。


 数日後、暴走したダンジョンが起こした災害のニュースと共に、Sランク冒険者試験官の訃報および【強者の円卓(ゴライアスサークル)】のパーティーメンバー5名の死亡報告。

 そしてそのリーダーであり、唯一死亡が確認できなかったリードの指名手配の報告が、世界各地のギルド関係者に知れ渡ることとなった。


読んでくださりありがとうございます!

ざまぁとは少し異なるとは思いますが、違ったテイストの追放ものが書けたらと思って書き始めました。

全5章で中編小説を予定しております。楽しんで頂けますと幸いです。


もし面白かったら、執筆のモチベーションになるためブックマーク登録や、下の☆から評価をお願いいたします<(_ _)>


話が面白くなるように頑張ってまいりますので、どうぞよろしくお願い致します<(_ _)>

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