変わろうと
三題噺もどき―にひゃくにじゅうご。
お気に入りのメロディーが、起床時間を告げる。
頭上辺りに置いた携帯を手元に引きずり出し、音楽を止める。
少しでも気持ちよく起きようと思って、お気に入りの音楽をながしているが……寝起きにはうるさくてかなわないな…。
「……」
とは言え、他のメロディーに変えるのも面倒でそのままなのだが。
この曲にしてから何年たったか…。普通にそろそろ変えたいところではあるが、面倒なので覚醒したら忘れる。
「……」
さて、今日は予定があるから、さっさと起きなくてはいけない。
たいした予定ではないのだが、休むわけにもいかないのだ。
……めんどくさくなってきた。
「……」
本格的に飽き始める前に起きて動くことにしよう。
ヒヤリと冷える部屋の中。
ベッドは苦手なので、敷布団派だ。
「……」
掛け布団を、何とか体の上から剥ぎ取り、身体を起こす。
一気に体が冷えていくのを感じ、早々に布団をかぶりなおしたくなったが、そういうわけにもいかない。もう既に時間は押し始めている。
「……」
なんとか立ち上がり、脇に置いていた小さな机の上に置いていたリモコンを手に取る。
電源をつけると、アナウンサーが今日の天気を伝えていた。
―今日は快晴らしい。暖かな1日、ね。風がある以上寒そうだが。
「……」
さて、何を着たものか…。
適当でいいか。
考えることが面倒になったので、クローゼットから適当に見繕い、布団の上に放り投げる。
小さなワンルームだから、こう、手の届く範囲ですべてが完結できるのは楽でいい。
「……」
とりあえず、なにか腹に入れようかとキッチンに向かいつつ。
その前に洗面台に向かう。
未だ覚醒しきった感じがないので、顔でも洗って目を覚ますとしよう。ついでに、軽く歯磨きをしておいて。
「……」
鏡の前に立つと、見たくもない顔が映る。
今日も生気がなくて元気そうで何よりだ。
顔を水で叩き、完全に思考が復活する。ぼうとしていた頭は、何とか起きたようだ。
「……」
さて。
何か食べようと思っていたが、たいして腹も減っていないなぁ。
どうせ、外に出るのだし、最悪その時に何か買ってもいいだろう。それぐらいの猶予はくれるだろ。
「……」
それに、時間が案外無くなってきた。
思っていたより布団から体を起こすのに時間かかったなこれは。多分体感5分ぐらいのつもりだったが、10分ぐらいぼうっとしてたんだろう。それ以上かもしれないが。
「……」
んん。
ホントに時間ないな。
もう、さっさと着替えて出ることにしよう。幸い、荷物なんかは昨日ある程度作っておいたから…。あとは、携帯と財布を入れて、終わりだ。
「……」
朝からこうも、あわただしくするのは好きではないだが。ま、今回は自業自得ということで。自分が悪うございました。
「……っし」
玄関のカギを開け、扉を押し開く。
その先に。
「……」
―海が広がっている。
「……」
まぁ、今更驚きはしないのだが、この景色には見慣れはしない。
いつだったか。
数か月前か、数日前か、数週間前か。
突然、一夜にして、この町は海に呑まれた。
「……」
吞まれたと言っても、沈んだわけではない。
なぜか、アスファルトの広がるはずの地面が、海になっていたのだ。
海が広がっていた。
これが単純に大きな水たまりとかなら、まだ現実味があったかもしれないが。
これがなんとまあ、海でしかないのだから。
ちゃんと魚が泳いでる。割と色とりどりの。
「……」
そしてこれが不思議なことに、足は沈まないのだ。
歩けば水紋が広がるばかりで。
だから長靴とか履かなくてもいい。
今まで通りに、服を着て、靴を履いて。
海の上を歩けばいい。
いつも通りの生活の中で。海がより身近になっただけだ。
「……っと」
さぁいざと、歩き出した矢先。
足元のあたりを、イルカが通り過ぎる。
親子だろうか。大き目のイルカと、それにすりついているような小さめのイルカ。
悠々とこちらの事など気にせずに過ぎていく。
「……」
さて、こちらも彼らの事など気にせずに。
さっさと仕事に行くことにしよう。
地面が海になろうとも、今まで通りの生活をするのだ。
お題:驚き・イルカ・海