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1-1 家族が裸族

「お、お兄ちゃん、変態っ!!」


 今この瞬間、全裸の妹から投げつけられた言葉である。


 俺は脳内で状況を整理している。客観的に見ても、「変態」という単語に適しているのは確実に全裸の妹の方だ。なぜなら全裸だからだ。そこは疑う余地もないだろう。

 

 全裸の妹が、服を着ている俺に先の言葉を投げつけている。


 少し遡ろう、一体なぜこのような状況になっているのかを――。




――10分ほど前の話


 課題を進めようと思った俺は、リビングから持ち出した参考書の山の中に、妹の数学の教科書が混ざっているのを見つけた。


 その教科書を返すために、妹の部屋へ向かった。


 途中の廊下で、全裸の妹と鉢合わせた。


 そこで最初の「お、お兄ちゃん、変態っ!!」へと繋がる――。




 俺に非があるだろうか? 例えてみれば、車を運転していた時に向こうから全裸の歩行者が歩いてきたようなものだ。


 前方を確認しなかった俺の過失だと言えばそれまでだが、過失の割合を自動車事故風に言うと相手90%、自分10%と言ったところだろう。完全にもらい事故だ。


 だって自動車学校で「歩行者が全裸である可能性を考えましょう」と習うか? いくら「かもしれない運転」を徹底したって、これは防げない事故だ。


 だが、起こったことはしょうがない。状況の整理はこれくらいにして、俺はこの後の対応を考えることにした。


 自動車事故だって、ぶつかった後に逃げればひき逃げ扱いとなり刑罰は重くなる。ここはできるだけ紳士的な対応をして、俺の罪を減らしたいところである。


 妹は高校1年生、それなりに多感な年頃だ。


 身体の成長に戸惑うこともあるだろう。どうしても自分と他人を比べてしまう時もある。身体の悩みとなればなおさらだ。


 もしくは、妹ほどの年頃となれば……一人で耽ることもあるはずだ。性別は違えど、俺だって同じだ。部屋で一人、コソコソと発散することもある。


 俺はズボンとパンツを最低限だけ下ろす派だが、妹はスッポンポンになる派だった……たったそれだけの話だ。


 だから別に、妹が部屋で全裸になることを責める気はない。その延長線で、全裸で廊下に出ても構わない。


 兄としてできること、それはありのままの妹を受け止めることだ。


 そうして、俺はこう言った。




「うん、いいと思う」




 一瞬の沈黙。


 次に口を開いたのは妹だった。


「じゃあお兄ちゃん、変態ね」




間違えた。


完全にやらかした。


 俺は妹を受け入れる意味合いでそう言った。しかし、「お、お兄ちゃん、変態っ!!」の返事としては明らかに不適切だ。全裸の妹は受け入れるが、濡れ衣までは受け入れるわけにはいかない。


あろうことか、俺は自分が変態であると認めてしまった……。


「え、えっと……まずは、服を着て?」


 誤解を解かなければ。とりあえず落ち着いて話をするために、妹に服を着てもらおう、そう考えた。


 しかし、妹はキョトンとした様子で答えた。


「どうして?」


 どうして? 俺のほうが聞きたい。どうしてそんな質問をするんだ?


 もしかして、俺は試されているのか……?


 俺は妹の「どうして?」の意味を考えた。そもそも、俺はなぜ妹に服を着せたいと思ったのか。


 ①人間は服を着るものだからだ。→どうして?

 ②そう決まっているからだ。→どうして?

 ③少なくとも俺は服を着てほしいと思っている。→どうして?

 ④俺の平常心がががが……


「あ、私……裸族なの」


 俺の脳がクラッシュする寸前、妹の口からとんでもない事実が告げられた。


「聞こえた? 私、裸族だから」


裸族。聞いたことはある。家の中で全裸で過ごす人のことをそう言うらしい。テレビで芸能人が面白おかしく話していた記憶がある。その時は話題作りやキャラ付けだろうと思っていたが……。


妹も、どうやらそれらしい。


何か気の利いたことを言おうにも、とっくに俺の脳はクラッシュしている。


まるで同じ言葉を繰り返すロボットのように、こう答えた。


「……うん、いいと思う」


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