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カントウ士アレ  作者: 金子ふみよ
第一章
10/13

ヒョウゲンギホウを施術する

「タイゲンの分際でヨウゲンのことに口出しをするな!」

 その怒号に喝破されかねない。もはやこうなってしまってはゴダンを拘束するしかないのだ。ただアレの手持ちのカードは多くない。

「ミゼン!」

 ゴダンが腕を振るう。距離をさらにとったはずのアレがみるみるうちにゴダンの方へ引き寄せられていく。カツヨウの一つを使われたのだ。体躯の差はいかんともしがたい。接近戦、肉弾戦は圧倒的に、というよりアレの敗北は必至だ。

「タイゲンドメ!」

 ゴダンのリーチが届く寸前、ヒョウゲンギホウによりカツヨウのミゼンの効果を解除し、後方へ飛躍。再び距離を作った。

「カツヨウも使えんダイメイ士ごときが! ヨウゲンの導士筆頭この私ゴダンにたてついたことその身に知らしめてやる!」

「たとえ! カツヨウが使えなくとも! あなたの暴挙は必ず止める! ダイメイ士の誇りとして!」

 両者一歩も引く気配はない。城内はすでに喧騒。他の導士だけはなく、ケイ妖士もケイ妖導士も集まって来ていた。イイも駆け付けた。唇を噛む。ヨウゲンのケイ妖士である。露骨にアレに加勢してしまえばと仮定する。アレが負けてしまえば、自身だけでなく他のケイ妖士も今以上の冷や飯を食わせられてしまうのは容易に想像できる。かといって知己となったアレをなにがしろにはできない。が、アレに勝てる見込みはないのだ。アレは、カツヨウは使えない。自分にさえ反撃の一振るいさえできなかったのだ。それにしても、ヒョウゲンギホウが使えるらしい。とはいえ、それでアレがどうにかできる相手ではない。せめて、ここに参集したゴダンに含みがある者たちが勇気を奮えば、束になってかかればあるいはとの可能性が上がる。ところが、見よ。動かずにただただ静観している同胞たちの姿を。卑下してはならない。その姿は自分もそうなのだ。勇気どころか、呼吸一つさえままならないような有様になっている。情けないと思っているのは自分だけではあるまい。現に唇を噛んでいるのは一人のケイ妖士ばかりではない。ケイ妖導士にも、それに導士の中にもいるではないか。それでも、タイゲンのダイメイ士のように、導士ゴダンの前に決然と立つ者はいないのだ。それが無謀と思えたとしても。

 近くにあった庭石の一つを片手で容易に持ち上げるゴダン。イイには持ち上げられない。両手で抱えて踏ん張ったとしてもピクリとも動かないだろう。そんな岩とも呼べそうな石を、軽々と振りかぶり、アレに向けて投げ放った。風を切り裂く速さ。

「トウチ!」

 アレはヒョウゲンギホウを使った。飛んでくる石とアレの前後位置が入れ替わった。石は城壁にけたたましい音とともにめり込んだ。ほっとするイイの目に飛び込んできたのは、ヒョウゲンギホウを施したために、距離が縮んだアレに飛び掛かって行くゴダンの姿だった。一瞬にしてゴダンの剛腕が振るわれるリーチ内にアレが入ってしまった。トウチは使えない。位置関係を入れ替えても、今の一連の攻撃の手順を入れ替えたとしても、やはりゴダンの攻撃テリトリー内に入ることは変わりない。とすれば、

「タイゲンドメ!」

 しかない。一瞬よりも短い時間、制止したゴダン、そのすきに後方へ更なる跳躍を試みようとするアレ。ところが、

「レン・タイ!」

 ゴダンはカツヨウをもう一つ使った。制止は刹那、すでにヒョウゲンギホウをものともせず、いや、それどころかタイゲンドメに磁力で引かれるかのような拳がアレに振るわれた。交差した前腕をかすめた。それだけで熊の一撃以上の痛打である、苦悶になる。肘から袖にかけて上衣は切り裂かれたようになくなり、デバイスも粉みじんとなった。

「それではもはや外部との連絡はできんな」

 嗜虐的な笑いだった。

「まあ、もうそんな心配はいらんがな」


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