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カントウ士アレ  作者: 金子ふみよ
第一章
11/13

カツヨウのメ・イレイへの対抗策はゴカン

 ゴダンは膝を少し屈伸させ、腕を曲げ、両肘を体に密着させ、気合を入れ始めた。

「いけない! アレ! ゴダンはメ・イレイを使おうとしている! それを使われたら反撃不可避だ!」

 堪えきれずイイが叫んだ。周りのケイ妖士やケイ妖導士たちは息をのみ、絶句してしまった。わなわなと険しい表情がイイの言葉が過言ではない証左だった。

「呼び捨てとは偉くなったものだな、イイ。この件は後でじっくり尋問してやろう。が、イイが口を滑らせてくれたおかげでメ・イレイの威力が想像できるであろう。ケイ妖士もケイ妖導士も使えんカツヨウを、この導士様は使えるのだ」

 もはやその笑みは導士の威厳ではない。悪逆な薄気味悪さだ。ゴダン導士が発動させようとし、ケイ妖士やケイ妖導士が使えないカツヨウのメ・イレイとは、しかもケイ妖士イイが我を忘れて導士ゴダンへの遠慮を忘れて絶叫するほど恐れるメ・イレイとは、いったいどんなカツヨウなのか。カツヨウが使えないダイメイ士アレには見当もつかない。が、アレはどこか凛としていた。それは覚悟であろう。ただし、殉職のではない。むしろ職務完遂のそれである。ヨウゲンの役人たち、導士たち、ケイ妖士たち、ケイ妖導士たちがおびえる中で、アレのどこにいまだ果敢に立ち向かう勇壮さがあるのだろう。

「イイ、本当にメ・イレイはゴダンしか使えないのか?」

 この期に及んで自らを絶命させかねないカツヨウの情報を求める。

「いや、導士は使える。正確に言うなら、私たち今の世代のケイ妖士・ケイ妖導士たちは使えないだけで、クシク様やナリ様、タリ様は使える。いずれもレジェンドなケイ妖士・ケイ妖導士だ」

「そうか」

 誰が使えるか知ったところで対応できるのか、回避できるのかと、友人として身の心配をするはずだが、相当焦燥しているのであろう。ベテラン級の名称を上げるくらいなら、技の効果や内容を教えた方がアレのためであろうに。

「他にも使えるというのなら、独占の力ではないということだ。つまり!」

 アレはポーズをとる。

「辞世の句でも読み終わったか! アレ!」

 いよいよゴダンが腕を動かし始めた。

「いや、これからだ、それは。お前への手向けだ」

「戯言をー! メ・イレイ!」

 カツヨウを施した。猛烈な風、いや実際は風ではない。剣気というかゴダンの戦闘力の息吹というかそういう圧迫感が襲ってきたのである。

「ゴカン!」

 相対するはアレが繰り出したのは未完成のはずだった技である。イイは目撃した。あの時不格好だった魔法陣のような図形が今や煌びやかに、そう、美しいとさえ思うほど整然とした図象が光り、圧倒的な重圧をも塵のようにかき消して行った。ゴカンとして現れた図象がアレの手を離れメ・イレイを無効化させながらゴダンに近づいて行く。ゴダンにはもう余裕も嗜虐さもなく、むしろ見間違えることもないほど劣勢に顔を歪ませていった。

「ダイメイ士が、導士の私を、導士ゴダンを……」

 図象が今度はゴダンを圧倒し始めていた。その威圧は山でも降ってきてそれを受け止めているかのような姿勢にさせている。

「差はないのだ。導士だろうが、ダイメイ士だろうが。私たちはヒン士。タンゴ国の民のために存在している。だから、ゴダン殿あなたは生きて償わなければならない」

 講釈にしか聞こえないだろうアレの言葉にもゴダンは反論一つもできない。ゴカンがゴダンを呑み込んだ。辺りの烈風は雲散霧消した。汗をぬぐう者、安堵の息をする者、うろたえる者、十人十色の反応と、三々五々の事後処理。失神したゴダンを医務室へ運ぶ段取りが叫ばれる。導士に負傷させたにも関わらず、アレを非難する者は誰一人いなかった。そのアレはイイが駆け寄ると、

「すまん、大事になった」

 ひきつった笑みとともに憎まれ口を叩くと、やはり卒倒してしまった。


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